『スモーク』製作総指揮・井関惺が語る、日本映画界への危機意識「中国行きの最終電車はもう出た」

『Smoke』製作者が語る日本映画界の危機

「お金がない日本の映画界には人が集まらない」

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ーー先ほど、本作のヒットの要因のひとつとしてミニシアターブームを挙げられていましたが、今はシネコン全盛期で、日本映画界を取り巻く環境も大きく変わっていますよね。現在の日本映画界をどう見ていますか?

井関:先日、中国を中心とした海外へ日本映画を輸出しようという政府による会合が行われたのですが、政府のやっていることなんて遅すぎると思ったんですよ。中国行きの最終電車はもう出ちゃいましたよ、と。それに、映画は政府の号令でやるものではない。おそらく、政府は中国と合作協定を結ぼうとしていると思うのですが、いま日本が合作協定を結んでいる国はカナダだけなんです。ほかの国とは結んだ試しがない。一方、お隣の韓国は10年前には中国に狙いを定めていて、役者や監督、資本家なども中国に行っているわけですよ。ところが、サード配置という国境を超えた中国と韓国の問題が起こってしまった。そのせいで、いま韓国人が中国の映画界から追放されてしまっているわけです。現在はその隙間が空いているので、日本も入り込める可能性が非常に大きい。だけど、日本にも尖閣諸島など、中国と対立する問題がたくさんあるからすぐ追い出されてしまいますよ。これは悪い意味ではなく、ハリウッドもそうですけど、みんな商売でやっているので文化交流なんて考えていないんです。もちろん結果的にそうなりますけどね。

ーー最近では、日本映画のガラパゴス化や資金面の問題など、是枝裕和監督が日本映画界に警鐘を鳴らすインタビューも話題になりました。

井関:それには僕もまったく同意見でした。是枝さんのおっしゃっている通りだと思います。映画監督だけではなくて映画プロデューサーにもお金が入ってきませんから。それは個人的に儲けようということではなく、お金がないところには魅力がないということなんです。魅力がないと、才能も集まらなくなってしまう。それは日本人に才能がないというわけではなく、漫画、音楽、ファッション、CMなどいろいろなところに才能は集まるけど、食っていけない状態が続いている映画界には残念ながら人が集まらないということなんです。だから個人的には、映画を当てて誰かひとりでも大金持ちになってくれればいいと思っています。そうすると、それをロールモデルにして、人が集まってくるようになるんじゃないですかね。変な言い方になりますけど、映画は勝負をして勝った人間が報われないというか、負けるケースが圧倒的に多いので。

ーーガラパゴス化というのも感じていますか?

井関:もう何10年も前からその通りですよね。ある特定の会社だけが食っていけて、どんどん肥大化しているわけですから、小さい会社はシェアを奪われてどんどん食っていけなくなる。『スモーク』公開当時にミニシアターブームがあったと言いましたが、その頃の配給会社の数って、せいぜい20社ぐらいだったんです。でも、この間調べたら、いま配給会社の数は200社を超えているんですよ。

ーーそんなに多いんですか?

井関:もちろん年に1本しかやらないような会社も含めてですけどね。それにしても多すぎると思います。僕は昔、シネマスクエアとうきゅうという、ミニシアターが注目されるようになったきっかけと言われる映画館の立ち上げの協力をしたのですが、始めるにあたって、当時ミニシアターの草分け的な存在だった岩波ホールの総支配人である高野悦子さんにご挨拶に行ったんです。そしたら、高野さんに「1日に3人しかお客さんが来ない日々が1年続きますが、我慢できますか?」と言われまして。我々もそういう時代を乗り越えながらようやくブームに乗ることができましたが、ブームに乗っかってたくさんのミニシアターができるわけですよ。すると、ミニシアター作品を配給する配給会社もどんどん出てきて、その配給会社から独立した人がまた新しい配給会社を立ち上げてどんどん増えていく。映画館が増えることによって邦画の数も増えていきますから、映画1本あたりの制作単価はどんどん下がっていくわけです。

ーーなるほど。

井関:先日、ジョリー・ロジャーという、1000万円以下で映画制作を引き受けることを売り物にしていた映画会社が倒産しましたが、1000万円以下というのは本当にスタッフはお金をもらえているのかというレベルなんです。実際、お金をもらえていなかった人もたくさんいたらしいですが。ですからそういう意味でもガラパゴス化というのは相当問題だと思います。でも、40年以上この業界で生きている僕らの責任というのもあるわけなんですよね。現状をちっとも変えることができなかった。いい歳して批判だけしているのもしょうがないので、本当に何とかしなければいけないなと。

ーー具体的にはどのような解決策があるのでしょうか?

井関:映画会社というよりも、サラリーマン会社の構造みたいなものが問題ですよね。その最大の原因である製作委員会方式をなくさないと、なかなか先に進めないんじゃないかと思います。ただあれはやっている人たちにとってはすごく居心地のいいシステムなので、なくなるとは到底思えない。だから製作委員会方式とは違った形で大儲けするような人が出てこないとなかなか難しいですよね。そういう意味では、21年前の『スモーク』なんかはすごくいい例だったと思いますよ。自分は今回のデジタルリマスター版の制作に携わっていませんが、21年ぶりにまたこうやって劇場で公開してもらえるのは嬉しいことですし、製作総指揮の立場としてもとてもありがたいなと。リアルタイムで観た人も、ソフトで観た人も、観たことがない人も、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『Smoke デジタルリマスター版』
12月17日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国ロードショー
監督:ウェイン・ワン
脚本:ポール・オースター
出演:ハーヴェィ・カイテル、ウィリアム・ハート、ストッカード・チャニング、ハロルド・ペリノー、フォレスト・ウィテカー、アシュレイ・ジャッド
提供:ポニーキャニオン
配給:アークエンタテインメント
1995年/日米合作/DCP デジタルリマスター/113 分/ヴィスタサイズ/字幕翻訳:戸田奈津子
(c)1995 Miramax/N.D.F./Euro Space
公式サイト:smoke-movie.com

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