『オネエスタイルダンジョン』ファイナル潜入! 二丁目で育んだ“HIPHOPとゲイカルチャーの融合”

『オネエスタイルダンジョン』がファイナル

 「オネエスタイルダンジョンってイベントがあったら楽しくない?」

 二丁目で活躍するドラァグクイーン(女装)のアロム奈美江と「西新宿パンティーズ」というゲイHIPHOPユニットの一員でありながら新宿二丁目ALAMAS CAFEの店長を務めるスヌープバタ子、そんな二人の悪ふざけからそのイベントは始まった。新宿二丁目版フリースタイルダンジョンというわけである。

 もはや押しも押されぬ人気を誇る『フリースタイルダンジョン』はテレビ朝日系列のMCバトル番組だ。若手のラッパーたちがフリースタイルラップでバトルに挑む。しかし立ちはだかるのは輪入道や般若など、名高いラッパーたち。モンスターと呼ばれる彼らは数々のMCバトルを乗り越えてきただけのことはあり、彼らを倒すことは容易ではないのだ。

 そしてその二丁目版パロディーとなる『オネエスタイルダンジョン』でチャレンジャーたちが勝負を挑む相手は、なんとドラァグクイーン。胡蝶蘭やチカコ・リラックスなど、ラップのラの字も知らないモンスターたちだが、二丁目で身に着けたお喋りスキルを活かしてチャレンジャーを返り討ちに遭わせる。チャレンジャーにラップのスキルがあろうが見た目DISをしようがモンスターには通用しない。コミカルながらも非常に毒のあるモンスターたちのラップ(トーク)に翻弄されてしまう。

 当初は主催者も出演者もそれぞれ不安を抱えたままの開催となったが、いざ蓋を開けてみれば第1回から大盛況。イベント考案者のアロム奈美江や、二丁目はもちろんのこと、渋谷Organ Barや乃木坂Club CACTUSなどでもパーティーを開催している女性DJのLADY-Kを審査員に迎え、ゲスト審査員にはなんとZEN-LA-ROCKが登場。バトルでは「私の名前はチカコ・リラックス。デブでオカマで女装です」という自虐パンチラインを生み出して観客を一瞬で魅了したチカコ・リラックスというスターMCも誕生した。チャレンジャーには一般人から、音源をリリースするOnjuicyや社会人MCバトルなどで活躍するyasco.などのラッパーまで、様々な人々が名乗りを上げてバトルに挑んだ。モンスターは女性MCのyasco.に強烈なパンチラインを放つ。「知ってる? 二丁目では(価値がある順は)ホモ、ノンケ、犬、そして女」そのコミカルなバトルの様子はSNSなどでも動画がシェアされて人気を集めた。

 オネエスタイルダンジョンはその後も評判を呼び、第2回、第3回と続いていく。『ビジネスマンラップ選手権』を主催しているBRTの計らいにより、二丁目を飛び出して新木場ageHaで開催されたこともある。FRESH!の配信番組『漢たちとおさんぽ』出演でもお馴染みのモデル・立花亜野芽を迎え、BRT主催の『FRESHスター誕生』優勝者でもあるN0uTYがバトルに挑んで場を盛り上げた。モンスタークイーンのイズミ・セクシーが「N0uTYかわいい!」と騒ぎ立てたり、ドリアン・ロロブジーが「あたしもあなたも変態! 今夜はアゲハ中が変態!」とシャウトするなど、N0uTYを翻弄しながら観客を楽しませた。

 言わば「HIPHOPとゲイカルチャーの融合」である。しかもオネエスタイルダンジョンの観客の半分以上はストレートの男女。新宿二丁目というアンダーグラウンドから生まれたイベントはここまで成長してしまったのだ。「LGBT」についての話題が絶えない昨今だが、よりオネエという存在を身近に感じられる場としてオネエスタイルダンジョンは機能していた。観客の中にもチャレンジャーの中にも「初めて二丁目に来た」という人が大勢いた。二丁目に足を踏み入れることは、大変勇気が要ることだっただろうと思う。その一歩を踏み出してくれたことに当事者としても嬉しい気持ちがあった。そしてオネエスタイルダンジョンは、その見返りとして素晴らしいエンターテインメントを充分に提供してくれるイベントだったと思う。

 しかしオネエスタイルダンジョンは、11月12日の開催をもって最終回を迎えることとなった。「元々企画ものだったしね」とスヌープバタ子は語る。「年内に終わりってのは最初から決まってたのよ。ぐだぐだ続けるよりも人気のあるうちに潔く終わらせたいよね」。多くのファンを生み出したオネエスタイルダンジョンは惜しまれながら、ついにファイナルを迎えた。

