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『N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン』インタビュー

漢&ダースレイダーが語る、日米ヒップホップ・ビジネスの違い 漢「N.W.A.の根本にあったのは、イージー・Eのストリートセンス」

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 ギャングスタ・ラップの草分け的存在として知られる米西海岸のヒッブホップ・グループN.W.A.の活動を記録したドキュメンタリー『N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン』のDVDが、6月3日に発売される。昨年公開され、記録的なヒット作となったN.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、ドクター・ドレーやアイス・キューブによるプロデュース作だったが、本作はイージー・Eに近しかった人物たちの証言によって、彼の人物像やビジネス観に迫るアプローチを採っている。鎖グループの代表・漢 a.k.a. GAMIと、その傘下レーベルであるBlack Swan代表・ダースレイダーに、本作が『ストレイト・アウタ・コンプトン』に対してどう位置付けられるのかを考察してもらうとともに、日米のヒップホップ・ビジネスの違いについて語り合ってもらった。

ダースレイダー「90年代の日本で彼らのような発想を持っていたら、もっと爆発的に売れている奴がいたかも」

――今作は、大ヒットした劇映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』ではあまりスポットが当てられていない、もしくは悪者とされていた人たちの証言によって、N.W.A.ーー特にイージー・Eの知られざる側面に迫ったドキュメンタリーです。両作を見比べてどう感じましたか?

ダースレイダー(以下:ダース):『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、ドクター・ドレーとアイス・キューブの視点から作っていて、特にふたりはメンバーの中でもうまくいっている奴らだから、当時のことが“黄金の日々”のように描かれている。たぶん、彼らがいま振り返ると、こう見えるんだろうなっていう。でも、僕はD.O.C.というラッパーが好きなんだけれど、彼はキューブが抜けたあとにN.W.A.で活躍するから、この映画ではあまりスポットが当てられていないんですよ。ドレーがいやに生真面目な音楽青年みたいに描かれているのも、さすがにどうなのかなと思った(笑)。キューブの息子はだいぶ顔が本人にそっくりで、そういう素敵なところもたくさんあったけれど。事実をもとにした映画はやっぱり、誰の視点から振り返るかで変わってきますよね。ドキュメンタリーの方は、まさに『ストレイト・アウタ・コンプトン』で描かれた面白い物語の“B面”という感じなので、合わせて見ると面白いんじゃないかな。ちょうどいまはN.W.A.のCDも再発されているし。イージー・E側の視点から描いているから、彼がだいぶ良い奴として描かれているのも面白い(笑)。

漢 a.k.a. GAMI(以下:漢):あまりに良い奴すぎて、温度差にすごいびっくりしたよ。噂に聞くところだと、そんなにいい奴って感じではなかったからね。ただ、「お前が頑張れば頑張るほど、俺にも(金が)入ってくるから」ってスタンスで周りに接していて、そういうところは嫌な奴なんだろうけれど、結局みんなから愛されているキャラではあったのかも。

ダース:そうだね。ドレーが売れて、自分のことをディスっても結局は金が入ってくるから、どんどんディスってくれっていうスタンスで、その立ち振る舞い自体がイケてた。

漢:ドキュメンタリーで彼を見ている感じだと、多分、本当にそうだったんだろうね。ラッパーとして自力で頑張ったりもするんだけど、レコーディングに何時間もかけて2小節とか1小節やっと取れるみたいな。我々も見たことのある光景で。

ダース:うん、見たことある(笑)。もうできた? みたいな。朝4時過ぎに、ようやく最初の小節ができましたって感じで。

漢:ラッパーである前に商売人なんだよな。そこがやっぱりアメリカと日本の違いでさ、ヒットしてこれで大金持ちになろうという発想が良しとされている。

ダース:ストリートでブツを捌いていると危険が多いけど、ラップだったらあまり危ない目には遭わないで金になるんじゃないの? っていう発想自体、日本では出てこないよね。アメリカの場合、ショービジネスとかも含めて、ステージに上がって金を稼ぐことができる土壌があって。LAの小さなクラブでショーをやっていても、一応はオーナーが自分の生活を回せるくらいには稼げる。ドレーとイェラが所属していた、着飾って甘いディスコやR&Bをやるクルー・The World Class Wreckin’ Cruなんかは、まさにそんな感じで。レコードがヒットしていなくても、オーナーのロンゾ・ウィリアムスのビジネスが成立するくらいの裾野の広さはある。それを見て、イージー・Eが自分ならもっとヤバい音楽で稼げると考えたこと自体がアメリカ的だよ。90年代の日本語ラップだと、特にアンダーグラウンドのシーンはピュアでストイックだったから、ビジネス的な部分より音楽的な面でのクオリティや精神性が重視されていた。もしその時に、彼らのような発想を持っていたら、もっと爆発的に売れている奴がいたかもしれない。

漢:いま思うと、当時の日本語ラップではEAST END×YURIの「DA.YO.NE」とか、スチャダラパーの「今夜はブギー・バック」がヒットしたわけで、一般の人が聞いても分かりやすく共感できる内容だったから、ヒップホップが好きな連中からすると「なに言ってるの?」って感じだったけれど、実際にアメリカのラップの売り方に近かったのは彼らの方だよね。

