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宇野維正の『イット・フォローズ』評

2016年最初の大傑作! ホラー新時代到来を告げる『イット・フォローズ』を激推し!

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 デトロイト郊外の寂れた住宅街の道路をシンメトリカルに捉えた遠景ショット。鉛のように重たい空の色。風に揺れる電線。そんな寒々とした風景の中、何かに怯えながら半狂乱で逃げ回る少女。年間何百本も映画を観る生活を30年以上続けていると、その作品を自分がどれだけ好きになりそうか、オープニング数秒で判断できてしまう。で、そのオープニング数秒の個人的期待値において、2015年(試写で観たのは昨年です)の年間最高値を記録したのがこの『イット・フォローズ』だ。そして、なんとその最初に振り切れた期待値の針は、上映時間100分間、一瞬も揺れることなく最後まで振り切れたままだった。昨年末に当サイトで発表した自身の年間ベストには「2015年に日本で公開された作品」という縛りがあったので入れられなかったが、もし「2015年に観た作品」でランキングをつけたら間違いなくトップ5に入れていた。そのくらいヤバい作品なんですよ、この『イット・フォローズ』は!(参考:年末企画:宇野維正の「2015年 年間ベスト映画TOP10」

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(c)2014 It Will Follow. Inc.

 監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルはデトロイト出身の41歳。ずっと映画業界の端っこで予告編の編集などを仕事としていて、2010年にティーン映画の秀作『アメリカン・スリープオーバー』で監督デビュー。これが2作目の長編作品にして、初のホラー作品となる。2015年3月、アメリカで4館のみでひっそりと公開された本作は、その評判がSNSや口コミで瞬く間に広がっていき、最終的には全米1665館で拡大公開されてスマッシュヒットを記録。「ホラー映画」というジャンルを超えて世界各国の批評家からも賞賛を集め、ニコラス・ウィンディング・レフン監督(『ドライヴ』『オンリー・ゴッド』)は本作を観た後に、自身が運営するレーベルからサントラのアナログ盤をリリースするほどの入れ込みよう(そのあたりの詳しい経緯は劇場パンフレットに書きました)。騒いでいるのは自分だけじゃないのですよ。

 『イット・フォローズ』が圧倒的に斬新な作品である理由は、大きく分けて二つある。まずは、「ホラー映画」としての斬新さ。登場人物のティーンたちがテレビで観ている『宇宙からの暗殺者』(1954年)、主人公の女の子がデートで行く映画館でかかっている『シャレード』(1963年)といった画面上における直接的な引用(念のために言っておくと、登場人物たちはスマホやタブレットを使っているので舞台は「現代」の「アメリカ」である)のほかにも、ジョン・カーペンター、デヴィッド・リンチ、デヴィッド・クローネンバーグらの作品からの強い影響を隠そうとしていない本作は、しかし近年増えている若手監督による70〜80年代ホラー/スリラーのオマージュ的作品とは一線も二線も画している。00年代以降、世界各国のホラー映画におけるJホラーの影響は見過ごすことができないものとなっているが、本作で注目すべきは、その代表的作品である『リング』の「呪いのシステム」を大胆に更新してみせているところだ。

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(c)2014 It Will Follow. Inc.

 『リング』の「呪いのシステム」。つまりは、ビデオテープを媒介として呪いが世界中に無制限無差別に広がっていくというアレ。「禍々しい何かがある行為によって感染する」という設定自体は、それこそ往年のゾンビ映画やボディ・スナッチャー映画でもお馴染みのものではあるが、本作が「Jホラー以降」を強く意識させるのは、そこに「呪い」の概念が強く入っていること。「感染」と「呪い」の違いは、何らかの手段によって「解く」ことができるかどうかだ。一般的な「感染」を描いた作品は「感染すること」への恐怖が物語の軸となるが、『リング』の物語が優れていたのは、「呪われる」ことよりもむしろ「呪いを解く手段」にまつわる苦しみや悲しみ、要は恐怖の先にある人間の倫理観にまで踏み込んだところにあった。『イット・フォローズ』が描いているのは、まさにそれ。しかも、呪いのシステムはあろうことかそのものズバリ「性行為」を媒介としている。しかし、これを性病やAIDSのメタファーとするのは誤りだろう。なぜなら、その「呪い」は(通常の性病感染がそうであるように)不可逆なものではなく、そこにはとても残酷で切ない「解く手段」が用意されているからだ。

     
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