4thシングル『Jewelry』インタビュー
早見沙織が『CCさくら』エンディング曲に込めた工夫 「ゴスペル的なアプローチを意識しました」
早見沙織が、『カードキャプターさくらクリアカード編』エンディングテーマとして作詞・作曲した「Jewelry」を表題曲としたシングルを3月28日にリリースした。同曲はアニメの物語にもマッチしつつ、これまで早見が個人名義で歌ってきた楽曲には珍しい、晴れやかで明るい歌声を聴くことができる。
リアルサウンドでは今回、早見にインタビューを行い、楽曲制作の経緯や早見が思う『カードキャプターさくら』に込められたメッセージと、「Jewelry」で表現した新たな一面、作詞の特徴などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)
「ゴスペルソング的なアプローチを意識しました」
ーー『カードキャプターさくら』世代としては、早見さんが『カードキャプターさくらクリアカード編』エンディングテーマを担当するというニュースに驚きました。
早見:色んな方からも同じようなことを言われました。特に2〜30代の方は、女性も男性も観ていたという方が多くて。
ーー男女問わず通ってきた人は多い名作です。前作からの変化も面白かったですよね。1話で早速「ローラーブレードを使ってない!」と時間の経過に驚かされたりして。
早見:ローラーブレード! ありましたねー。あと携帯電話がスマートフォンになってたり(笑)。
ーーそれもありましたね。とはいえ、作品自体が持つ魅力には普遍的な変わらなさがあって。オープニングテーマの坂本真綾さん「CLEAR」(作曲はいきものがかり・水野良樹)も、早見さんの「Jewelry」もすごくポップで。
早見:そうなんです。すごくポップな曲にしました。
ーーでも、驚かされることも多い一曲だったので、その辺りを掘り下げていければと。早見さんはご自身で作詞作曲をすることも多いですが、3rdシングル『夢の果てまで』表題曲は竹内まりやさんからの提供曲でした。久しぶりにアニメのタイアップ曲を書くにあたって、意識した部分はありますか。
早見:『カードキャプターさくら』はとても影響を与えてくれた作品だったので、緊張は大きかったですが、そのぶん浮かび上がってくるキーワードも多くて。初めてのタイアップに挑戦した「やさしい希望」では作品を意識しすぎた結果、キーワードの寄せ集めみたいになって書き直した経緯もあったので、今回はそこを忘れずに、作品の曲ではあるけど、個人名義の歌としても成り立たせることに気をつけました。
ーー書くことがたくさんある作品で重圧もある、となるとつい気合が入りがちですが、実際の音源を聴くと伸びやかに歌っていて、良い意味で力みは感じられないですよ。言葉数も少ないぶん、リラックスして聴こえますし。
早見:そこは意識的にシンプルかつストレートにしました。言葉も暗喩は使わず、子供が読んでもわかるようにしつつ、『カードキャプターさくら』の持つ“ちょっと背伸びした感じ”も入れたかったので、少しだけわかりそうでわからない言葉も入れつつ。
ーーなるほど。『カードキャプターさくら』を題材にして作詞をするとなると、色んなところをオマージュできると思うのですが、なぜ「Jewelry」という言葉が出てきたのでしょう?
