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柳樂光隆の新譜キュレーション 第3回

ジャズギターは変革期に入ったーー柳樂光隆が選ぶ、注目のギタリスト新作5選

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 ジャズシーンが面白い変革期に入っていることはこの連載の過去の記事でも触れてきた。ロバート・グラスパーを挙げるまでもなく、ミュージシャンたちがジャズという枠にとらわれずに自然体で様々なジャンルの要素をジャズに溶け込ませながら、新たな音楽を生み出している。その中でも今、ジャズギタリストたちが面白くなってきている。例えば、この連載でもジェフ・パーカー、カート・ローゼンウィンケルといったギタリストたちの作品を取り上げてきたし、デヴィッド・ボウイ『★』ではベン・モンダーが、サム・アミドンの作品にビル・フリゼールが参加したりもした。「ジャズギター=めちゃくちゃギターが上手いやつらのギターソロ満載の即興演奏を繰り広げる」というイメージがあるかもしれないが、近年はギターならではのサウンドを効果的に取り込んだ作品を作るギタリストも増えてきた。そして、その中には言うまでもなく、インディーロックだったり、エレクトロニックミュージックなどの要素も聴こえてくるし、同時にジャズの歴史をこれまでにない形で織り込んでいる様子が聴こえてくる。

ディエゴ・バーバー『One Minute Later』

Diego Barber「One Minute Later」

 ディエゴ・バーバーは1978年、スペイン生まれ。NYで活動していたギタリストで、当初はマーク・ターナーやラリー・グレナディア、ジェフ・バラードといった10歳くらい上の世代のミュージシャンたちといわゆる「コンテンポラリージャズ」的なサウンドを奏でる人というイメージだった。ただ、近年は少し様子がおかしい。2013年にリリースした『411』というアルバムでは、エレクトロニクスを大胆に導入して、即興演奏というよりは電子音を加えた作編曲にこだわった楽曲を発表していた。そして、最近リリースしたのがこのアルバム。自身のギターにベン・ウィリアムスのベースとエリック・ハーランドのドラム、という現代NYジャズ最高峰のリズムセクションのギター・トリオにマリンバを加えた特殊な編成で聴かせるのは、自身のルーツでもあるクラシックギターやスペインの要素が香るアコースティックなサウンド。印象的なのが全編がジャズ的に楽曲が展開して発展していくというよりは、ミニマルミュージック的な反復が効果的に織り込まれていること。マリンバとアコースティックギターの軽やかでクールな質感のクラシカルな反復と、ベン&エリックの重みのある強力なグルーヴのジャズ/ヒップホップ的な反復ががっちりと噛み合いながら、時に複雑なリズム構造を取り入れているが、そんなことは感じさせずただただ気持ちがいい。ディエゴ・バーバーのギターもブラジルやアルゼンチンのギタリストを思わせる軽やかさとリズム感で、重力を感じさせないのが面白い。

ドミニク・ミラー『Silent Light』

ドミニク・ミラー『Silent Light』

 ディエゴ・バーバーはクラシックギター的な文脈でジャズを奏でる個性派だが、そんな流れで紹介するなら近年の<ECM>だろう。クラシックギタリスト、ジョフィア・ボロス『Local Objects』やジャズギターの巨匠ラルフ・タウナーの『My Foolish Heart』など、クラシカルなギタリストの作品をリリースしている。その中でもスティングやポール・サイモンなどのバンドで知られるギタリストのドミニク・ミラーの<ECM>デビュー作が実に興味深いものだった。元々アルゼンチン出身で、ブラジルでギターを学び、バークリーに留学し、ロンドン、パリなどへと移住しながら活動しているドミニクは、クラシックギターをルーツに持ち、バッハやドビュッシー、ショパンを愛し、エグベルト・ジスモンチやバーデン・パウエルを敬愛するギタリストだった。彼がアコースティックギターを手にして、ジスモンチやバーデンだけでなく、USのパット・メセニーやUKのバート・ヤンシュといった英米のフォーク/トラッドの影響下にあるギタリストへのオマージュをも込めたメロディアスでクワイエットなこのアルバムは、様々なミュージシャンたちがルーツを遡り、過去を再発見しようとしている流れの様々な要素が収まっている。そして、そんな音楽を巧みな録音とミックスで封じ込め、フレッシュに聴かせてくれる<ECM>というレーベルの地力にも驚かされる。

