早見沙織が“歌”を通して見つけた表現方法 声優界随一の歌唱力はいかにして育まれたか?

早見沙織が“歌”を通して見つけた表現

 声優として映画『聲の形』で主演・西宮硝子の声を務めるなど、2016年も大きな飛躍を見せた早見沙織。彼女は2015年8月にアーティストデビューを果たし、2016年5月には1stアルバム『Live Love Laugh』、12月21日には1stミニアルバム『live for LIVE』をリリースした。リアルサウンドでは今回、早見にインタビューを行ない、彼女の類いまれなる歌唱力が生まれた理由や、自身初のツアーに向けて制作された楽曲から生まれた『live for LIVE』、そして早見にとってのライブや自身も携わる楽曲制作の裏側についてじっくりと語ってもらった。(編集部)

「キャラクターと自分らしさの間にどう落とし込むか」

ーーリアルサウンド初登場ということで、まずは声優である早見さんが音楽と触れ合ったきっかけについて訊いていきたいのですが、もともとジャズボーカルを習っていたそうですね。

早見:そんなにしっかりやっていたわけではなく、母が習っていたのに付き添っていたら、先生が「沙織ちゃんもせっかくだから歌っていったら?」と誘ってくれて。ジャズを習うよりもずっと前から歌うことが好きで、記憶にないくらい幼い頃から、公共の場で流れている曲に合わせて歌っていたそうです(笑)。母もその頃から歌い方を教えてくれていて、車の中で流しているカセットテープに合わせて私が歌って、音程を間違えたらその部分まで巻き戻して、ということもやっていました。でもそれは苦だったわけではなく、楽しくて楽しくて仕方なかったんです。

ーーなるほど。ジャズボーカルの話はいろんなところで訊くのですが、それ以外にも様々なジャンルの歌を勉強していたのではないかという歌唱法だったので、謎が解けました。

早見:母はジャズを習いに行っていましたが、パンクのようなノリノリな音楽も好きなんですよ。だから私も家ではジャズをたしなむというより、ライブハウスには母の繋がりで先生やプレイヤーさんが参加しているところに遊びに行く感じ。だからそこまで詳しくはないんです。

ーーインタビュー前にサイトの紹介をした際、TOPページに掲載していたデヴェンドラ・バンハートの記事に反応していましたが、この辺りの音楽も聴くというのは意外です。

早見:割とジャンルレスに色々聴きますよ。音楽サイトや動画サイトでたまたま見たり聴いたりしていいなと思ったらすぐ買っちゃうタイプなので(笑)。デヴェンドラ・バンハートも「アブソファクトが良いな」と思っていたら関連に出てきた、とかそういう感じだったと思います。

ーーアブソファクトを聴くという時点で尊敬に値します。さて、早見さんは2015年に『やさしい希望』でソロデビューを果たしましたが、それより以前にもキャラソンではたくさんの音源を残していますよね。個人的に今まで色んな声優さんやアニメを見て来た中で、ここまでソロ歌手デビューを待ち望まれる声優さんっていなかったなと感じていて。

早見:いやあ、そんな、恐縮です……(照)。

ーーもちろん、声優としての研鑽を積みながら学業に勤しみ、キャラソンを歌うということも経験しなければここまでのキャリアにはならなかったと思うのですが、キャラクターになりきって歌うことで得た経験値というのは、ジャズのそれとは大きく違うわけですよね?

早見:ベクトルは全く違いますね。キャラクターになりきって歌うのと、自分自身がそのまま歌うのでは全く感覚は別で。キャラソンだと歌詞もメロディも、歌い方の面においても、そのキャラクターらしさを追求して、レコーディング現場でもどこまで近づけるかというのを相談します。とはいえ、やはり私が歌っていると早見沙織らしさが出てくる部分もあるので、キャラクター然として細やかに作っていくものもありつつ、キャラクターと自分らしさの間にどう落とし込むかも常に考えていました。その甲斐もあって、表現の雰囲気について考えることができるようになったので、貴重な経験だったと思います。

ーー声優としての仕事も歌手として歌うことも、ともに“演じること”だと思うのですが、そこは早見さんの中で共通する部分はありますか? それともハッキリ切り分けているのでしょうか。

早見:レコーディングは少し違うかもしれませんが、ライブについてはその二つの共通点を感じる部分はありますね。それは今回のミニアルバムを作ったことで自分自身を俯瞰で見れて「あ、こんなに差があるんだな」と気付いたんです。レコーディングはブースに籠って突き詰める感じで、ライブは目の前に人がいるし、広がりのある空間で、その時にしか生まれない歌い方が引き出されたりするので。

ーーこれまで1stアルバムは『Live Love Laugh』(2016年5月リリース)、今回のミニアルバムが『live for LIVE』と、「Live」という文字を多用してきました。前者に関しては「生きる」という意味での使い方だったようですが。

早見:『Live Love Laugh』は、自分がこれから生きていくなかで、歌手活動の一番初めにどんなことをやっていたのかを立ち帰れる場所にしたいということで、自分自身へのメッセージ的な意味も込めて、このタイトルにしました。『live for LIVE』はツアー用に作った楽曲をミニアルバムにするという一連の流れがあって、関連したタイトルがいいなという話になりました。ライブの思い出もあるし、関連性もあるし、ライブでやった曲もライブの音源も入ってますし、「ライブに生きる」という意味にしてもいいかもと。

