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冨田勲×初音ミクが描いた“手塚治虫の未来像” コラボ作の古くて新しい不思議な質感に迫る

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 これはまた不思議な企画だ。手塚治虫の生誕90周年、冨田勲の生誕85周年、初音ミクの歌声合成ソフトウェア発売から10周年という節目であることがきっかけで生まれたこの作品のタイトルは『初音ミク Sings “手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で”』。大雑把に言うと、手塚治虫の『リボンの騎士』、『ジャングル大帝』、『どろろ』といった映像作品のために冨田勲が書いた楽曲を、初音ミクが歌うという企画ではあるが、ただのカバー集ではない。

『初音ミク Sings“手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で”』SPECIAL XFD MV

 演奏は手塚のアニメ映画『ユニコ』の音楽を手掛けたこともあるジャズピアニストの佐藤允彦を中心としたアコースティックのジャズバンドだし、一部は声優でもある歌手の前田玲奈がコーラスとしても参加している。つまり、ここで機械は初音ミクと一部で参加している重音テトのUTAUだけで、サウンド自体は生音のジャズそのものなのだ。そして、曲間には初音ミクによる手塚や冨田についての解説や、ミステリー作家の辻真先や手塚が残した作品を管理している手塚るみ子との対談が収められていて、手塚や冨田の功績を学ぶことができる。

 ここでの面白さは、初音ミクを開発したクリプトン・フューチャー・メディアが言うような「サウンド解析+倍音構造を再現するテクノロジーと、声優陣の声の表現&ディレクションを組み合わせて、初音ミクらバーチャル・シンガーを、より滑らかかつ表情豊かに喋り歌わせる実験的な試み」の部分だろう。

 冒頭に「リボンの騎士」のオリジナルバージョンが収録されていて、もともとスウィングジャズ風のアレンジだったこの曲から始まることで、この後、ジャズバンドが演奏することの正当性が示されてから、初音ミクのナレーション、初音ミクの歌へと続いていく。

 ボーカロイドの「喋り」と「歌」というリズムやノリやニュアンスが全く別の発声方法の声を交互に入れ、初音ミクのポテンシャルをあらゆる形で見せて、テクノロジーの進化を感じるのがこのアルバムの楽しみ方なのだろう。歌に関しては、スウィングやラテン、アップテンポからバラードまでを並べることで、どんな音楽にも対応できる基本的な能力だけでなく、ところどころで歌のニュアンスを変えるなど、初音ミクがボーカリストとしての表現力を再現できていることがわかる。

 そして、その真骨頂は喋り部分にある。ひとり喋りから始まり、その後に、対談形式になったところで、相手に合わせてテンションが変わったり、冗談を言ったり言われたりする。さらに、ボケに突っ込んだり突っ込まれたりするところでは、焦ったり、喜んだりするだけでなく、どことなく真剣なトーンや人間的な感情に近いものを声色でここまで表現していることには、僕のような初音ミクのことをあまり知らなかった人間にとってはかなり驚きがある。

 でも、驚きはそれだけではない。ラストに更なる驚きが用意されていて、初音ミクがラップを披露している。「歌と喋りの中間」でもあるラップという歌唱形式を完璧にこなしていて、リズムに乗りフロウしながら、そこにはリズミカルにビートに乗せた言葉だけではなく、「ラップ」としか言いようがないニュアンスが確実にある。ボーカロイドって、ここまで進化したんだなという率直な驚きがあった。

 ただ、ここで面白いのが、まだまだあくまで機械的な部分を残っている初音ミクの声はやはり人間とは別のテクスチャーを持っていて、その残っている部分こそが魅力になっているということ。それはどこかノスタルジックな手触りをしていて、初音ミクの性能が上がれば上がるほど、人間的な部分が強くなればなるほど、機械的な部分の魅力がより輝くようにも感じる。個人的には、初音ミクが出す声には、20世紀的な未来像が宿っているようにも感じるのだ。それは手塚治虫が描いてきた漫画にも登場してきた未来像とも遠くないものかもしれないとも思う。その「新しさの中にある古さ」が、冨田勲のメロディと実に相性がいいのだ。

      

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