サカナクションが開拓した音楽体験の新しさ “チーム”の集大成見せた6.1chサラウンド公演

サカナクションが開拓した音楽体験の新しさ

 今年デビュー10周年を迎えたサカナクション。音楽と映像、照明を一体化させたライブは今では様々なアーティストが取り入れているが、これほど多くの支持を得て、キャパシティの広い会場において行っているバンドは、日本ではまずサカナクションが先駆けと言って良いだろう。

 サカナクションはこれまでも音楽の新たな体験を先陣を切って開拓してきた。レーザーをはじめとしたライティング、映像、オイルアート、ダンサー、衣装、風やスモーク。そして音響設備。主宰レーベル<NF Records>の設立やカルチャーイベント『NF』の開催など、音楽を接点にしたカルチャーやクリエイティブのシーンにおいて、サカナクション、そして山口一郎(Vo/Gt)は、大きな存在感を発揮している。

 そのサカナクションの様々な取り組みのひとつが「6.1サラウンドシステム」を取り入れたライブである。音が左右から聞こえる通常のステレオに対して、「6.1サラウンドシステム」は、前後左右から包み込むように聞こえる音響システム。前方のメインスピーカーに加え、両サイド、後方、ステージ中央などにスピーカーを配置することで、臨場感のある音響を保ち、また会場のどこにおいても最前列と同等に質の高いサウンドを耳にすることができる。

 サカナクションは、2013年のアルバム『sakanaction』リリースツアーでのアリーナ公演にて世界初の試みとしてこのシステムを導入。そして今年は幕張メッセと大阪城ホールにて再び使用し、フロアを取り囲む242本のスピーカーと511本のLED BARを設置した。

 4月からスタートした全国ホールツアーのファイナルシリーズとして行われた『SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around』は、その実験的な試みを行う場所であると同時に、サカナクションのデビュー10周年を祝う、“チーム・サカナクション”の集大成とも言えるステージとなっていた。

 オープニングナンバーは「新宝島」。堂々としたイントロから幕を開け、Aメロとサビの繰り返しというミニマムな曲構成となっている。抑制の効いたAメロからサビに向かってスパークしていく過程にはダンスミュージックとしての高揚感が宿っており、サカナクションの真骨頂ともいえる楽曲だ。「6.1サラウンドシステム」により、サカナクションのサウンドの大事なキーとなるシンセの音色や洗練されたビートも、さらに冴え渡って聞こえる。

 この日は終盤までMCもほとんど行われず、また音自体も途切らせることなくシームレスにつながれていった。バンドサウンドだけではなく、波や水泡、雑踏などの効果音も駆使し、「6.1サラウンドシステム」による音のダイナミズムで「音楽を伝えること」のみに焦点を当てステージが進行していったのだ。

 フロア映えのする楽曲が続いた前半、また中盤では、フォークロック的な側面の出た「壁」なども演奏し、サカナクションならではの詩的で内的な音楽世界をじっくりと聴かせた。オイルアートや東京の街並みを写した映像なども使うことで、曲のイメージをさらに押し広げたり、あるいは新たな意味を持たせることも。また「ボイル」では山口はハンドマイクで歌唱。矢継ぎ早に言葉を投げかけ、まさに熱唱と呼ぶにふさわしいエモーショナルな歌にはオーディエンスからも大きな拍手が送られた。

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