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『赤ら月』リリースインタビュー

怒髪天 増子直純が語る、バンドを磨き続ける理由「やってることに自信があれば何十年でも待てる」

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 怒髪天、待望のニューシングルはJAPANESE R&E(リズム&演歌)の真骨頂『赤ら月』。〈ビールが美味けりゃ オーライ!〉と陽気に歌う、いかにもなナンバーだが、どこか新しい耳当たりを感じるサウンドが印象的。ひめキュンフルーツ缶とのキュートなコラボ曲「恋ノ猛毒果実」で見せる小気味よさも、これまでの男臭さとは相反するものだ。

 本人たちがあまりに悠々としているために、その高い音楽性と巧みな演奏技術に気がつきづらいバンドであるが、ここにきて音楽も更なる深化を見せているのだ。そこには、唯一無二を貫きながら長年活動してきた中での変化があったという。今回は新曲の話題からバンド観やメンバーとの関係性の変化まで、増子直純(Vo.)に大いに語ってもらった。(冬将軍)

「完全にナシだと思ってたところに意外と面白みがあった」

ーー「赤ら月」は、まさに怒髪天の真骨頂というべき親しみやすいナンバーですが、コンセプト的なものはあったのですか?

増子直純(以下、増子):長年やってきた中での純度が上がった自分たちとでもいうか、シングルらしいシングルを作りたいというのもあって、“昭和的なもの”というところに原点回帰しようと。前回の『セイノワ』がシリアスにバシっとキメたモノだったから、今回はもう一つの自分たちの軸とでもいうか、“わかりやすく、歌いやすく”というところだね。

ーー怒髪天らしい楽曲であるものの、アレンジやサウンドアプローチの方向性はこれまでにない新しさを感じました。

増子:そうね、これまでやってこなかったところ、シティ・ポップ寄りだね。今、若い世代がシティ・ポップを再構築したりしてるよね。我々は完全にドンズバ世代だったけど、それをナシナシのナシとするムーブメントにいたからさ。「こんなダサイものない!」とまで思ってたくらい(笑)。それが、今はすごく良く聴こえたりもして。そういうことも取り入れてやっていけることは、「長くやってきてよかったなぁ」と思うところだね。AORとかも、完全にナシだと思ってたから。でも、当時は敢えて避けてきたところに意外と面白みがあったという。

ーー他の楽器隊のメンバー含めて、バンドとして志向する音楽の幅が広がってきているのでしょうか?

増子:とくに友康(上原子/Gt.)がやってるサウンドのアレンジメントについては「相当攻めに行ってるな」と感じることがあるね。アレンジにしても、歌詞にしても、同じようなモチーフで何曲も作っていくと、被らないようにとか、それ自体が禁じ手になるでしょ。以前はそこをかわしてやっていくことが大変だと思っていたんだけど、今はそれが逆に面白いと思うようになってきた。「何をやってなかったかな?」「次はどこから攻めていこう?」みたいなさ。

ーー歌詞ですが、キメの〈ビールが美味けりゃ オーライ!〉はある意味、大人の真理でもありますね。

増子:そこは、ひとつの悟りだよね。「今日はいい1日だったか?」、もっと言えば「今まで生きてきた自分の人生は良かったか?」なんて考えたらキリないことで。仕事終わって飲むビールが美味ければ、「まぁ、いいんじゃない」という。大人になっていくうちにいろんなこと知っちゃってさ、欲張りになっちゃってることもあるし。メッセージなんていう大袈裟なものではなく、ただ上手くこうすれば、もうちょっと楽に生きられるんじゃないかな、という提示だよね。

ーー歳を重ねたからこそ、解る部分でもありますね。

増子:こないだ、女子レスリングのオリンピック金メダリスト・登坂(絵莉)選手がthe pillowsの〈君の夢が 叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ〉(「Funny bunny」)を聴いて励まされてるという話を聞いてさ。そういう若い世代の力になる歌がある中で、俺らは冒頭から〈やってられっか バカヤロウ〉だからね(笑)。「飲み屋の看板に八つ当たりしてすっ転んで、自動販売機の下に100円見っけた」という歌だから、共感できる若者なんていないよな。そもそも酒の歌なんて、10代にはもっての外だもんね(笑)。でも、俺らはやっぱり自分たちと近い世代の連中が聴いてグッとくるものをやっていきたい。まぁ、それしかできないんだけどね(笑)。

ーーそして、印象的なドラマ仕立てのミュージックビデオ。こちらはどのような経緯で制作することになったのでしょうか。

増子:前にライブを撮ってもらった髙木聡監督に「面白いもの作って」と全部お任せで。ジャケットだったりミュージックビデオであったり、トータルでセルフプロデュースするアーティストもいるけど、俺らはダメだね、才能がない。俺らが考えたものをデザインすると全部説明になっちゃうんだよ。だから、俺らのバンドや楽曲に愛情を持ってやってくれる人とのコラボだと思って任せてる。自分たちだけでは思いつかないような面白いものを作ってくれるから、いいチームに恵まれてると思うよ。今回も監督、超ノリノリだったから。最初、絵コンテもらったとき「1日で撮影するの無理だ」と思ったけど、燃えに燃えてたからね。「ここ、空撮いらねぇだろ?!」というところでわざわざドローン飛ばしたりさ(笑)。そういうの嬉しいよね。熱意持ってやってくれるからこっちもノるよね。

