『友だちのパパが好き』山内ケンジ監督が語る、インディーズの方法論 「何かを崩壊させたい」

山内ケンジ監督が語る、インディーズの方法論

 ソフトバンク「白戸家」シリーズなど数々のヒットCMを手がけ、演劇ユニット“城山羊の会”の活動でも知られる、山内ケンジ監督の長編映画第2作『友だちのパパが好き』のDVDが6月7日にリリースされる。2015年に劇場公開された本作は、親友である妙子の父親を好きになってしまった大学生のマヤ(安藤輪子)、長年の愛人と一緒になるため離婚が決まっていながら、娘と同い年の女子大生に好意を寄せられる恭介(吹越満)、親友と父親の間で揺れる妙子(岸井ゆきの)らの関係を描いたラブストーリーだ。リアルサウンド映画部では、DVDリリースを記念して山内監督にインタビューを行い、演劇と映画との違いやインディーズ映画ならではの方法論について語ってもらった。

「コメディを書いている意識はほとんどない」

ーー本作が劇場公開されたのは2015年12月なので、約1年半を経て待望のソフト化となりますね。

山内ケンジ(以下、山内):劇場公開後もこれまで何度か映画館で上映はしていたのですが、「DVD出ないんですか?」という話はお客さんから結構言っていただいていました。それこそ昨年11月に公開された3作目の『At the terrace テラスにて』の舞台挨拶の時とかにも聞かれまして。観たかったけど観れなかった人もたくさんいたので、僕としてもやっとという感じですね。

ーー興行的には監督にとってあまり満足した結果ではなかったいう話も聞きました。

山内:そうなんですよ。僕自身はこれまで撮った3作の中で『友だちのパパが好き』が1番好きで、最もよくできた作品だと思っていて。1作目の『ミツコ感覚』がものすごい変わったマニアックな映画だったので、いや、自分では普通にいいドラマだと思ってはいるんですが、よく人にそう言われるので言いましたが、で、『友だちのパパが好き』はもっと間口を広げてみたつもりなんです。ところが思ったほどではなかった。なので、3作目の『At the terrace テラスにて』は逆に間口を狭めました。どうせ入らないのであればまた戻ろうと(笑)。

ーー確かに『友だちのパパが好き』は、“純愛はヘンタイだ”というコピーもピンクの色調のポスターもキャッチーな印象でしたね。

山内:「騙された」みたいなことも結構言われました。実際はドロドロしたシリアスな内容なのに、タイトルも含めてポップでキラキラ系なイメージにしたので、逆にシネフィル系の人たちから敬遠されたというのもなきにしもあらずというか。「この宣伝は失敗だったんじゃないか」と言う人までいました。でもそれはいろんな人に受け入れられるんじゃないかという希望の表れでもありましたから。

ーー作品はシリアスさとコミカルさのバランスが絶妙だと感じました。

山内:どの作品も基本はすごくシリアスなんです。ただ、あまりにもシリアスなので、会話の中にコミカルな部分が出てきて面白おかしく感じるということなんですよね。だから自分としてはコメディを書いている意識はほとんどない。とにかく何かを崩壊させたいというか。

ーー今回の作品の場合は“家庭”ですよね。

山内:そうそう。なので映画も演劇も普通にハッピーエンドのものを書いたことがない。演劇は特にそうなのですが、現代を描かないといけないと思っているんです。どれだけ現代を反映して長編のストーリーとして描けるか。(ベルトルト・)ブレヒトとかいうと大げさかもだけど、でも、もともと演劇は社会をそのまま反映させるという伝統があるわけですよね? 最近だと、震災や原発、あるいは高齢化社会や介護、もっと広げて世界情勢やテロリズムというような問題をダイレクトにテーマとして描いていくことが多い。とはいえ、僕はそのようなテーマをダイレクトに描くのはあまり好きではなくて。

ーーそれはなぜ?

山内:それが自分の中で、“ネタ”みたいになってしまうのがあまりよくないなと思っていて。具体的な事象はちょっと時間が経つだけで、情報そのものや捉え方も変わってしまうものだと思うんです。それを描くのはドキュメンタリーの世界なんじゃないかなっていう気がしていて。だから自分は、家庭のような半径何百メートルぐらいの範囲の話など、より身近で入り込みやすいものを通して、今の日本を描いていきたいと思っているわけです。そうすると、どう考えてもハートウォームだったり希望みたいな前向きな話に持っていくことはできなくなるんですよね。

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