曽我部恵一×若林恵×柳樂光隆が語り合う、音楽を支援する存在の重要性 配信時代の“届け方”とは?

曽我部恵一×若林恵×柳樂光隆鼎談

 6月8日~10日、東京・渋谷にて“都市と音楽の未来”をテーマにしたスペースシャワ―TV主催の音楽カルチャーの祭典『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2018』が開催された。同イベントでは、映像や空間演出などのクリエイターとアーティストがコラボレーションしたスペシャルライブ『LANDSCAPE –SHIBUYA 2018–』や、オルタナティブな感性を持った新進気鋭のアーティストが集合した『SCRAMBLE』などが行われた。様々な視点から、今の音楽シーンの充実を伝え、メジャーシーン以外のところでも活躍する注目のアーティストをフックアップする役割を果たす、意義あるイベントとなった。

 その一環として、6月8日には、世代や国境を超えて人を繋ぐ音楽カルチャーの力を伝えるトークイベント『TMO SESSIONS』が開催。各界のオピニオンリーダーが集結し、都市と音楽にまつわる濃密な議論が行われた。今回、リアルサウンドでは、<ROSE RECORDS>を主宰する曽我部恵一、元『WIRED』日本版編集長若林恵、ジャズ評論家の柳樂光隆が登壇した第一部「都市と音楽の未来 ~あたらしい届け方~」の一部模様を編集、再構成してお届けする。海外の音楽教育や音楽を“支援”する立場の重要性、そしてこれからの時代の音楽ビジネスのあり方について語られた。(編集部)

音楽シーンには“情熱を持っている裏方”が必須

若林:今の音楽業界にはお金周りのプロフェッショナルや、ビジネスを開発できる人間が圧倒的に足りていないと感じます。ミュージシャンになるだけが音楽への関わり方ではないので、若い人たちが経済学部や法学部を出て、音楽家をサポートするエンターテインメント・ロイヤーや、ビジネスデベロップメントをできる人間になることはすごく重要だと思うんです。そういう人たちができるだけ他の業界に行かないでいられる仕組みがうまく開発できると良いな、と。

曽我部:今は大きいレーベルや会社に所属せずに、個人で音楽を配信したりしているアーティストも多いから、そういう人は特に個別に弁護士さんがいるべきだなと思います。権利ってすごく複雑で、契約書をパッと読んでもよくわからないから、何となく印鑑を押しちゃうんですけど(笑)、それで出版権などを取られてしまうこともある。だからそういう時も弁護士さんとセッションして契約書を変えてもらったりすることが、音楽で食っていくためには一番大事なことかもしれません。でも音楽業界では、メジャーデビューの喜びが先になってしまって、詳細な契約内容の確認が甘くなってしまう風潮がある。

若林:相手は大きいコーポレートで、法務部があるわけですもんね。

曽我部:こちらはヘタしたら、10代とかハタチそこそこの子供ですから。

若林:曽我部さんは、これはちょっとやられたかも! といつの段階で気付かれるんですか?

曽我部:ライブで自分の曲を歌っても、その権利をよその出版社が持っている場合はそこに1回お金を払わなきゃいけなくて、その出版社を経由して自分にお金が入ってきたり。そういうのはめんどくさいんですよね。だから自分で全部権利を持っておくのが楽なんですけど、僕もそれが分からない時期がありました。何となくやっていくうちに理解して、僕はラッキーなことに「騙された!」と思うことはありませんでしたが。

若林:僕の個人的な考えとしては、ミュージシャンは本当に才能のある人がちゃんと残っていく仕組みであるべきだと思うんです。そのためには、情熱を持っている裏方がどれだけいるかが重要な気がします。“才能をわかる”のも1個の才能だし、経験なので、その才能を持っている人間がミュージシャンの側についていないといけない。

柳樂:アメリカのバークリー音楽大学にはマネージメントの学部があるんですよ。クエストラブがやっている<Okayplayer>というヒップホップ、R&Bを中心としたレーベルのジャズ部門<REVIVE Music>では、最初はミュージシャンを志して入ったバークリーの卒業生が、マネージメントにルートを変えて、そこでロバート・グラスパーなどを見つけてサポートしたのが今のシーンに繋がっているという話もあります。アメリカは教育も含めて、環境が整っていますよね。

曽我部恵一

都市の支援が音楽を育てる

若林:今年の『サウス・バイ・サウスウエスト』で聞いたセッションでは、“これからの都市の最大の問題は孤独である”という話をしていました。都市にいる人たちの孤独を癒すソリューションを、行政からも民間からも作っていかなきゃいけない。でも例えば、東京でそれをやるとなると、あまり音楽に詳しくないような東京都の職員が来ちゃう。だけど本当はもう少し音楽文化に明るい人たちがやることが重要じゃないですか。中国の深セン市の文化特区のような場所に、変わった本屋さんがあるんです。日本の60~70年代の写真集を置いていたり、アメリカからジャン=ポール・ブレリーを呼んだりするような場所です。僕の知り合いが店主に、「よく行政がこんなこと許してるね」と言ったら、「いやいや、行政の担当者は俺らなんかよりもっと詳しいので」って。そんなやつが行政にいるんだ、と思うと中国はおそるべし存在ですよね。日本でも、音楽が好きで大学でも散々音楽サークルで頑張っていたような人が、例えば都庁に入って、そこで音楽にまつわる仕事ができると本当は良いですよね。

柳樂:ニューヨークだと、街全体で音楽をうまく育てようという意識が強くて、結構すぐ話が通るらしいです。最近、サウス・ロンドンが音楽的にホットですが、それはロンドンが金銭的支援をしたのがきっかけで。無償で子ども達にジャズを教えたりしているんです。8月に来日公演を行うCOSMO PYKEも、そのサウス・ロンドン出身のシンガーソングライターです。

若林:日本でやると、すごく教育的になってしまうんですよね。これまで、音楽鑑賞は1個の教養だと思われていて、一種の大人の嗜みとして機能していた。そうではなくなりつつある今、音楽を聴く理由や音楽家がいる理由に答えを出しづらくなっている気がします。海外だと、自分たちとは全く違う才能を持った人間がいることはすごく価値があって、オリジナリティのある人、ユニークな人を皆で支えています。

曽我部:根本にそういう考え方があるから、音楽の育成が成立するんでしょうね。

若林恵

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