ダース:日本では「DA.YO.NE」みたいな曲を歌う方が、ビジネス的なセンスは一枚上手だった。紅白にも出演しているし。アンダーグラウンドでは、実際にアメリカのラップで歌っているようなトピックスを歌おうとしていたけれど、それもファンタジーだったし、日本でどう売っていくかというところはあまり追求されていなかったと思う。イージー・Eは当時、自分たちのことを過激に歌ったら金になりそうだと考えて、服装なども含めていろいろ考えて、あのスタイルを生み出した。要は自分の美学に則ったというより、ストリートで物を売って稼いでいたセンスを活かしたら、結果的にああいう風になったわけで。

漢:ドクター・ドレ―はもともと、キラキラの服着てやっていたわけだから、オリジナルじゃなくて便乗型だよね。イージー・Eのおかげで「俺らはなんてカッコをしていたんだ!」って気づいた。結局のところ、根本にあったのはイージー・Eのストリートセンスでしょ。だからヒップホップという音楽は、別に音楽の技術とかスキルとかキャリアだけの話じゃなくて、ストリートの視点とか服装とか、そういうものも大事なんだよ。

ダース:N.W.A.がうまくいったのは、人の巡り合わせや運もあるよね。たまたまそのときにいたドレーが、実は音作りの天才的な奴だったり、アイス・キューブが超ヤバい歌詞を作る奴だったり。大きくブレイクする奴らには、ある種のタイミングがあって、集まってきちゃうんだよ。このグループにはそういうマジックが度重なって起きて、それで“世界一危険なグループ“という紹介をされる。

漢:でもそのキャッチコピーってさ、どこの国でもそうだと思うんだけど。こいつらが言い出したことではないんだよね。こいつらを売り出そうとするメディアとかが勝手に言い始めて、それを演出としてうまく乗りこなしていく感じ。このドキュメンタリーではイージー・Eがマシンガンをいじるシーンがめちゃくちゃ出てくるんだけど、それもイメージを作るためだったんだろうね。

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ダース:マシンガンのシーンは映像として使えるから、このドキュメンタリーでは使い倒している。忘れた頃にまた出てきたりして、困ったらマシンガン出しておけって感じ(笑)。その辺も商魂の逞しさを感じるよね。ヒップホップはリアルを歌うものってよくいうけれど、イージー・Eがちょっと違っていたのは、それをちゃんと金にしようとしたところ。『ストレイト・アウタ・コンプトン』ではあまり描かれなかったけれど、イージー・EはN.W.A.の後、ボーン・サグズン・ハーモニーをプロデュースして、めちゃくちゃヒットさせたりしている。N.W.A.を辞めた後も全然落ちぶれていない。

漢:だろうね。

ダース:ところで、俺の友人のとあるラッパーの話なんだけど、ボーン・サグズン・ハーモニーが沖縄でライブをすることになって、先輩にその来日公演を仕切れって言われたことがあって。そうしたら40ページにわたる英語の契約書が送られてきて、全部に目を通してサインを送り返してほしいっていうんですよ。ヤバい、どうしようってパニクっていたら、ボンサグのメンバーが逮捕されて来日できなくなって、心底「良かったー、あいつらがサグすぎて助かった」ってみんな胸を撫で下ろしたという(笑)。まあ、アメリカだと、それもエンタメとして商売になる可能性があるんですよ。話として面白ければ良いって感じで、言ってみればエンタメに対する許容範囲が大きい。でも日本だと、まず倫理的にちゃんとしていることの方が先にきちゃうから、音楽でそういう表現をするのは難しい。

漢:日本の、特に今のテレビとかは厳しい状況だよ。ヒップホップに対する業界の見方も、不良だった人が更生して、今は音楽をやってるんでしょ? みたいなさ。いくらヒップホップが流行したとしても、俺とかが表立っていろいろ言ったら絶対にクレームが来るから。親とかからしたら、自分の子が不良に憧れたら困るし、最初からそういうものの影響を受けさせないでまともにいかせたいんだよ。テレ朝の『フリースタイルダンジョン』も、タトゥーを映さないようにしたりして、相当に入り口を狭めている。かっこいいし、真似しちゃうからね。もし日本でタトゥーを出すなら、ものすごくみんなから認められているアーティストじゃないとダメ。

ダース:それか、外国の方とかね。日本はエンターテイメントという側面から見ると歪だと思う。その点、この映画を見ると、アメリカは許容量が広いのがわかる。アメリカだとペアレンタル・アドバイザリーっていう、保護者の指導が必要な音楽作品に付けられる勧告のマークがあるんだけれど、むしろそれを付けられた方が箔がついてかっこいいって、逆に利用しちゃったり(笑)。うるさい人はアメリカにもいるんだけれど、それに対抗する術があるというか、不良側の意見もちゃんとある。こんな風に人前でマシンガンをちらつかせる人たちの音楽は聴かせたくないというのは、正常な反応だと思うけれど、それですべてが無しになるわけではない。彼らはそこで起きた議論を、また商売になるって利用しちゃうし、なんなら内輪揉めまでエンターテイメントにしてしまう。

漢:“お絵かき”が本当に好きな感じで、実際にそれをやっちゃっている感じがあるよね。

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