審査員にはMC漢 a.k.a. GAMI

 ファイナルだけあって出演陣も豪華だ。審査員にはお馴染みのアロム奈美江、LADY-K、そしてあのMC漢 a.k.a. GAMIが登場。MC漢と言えば本家フリースタイルダンジョンの初代モンスターである。PRIMALらと組んだMSCというユニットで2000年から活動を始め、『Matador』『新宿 STREET LIFE』などの名盤をリリース。ソロとしてもB BOY PARK MC BATTLEで優勝し、「何食わぬ顔してるならず者」「スキミング」など名曲を多数ドロップ。現在ではヒップホップレーベル<9SARI GROUP><BLACK SWAN>の運営に携わりながら『漢たちとおさんぽ』などのメディアに出演してシーンを牽引し続ける。著書『ヒップホップ・ドリーム』がヒットしたのも記憶に新しい。今年もフリースタイルダンジョンのモンスターが総出演したDungeon Monsters「MONSTER VISION」への参加や、SALU「LIFE STYLE」への参加などその勢いは衰えることはない。

 しかし「成り上がりのプッシャー」を自称するだけあり、善も悪も含めてリアルな新宿を生き抜いてきたMC漢。最近ではBEEFの末にクラブでKNZZにマイクで殴打されて和解したことも話題になった。そんな漢は過去にMSCとして「新宿アンダーグラウンド・エリア」という曲で新宿二丁目をDISしている。DISといっても軽くネタにしている程度だが、そんなMC漢が二丁目のイベントに顔を出すということは本当にすごいことだ。時代が変わった、といえばそれまでだが、フランク・オーシャンや西新宿パンティーズのようなLGBTアーティストが登場して、HIPHOPシーンも変わりつつある。そんな中、MC漢もLGBTに対して友好的に接するようになった。もうゲイと仲良くするからといって誰も「WACK」だとは言わない。

 「何回かオファーが来るたび断っていたのですが、いつの間にか話が進んでました」「僕の席からだとチカコ・リラックスさんのスカートの中身が見えそうなんですが」とリップサービスを交えながら挨拶し、場を和ませるMC漢。彼を知らなかったゲイの観客も思わず魅了されてしまう。「漢さんかわいい!」という歓声も上がった。90年代からHIPHOPシーンをかじっていたあたしとしてはこんな光景が見れる日が来るなんてと、今にも泣きだしそうな想いだった。

 そして豪華な演出はこれだけではない。なんと本家フリースタイルダンジョンからZeebraのビデオメッセージが届いたのである。「オネエスタイルダンジョン始まるぞー!」というコールだけだが、これだって重要なことである。古いB-BOYなら知っていると思うが、ZeebraやK-DUB SHINEが所属するユニット・キングギドラの2002年のシングル「UNSTOPPABLE」収録の「ドライブバイ」のリリックにおいて「ホモ野郎」や「オカマ」という言葉を使ったために同性愛団体などから抗議が殺到し、回収する事態にまで発展したのだ。Zeebraもblastなどでその件について「そういった意図はなかった」と振り返ってはいるが、以来、HIPHOP業界においてLGBTは「触らぬ神に祟りなし」という扱いになった。そして実に15年の歳月を経てZeebraからビデオメッセージが来たことにより当事者同士で友好関係を築くことができた、そういう見方もできるのだ。

 しかし感慨に耽る暇なくバトルはスタートする。今回はチャレンジャーが先攻・モンスターが後攻という新ルールが適用された。司会進行はお馴染みのLADY。初回はたどたどしさもあったものの、女性にしてオネエノリという独特なキャラ全開で勝負をさばいていく。「MCのあたしですが、100%モンスターに肩入れしております。理不尽でしょ!」と彼女自体もパンチラインを放ちまくる。

 今回モンスターを務めるのはチカコ・リラックス、胡蝶蘭、オナン・スペルマーメイドの3人である。普段ラップとは縁遠いところにいる彼女たちがどんなラップをするのかとても楽しみだ。

 1回戦目でモンスターのチカコ・リラックスに挑んだのは半女装の謝謝美。旧知の仲でありながら、オネエスタイルダンジョンでも毎回戦ってきた因縁のコンビである。このイベントではバトルの前にクエルボのショットが振舞われることがお約束だ。しかも今回はクエルボが協賛とのこと。「こんなイベントに協賛してどんなメリットがあるのかしらね」とチカコ・リラックスは首を傾げる。ビートを選ぶのはDJ色彩。Chicの「Good Times」やシェリル・リンの「Got to be real」などのダンサブルなナンバーが流れてバトルは始まった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる