地下アイドルがキスシーンに挑んだ結果は? 姫乃たま『あなたを待っています』出演を経て

姫乃たま、キスシーンを演じて

 しかし、私は小心者なので、一応関係者の人にこっそり相談しました。向こうも私が地下アイドルであることを知っていて心配してくれていましたが、作品のことを考えて話し合った結果、やっぱり映画をよくするために必要であるという結論になり、私は再び腹をくくったのです(遅いよ! 情けない!)。

 こうして私は、映画を良くしたい気持ちが、アイドル活動に支障をきたしかねないという、最高に不条理な状況に追い込まれたのです。不条理さでいったら、主人公の西岡と同等です。キスシーンは、クランクインしてすぐ早朝から行なわれ、相手の俳優さんに「朝一でこういうシーンってきついですよね……」と呟かれたまま始まりました。不条理な場面は、いつでも滑稽なものです。

 これだけ葛藤したものの、映画公開後は、今まで清純さで売ってきたわけでもなく、23歳という年齢のせいもあって、そんなにファンも過剰反応しないかと思いきや、反応する人は反応するもので、いろんなことがありました。特に、コアなファンの人達の心情は複雑で、微妙な顔もしながらも、「でも映画面白かった」「あのキスシーンは必要だった」と言ってくれて、「映画の仕事またして欲しいよ」「お仕事頑張れ!」と本当に笑顔で言ってくれた時は、つい泣きそうになりました。ごめんね、ありがとう。

 ライブの終演後にファンの人達とそんなやりとりがあり、だんだんファンの人も自分を納得させようとしているのか、申し訳なさそうな私を励ましてくれているのかわからない、なんともいえない空気が流れ、最終的には私もファンの人達も、哀愁漂う雰囲気にたまらず笑い出してしまいました。でも私達は本当に笑顔で別れました。結局、映画自体が面白かったおかげだと思います。みんなとはそれからも変わらず仲良くやっています。『釣れんボーイ』も『あなたを待っています』も、私の生活も、私のキスシーンを見させられたファンの生活も、不条理なものって最高に滑稽で、それが辛いけど時々、面白いんですよね。

■姫乃たま(ひめの たま)
地下アイドル/ライター。1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。
ウェブサイト ■ http://himeeeno.wix.com/tama
Twitter ● https://twitter.com/Himeeeno

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■作品情報
『あなたを待っています』
ポレポレ東中野にて公開中
企画・原案・アニメーション:いましろたかし
プロデューサー:松江哲明 山下敦弘
監督・脚本:いまおかしんじ
制作協力:ハリケーン企画
撮影:鈴木一博 
録音:弥栄裕樹
音楽:オシリペンペンズ
エンディングテーマ曲: 「めちゃくちゃ悪い男」坂本慎太郎
出演:大橋裕之、山本ロザ、守谷文雄、姫乃たま、悦子ママ ほか

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