ーーある種の決意表明のように感じるタイトルですよね。作品自体はライブ映像とライブ音源があるので、ミニアルバムということを忘れてしまうのですが(笑)、先ほど話したように、リリースは考えず、まずはツアーを意識して作ったらパッケージ化の話が付いてきたということでいいのでしょうか。

早見:そうです。作っている時は作品としてリリースすることは全く考えてなくて、気がついたら入れようと。

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ーー作品全体としては、バラエティ豊かだった1stアルバムに比べて、全体的に抑えめなトーンで、大人っぽい一面が前に出てきているイメージです。

早見:そうですね。アルバムを携えたライブに向けて足りないところを補完していったなかで出来た楽曲たちなので、必然的にそうなったのかなと。大人しめの雰囲気もありつつ、「みんながリズムを刻みたくなるような曲が欲しいね」という話になって「ふりだし」を作ったり、以前からあった「雨の水平線」を収録したりと、『Live Love Laugh』のプラスアルファというほうが正しいかもしれません。

早見沙織_ふりだし

ーーなるほど。「ふりだし」は曲調だけでなく、早見さん自身が手がけた歌詞やタイトルも面白いなと感じました。「ふりだし」というワードはどちらかというとネガティブに感じるのですが、この曲では四つ打ちの軽快なビートに乗せて、明るく歌われている。歌詞もリスタート・リフレッシュという意味合いが強いですよね。

早見:この曲は本当に最後の最後までアレンジや歌詞で試行錯誤していたんです。もともとは1番のAメロBメロが倍くらいあって、それが同じものを繰り返すような構成だったんです。だから行って戻って、振り出しに帰ってくるというイメージだったので、歌詞の内容もタイトルもその方向で書いていきました。ライブに合わせてその倍だった部分をカットしたのですが、歌詞は何も変えていないんです。でも、行って戻っての楽曲だったから不自然にならなかったという。

ーー往復の回数が変わってるだけなんですね。 「雨の水平線」に関しては、作詞に加えて作曲クレジットにも早見さんの名前が入っています。この曲はどのようにして制作を?

早見:もともと『Installation/その声が地図になる』(2016年2月リリース)というシングルの製作時に両A面の楽曲を矢吹香那さんと一緒に作ったのですが、その際に「こんなのもあります」と提出した1番の歌詞とメロディを、ライブ用に膨らませてもらったのが「雨の水平線」です。

ーー音源のバージョンでは、よりビートも硬質になっていて、ひんやりして聴こえました。そしてリード曲の「Secret」は、早見さんの代表曲と言っていい「ESCORT」の延長線上にあたる、ジャジーでアップテンポな楽曲ですよね。

早見:「ESCORT」はコンベンションライブで歌った時に、ずっとお世話になっているお仕事の関係者の方が「あの曲良かったから聴きたい!」と次々に言ってくださって。だったら、ライブにあわせてこの路線でもう少し幅が出せるように、曲を増やそうと思いました。それ以外の楽曲も、自分的に好きな曲調や雰囲気を一つひとつ形にしていくようなイメージだったんです。

ーーあとは「eve」もその系譜にある楽曲といえますよね。ライブでもこの3曲は一箇所に固まっていて、ジャズパートのような形で披露されていました。

早見:ジャズパートに関しては、私もそうですけど、プレイヤーの皆さんがすごくキラキラしてらっしゃるので、そこが楽しみなんですよね。毎回その場でアレンジを変えたりと、少しアレンジを加えてらっしゃるので。

ーーライブ盤にも収録されていますが、毎回「hayaminst」というインストパートも組み込まれていましたもんね。ライブメンバーは黒須克彦さん(Ba.)、三沢崇篤さん(Gt.)、角脇真さん(Pf.)、村田一弘さん(Dr.)、奥大輔さん(Mp.)でしたが、このメンバーがジャズ風のセッションをするのも意外で楽しかったです。

早見:みなさん、黒須さんが集めてくださったメンバーなんですよ。私と黒須さんは、『神のみぞ知るセカイ』のジョイントコンサートでご一緒させて頂いて、そこからたまに共演したりというご縁があって、このタイミングでお願いしたんです。ライブの時にもあまりトライしないジャンルだという話をしてくれたので、こちらも楽しく聴かせていただきました。

ーープレイヤー陣もまた、新しい一面を早見さんによって引き出されたということですね。早見さんのライブについては、近々だと『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 4thLIVE TriCastle Story』でのサプライズ登場も拝見したのですが、本当にライブ巧者というか、何年かかけて作り上げていくようなステージを、この段階でやっているという印象を受けたんです。

早見:いやいや、そんな……(照)。でも、ファンの方もライブのときは静かに聴いてくれたり、盛り上がって欲しいところではテンション高めに応援してくれていて、そのご協力もあって良いように映っているところもあると思います。

ーー今日はゲートシティ大崎でアコースティックライブも開催していましたが、これはまたバンド編成とは違った難しさもありますよね。実際にライブをしてみてどうでしたか?(※取材日は2016年12月25日)

早見:『Live Love Laugh』リリース時にも一度ライブをさせていただいたのですが、天井が高くて吹き抜けみたいになっているので、音がすごく響くんですよ。歌う側としては心地よい空間でしたし、日付も日付だったのでクリスマス感の出る曲も歌わせていただいて楽しかったです。角脇さんにサポートいただいたのですが、ツアーをご一緒したこともあって、安心してライブに臨むこともできましたし、やはりピアノ1本だけで曲の雰囲気に合わせて歌うのと、全部の楽器があったうえで歌うのは大きく違うなと感じさせられました。

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