ジュリアン・ラージ&クリス・エルドリッジ『Mount Royal』

ジュリアン・ラージ&クリス・エルドリッジ『Mount Royal』

 一方で、USでは今、最も注目されるギタリストといえば、ジュリアン・ラージだろう。カート・ローゼンウィンケルやピーター・バーンスタインといったいわゆる90年代以降のUSコンテンポラリージャズの影響下と全く違うラインから出てきた異端中の異端とも言える若手で、カントリーやブルーグラスをルーツに持ち、ジャズをやってもそこに入り込んでくるのはジム・ホールを起点に、戦前のジャズだったり、ジャズとカントリーの狭間を言っていたようなギタリストだったり、ハワイアンやスティールギターにフラメンコやショーロやボサノヴァ、もちろんクラシックギターも、といった具合。それをジャンルに押し込めるのではなく、「ギターミュージック」として軽やかにおおらかに奏でてしまうのがジュリアンの魅力。そんなジュリアンが、ブルーグラスというジャンルからアメリカンミュージックを捉え直しつつ、斬新なサウンドを聴かせるグループ、Punch Brothersのギタリストのクリス・エルドリッジとデュオでコンスタントに活動している。ほのぼのしたフォーキーなアコースティックギターデュオとしても聴けるが、よく聴いていると不協和音ギリギリの不思議なハーモニーが聴こえてきたり、ナチュラルに聴こえるフレージングがすごいところに跳躍していたりと、つまり現代ジャズギターのような新しい響きも至る所に聴こえてくる。懐かしくもあり、新しい不思議な音楽だ。ジュリアン曰く「1920年代と今は状況が似ている。ジャンルの名前がつく前の『新しい何かになりそうな音楽』が存在しているから」という言葉は、正に彼の音楽を表すのにぴったりだと思う。

マシュー・スティーブンス『Preverbal』

マシュー・スティーブンス『Preverbal』

 また別のベクトルで今、面白いのがマシュー・スティーブンス。これまではカートローゼンウィンケル以降のテクニックやスタイルに、インディーロック的なセンスが少し入り込んでいるという感じだったが、本作を境に完全に違うところへ行こうとしている予感がする。今年、彼をエスペランサ・スポルディングとのトリオでの来日ライブで見た印象は、カート以降の長いフレーズを滑らかに弾き切る感じが全くなく、細切れのフレーズを次々に弾き捨てていくようなスタイルで、時に大胆にアウトしたり、ノイズを奏でたりしながらも、それを音楽に調和させていくさまは、ジョン・スコフィールドだったり、デレク・ベイリーだったり、攻撃的な時のビル・フリゼールだったりを思い起させつつも、同時にWilcoでのネルス・クラインやTortoiseでのジェフ・パーカー、Radioheadのジョニー・グリーンウッド辺りをも想起させつつ、ジャズの範疇の中でプレイしているといった雰囲気だった。その後リリースされたのがこのアルバムでは、完全に振り切れていて、ギターの音色はかなり歪んだものも多く、フレーズに関してもジャズ的なソロを奏でるというよりは、コンポージングの中の一部との狭間といった雰囲気で、ジャズの重力から逃れようとしている感じがあるも楽しい。要は00年代のシカゴのポストロック的なサウンドにかなり近いが、カット&ペースト的な編集をしていないことや、アウトしそうでしない棘に近い凹凸を含んだ滑らかさといったサウンドはコンテンポラリージャズから得たものを完全には捨てずに次に進もうという試行錯誤が見えて面白い。

井上銘『STEREO CHAMP』

井上銘『STEREO CHAMP』

 最後にこの流れで、日本のギタリストを紹介したい。若手No1の井上銘の新作は、こういった海外の流れと同期したのか、これまでの彼のイメージだったパット・メセニー~カート・ローゼンウィンケル以降のコンテンポラリージャズから大胆に離れて、様々なスタイルを取り入れたショーケースのようなアルバムになっている。ストレートなブルースやロックなどをやっていたかと思えば、ミキシングにかなり凝った曲もある。ここ数年、ジャズが拡張され、ジャズミュージシャンたちが様々な場所で必要とされるようになったことで、井上銘のようなギタリストもまた様々なサウンドを奏でてきた。石若駿のアルバムでは大胆にディレイを使ったり、オダトモミらとのCRCK/LCKSではポップなサウンドからフリーキーなサウンドまでを求められ、冨田ラボによるT.O.C BANDでもソロイストとして重要な役割を担った。そういった経験が井上銘にこのアルバムを作らせたのかなという気がする。彼もまた変革が起きているジャズギターシーンの中にいるのだ。

 ロックの時代が始まりだしたころ、ゲイリー・バートンがラリー・コリエルを起用し始めたあたりからフュージョンというジャンルが蠢き始めたように、ギターという楽器はジャズが変革するときに重要な役割を果たしてきた。上記のギタリストたち以外にも、ヤコブ・ブロやニア・フェルダー、チャールズ・アルトゥーラといった様々なギタリストたちが注目を浴びる現在の状況は、ジャズの変革の時期が来たことを告げているのかもしれないとも思う。ジャズギターの動向を注視するべき時代が再び訪れたのではないだろうか。

■柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、マイルス・デイビス&ロバート・グラスパー『Everything’s Beautiful』、エスペランサ・スポルディング『Emily’s D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。

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