怒髪天『赤ら月』Music Video

ーー「赤ら月」のテーマ性である“昭和的なもの”を象徴する短編映画のような大作ですね。

増子:そりゃあ、10分もあるからね!(笑)。俺らが子どもの頃に見てきた“昭和のアニキ像”というか、ハチャメチャなんだけど、心の中には熱さと情けが同居しているようなものを表現してくれたよね。「なんの話だ?」って内容なんだけど、それでいいんだよ。舞台『サンバイザー兄弟』の衣装担当だったスタイリストの伊賀大介くんがレビューサイトに俺の自伝(『歩きつづけるかぎり』)について書いてくれていて。その中に「男は誰しも心の中でいつも“アニキ”を探し続けていたい生き物なのだ」っていい言葉があってさ、俺もそう思うんだよ。ショーケン(荻原健一)だったり、松田優作だったり。さらに「今の日本で職業欄にアニキって書けるのは、水木一郎と増子直純だけ」って(笑)。嬉しいよねぇ。アニキっていうのはさ、愛嬌があってバカじゃなきゃダメなんだよ。呼んでるほうも呼ばれるほうも、バカだから愛おしい。「アニキっ!」と頼られたら勝ち目がなくとも「よし!行ったろか!」と応える男意気。なんでも出来る完璧な上司なんてアニキじゃない。 

ーーそんな増子さんの“アニキ”も魅力的ですけど、他のメンバーさんもそれぞれの個性を活かした見せ場もあって。

増子:面白いけど恥ずかしいよね。坂さんに至っては声籠っちゃって何言ってるんだかわからないもんな(笑)。

ーーカップリングは、舞台曲あり、ひめキュンフルーツ缶とのコラボあり、バリエーション豊かな内容ですね。

増子:まず「愛のおとしまえ」(舞台『サンバイザー兄弟』劇中歌)は入れようと決めてた。ひめキュンは、俺が舞台やってる間にメンバーが一緒にバンド(ひめキュン蝦夷乃無頼缶)をやって、すごくスキルアップになったし、意識的に成長したというのもあったし、その恩返しをしたいなと思ってね。

ーー「恋ノ猛毒果実」は以前合同インタビューさせていただいた(怒髪天とひめキュンフルーツ缶はなぜ共鳴?「“受け渡さなければならない”という使命感がある」)ときからどんな曲になるのか楽しみだったんですけど、良い意味で裏切られました。以前の提供曲「伊予魂乙女節」は怒髪天らしいナンバーでしたし。

増子:これまでやったことないもののほうが面白いというのもあったし。BPMが早かったり、バンド寄りの曲は充分あるから。もっと年齢が上の人でも楽しめるものがあってもいいかなと。ちょっとベタに、おニャン子クラブ的なものをね。ひめキュンのライブで、お客さんたちのすごく楽しそうな姿を見て、なんか涙出そうになったもん。好きなものがあるっていうのは幸せだよね。俺らが歌ってるパートをお客さんが歌って、そういう風にできる曲を作ってあげたいなと思った。むしろ、ひめキュンメンバーよりも、ひめキュンのお客さんたちに向けてる部分が多いかもしれない。

ーー怒髪天のライブが収録されている<初回限定盤A>とは別に、ひめキュンのファンに向けたカバーアルバム付き<初回限定盤B>がありますよね。 

増子:親切でしょ?(笑)。ホントは1種類でいいんだから。ひめキュンのお客さんが「恋ノ猛毒果実」を聴きたいのに、知らないおっさんたちのライブ映像が2時間付いてたって嬉しくないじゃない。だったら、ひめキュンのお客さんが喜ぶものを入れようと。他人様のとこのお客さんのこと考えて作ってるんだもん、こんな親切なバンドいないよ!(笑)。

ーーここに収録されている山口百恵「絶対絶命」、中森明菜「1/2の神話」といったカバーも絶妙な選曲ですね。

増子:今、アイドルというものが多様化して、何でもアリの状態になったりしてさ。飛び道具ばっかり出てくる現況の中で、俺たちが思うアイドルというものの本筋とでもいうか、昭和の女性アイドルの良さをちゃんと手渡したいなと思ってさ。それに、我々の世代に近いお客さんもいたから、喜ぶだろうなとも思ったし。

ーーデュエット形式というのも新鮮ですし、ひめキュンメンバーのシンガーとしての新たな魅力が引き出されてると思います。

増子:「絶体絶命」なんてスナックで歌ってるみたいだもんねぇ。ちょっと“チーママ”感出ちゃってる。「ママ、うまいなぁ」って(笑)。

ーー凄まじい熱量のアレンジ&演奏もかなり聴き応えあります。

増子:演奏、アツイでしょ? こういう曲をカバーするとすごく勉強になるね。あと、当時のゆるさ。あの頃はみんな忙しかったから、歌い手も演奏者も、その場で聴いてそのままレコーディングするのが当たり前だったっていうじゃない。だから、これ明らかに間違ってるなというのが聴いていてわかるもんね。ミスしたプレイがそのまんま音源になってる。でもそれで聴き慣れちゃってるから。「そこのコード違うよ」なんてこともあるんだけど。今みたいに細かく修正、修正、というわけじゃないから面白いよね。でも、それは楽曲自体が良いから成り立つことでもある。

      

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