早見:自分が『カードキャプターさくら』を見ていた世代として、「あのとき受け取ったものはなんだろう?」と考えて書き出していって。最終的には信じることや絆の大切さだったなと。当時はそこまではっきりわかってませんでしたが、いま思うと「本当に良いことを言ってたな」という部分が多かったので。そのうえで、あの当時ワクワクした、胸が高鳴ったものって何かなと考えると、ピンクやキラキラしたもの、お菓子のオマケとかについているような指輪にときめいたりしたなと思って。そのときにカタカナの「ジュエリー」という言葉が浮かんで、タイトルはそこから決めていきました。
ーー子供ながらにわかったことと、大人だから気づけたこと、というのは確かにありますし、作品自体がそういう二面性を持っていますよね。早見さんの今までの歌詞って、ご自身で書いたものも、提供を受けたものも、大人っぽい曲が多かったイメージがあるんですよ。でも、この曲は全世代にも届き得るという意味では、新しいトライな気がして。
早見:確かに。アニメのスタッフさんからは「ハッピーで楽しい曲」というキーワードをいただいていて、言葉自体をストレートにしようと思ったのは、曲自体がそうだったから、という感じですね。そんなに捻らないほうがいいかなと思って。
ーー曲の話が出たので、そのあたりも聞かせてください。A〜Bメロ前半までは普遍的なポップスなのに、次第に歌の重心が後ろにもたれていって、サビで一気にソウルフルな展開になっていく、という構成には思わずニヤついてしまいました。
早見:はー、嬉しい。ソウルミュージックもそうですし、教会で歌われているゴスペルソング的なアプローチは意識しました。J-POPとして成立させるので、それを100%踏襲はしてないんですけど、サビは難しめに作っています。元のデモから転調のバランスを調整して、ガツンと響くような感じにしたら、必然的に下は低く上は高く、歌う側としては難しくなっちゃいました(笑)。
ーーその甲斐あって、すごく気持ちよく切り替わっていると思います。今回は倉内達矢さんが編曲にクレジットされていますが、いつも通り早見さんが鍵盤主体で作って、細かいアレンジとリズム周りは倉内さんが、という感じでしょうか。
早見:そうですね。ピアノを跳ねてる感じに変えたり、リズムを細かく刻む感じにしてくださったり、倉内さんのアレンジによって、より明るく開放的になりました。
ーー倉内さんを編曲に迎えるのは1stアルバム『Live Love Laugh』の「水槽」「LET'S TRY AGAIN」ぶりですが、早見さん作曲では初めてのタッグとなります。リズムは早見さんが元々ルーツとしてきた音楽に寄り添っている印象ですが、具体的にオーダーを出しましたか?
早見:いや、無意識にそうなってましたね。私の楽曲のなかでは底抜けに明るすぎたので、一瞬お蔵入りしかけたくらいの曲なんですけど、その明るさの正当性を『カードキャプターさくら』が生み出してくれました。アニメのエンディング映像に合わせて楽曲が流れたのを見た時、「ああ、君はここに行きたかったんだね」と納得したんです。
ーーということは『カードキャプターさくら』に当てて作っていた曲ではなかった?
早見:そうなんです。偶然この曲のアレンジを倉内さんからいただいた直後に、プロデューサー陣が『カードキャプターさくら』へ提案する楽曲を決める会議があって。「この曲を提出してみようと思うんだけどどう?」と聞かれて、すごく驚きました。結果的にエンディング曲になることが決まって、作品に合わせて歌詞やアレンジを整えていったんです。
ーーなるほど。シングルとしては、これまでのなかでも底抜けにポップな曲を表題曲とした作品なので、早見さんのディスコグラフィーにもまた違った色味が加わりましたね。早見さん自身もより広いところに届けたいというモードになっていますか。
早見:そうですね。前作と今作はこれまでと全然違うものですけど、意図的にそうしたわけではなくて。色んな曲を作る中で「明るい曲を作るぞー!」と思ってできた曲が、こうして表に出ることによって「幅が広がったな」と感じさせられます。
ーーそういえば、早見さんの作る歌詞って言葉数が少ないですよね。特にアニメの主題歌だと、情報量や音数、キメが多くなることで言葉数も増えがちなんですけど、ご自身で曲もコントロールしてるからなのか、言葉数が極端に少ないという印象があって。
早見:あー……確かにそうかも! まさに今日と明日でどこに使うかもわからない新曲たちを作っているんですけど、意図的に音を詰め込んだものに挑戦していて、言葉が詰め込めなくて作詞に苦戦してるんですよ。
ーーもしかして、曲を聴きながら書くというよりは、弾き語りしながら作詞してませんか? 早見さんの歌唱法は溜めたり伸ばしたりすることが多いので、必然的に言葉数も少なくなるのかなと。
早見:まさにそうなんですよね。なるほど……面白い(笑)。私が作る曲って、8割くらいはサビだけ、Aメロだけと部分的に作っていくことが多くて、曲と一緒に無意識下でわけのわからない文章が出てくるんですよ。意外とそれを採用することも多くて。前作カップリングの「SIDE SEAT TRAVEL」のBメロに関しては、思いついた言葉がほぼそのまま残ってますね。
ーー〈背中の嘘を暴かれるな あの街はもう rainy〉と散文的になっているところですか。
早見:そうです。降りてくるなんてかっこいいことは言えないんですけど、パッと音に引っ張られて言葉が出てきたりします。