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Acid Black Cherryが見せたJ-POP名曲群へのリスペクト カバー集『Recreation 4』を聴く

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 「流星のサドル」、「輝きながら…」、そして「フライングゲット」。時代に刻み込まれた名曲をていねいに歌い込んだカバーアルバム。この『Recreation 4』は、そんな印象が残る作品だ。ご存知の通り、Acid Black Cherry(以下、ABC)は、ヴィジュアル系バンドのムーヴメントで一時代を築いたJanne Da Arcのボーカリスト、yasuのソロ・プロジェクトである。2007年にプロジェクトがスタートしてから休む間も無くリリースとツアーを続けている。しかも、全国アリーナ・ツアーを行えるほどの絶大な人気ぶりは衰えることなく、常にトップを突っ走っているのがさすがだ。それにしても、多数のオリジナル作品に加えて、カバー・アルバムは本作で4作目という事実に驚く。ロック系ミュージシャンがカバー・アルバムを何度もリリースするというのは異例ではないだろうか。特に音楽シーンの第一線にいるとオリジナル至上主義に走りがちだし、カバーに抵抗のあるアーティストが多い。そんな中、カバー集だけで複数枚の作品を作り出しているABCは、日本のロック・シーンにおいて非常にユニークな立ち位置といってもいいだろう。

 本作『Recreation 4』では、J-POPの名曲が12曲セレクトされている。オリジナルの発表年は、1980年から2011年と非常に幅広い。というと、なんだか散漫な選曲に思えるが、中核を成しているのが80年代のナンバーだ。12曲中9曲が1980年から1989年の間に発表されたもので、いわゆる歌謡曲ではなくニューミュージックやロックの範疇に入るアーティストがセレクトされているのが興味深い。このカバー企画の過去作を振り返ってみると、やはり大半が80年代の非歌謡曲ナンバーだ。ここがこの企画のポイントのひとつではないだろうか。1作目での「シャイニン・オン 君が哀しい」(LOOK)や、2作目での「シルエット・ロマンス」(大橋純子)、3作目での「恋におちて」(小林明子)といった選曲に、本企画へのこだわりが見えてくる。80年代といえばyasuがリアルタイムに聴いてきた楽曲。いわば彼の音楽的な素養を形成してきた楽曲群なのだろう。そう考えると、このカバー・アルバムの必然性が明確に浮かび上がってくる。

 『Recreation 4』の冒頭は、久保田利伸の「流星のサドル」。ハードなギターやソリッドなリズム・セクション、きらびやかなシンセサイザーなどが絡み合うアレンジでド派手にスタートする。続くTHE ALFEEの「星空のディスタンス」は、ツーバスの高速ドラミングが叩き出すリズムをベースに、ヘヴィメタル+デジタルロックとでもいいたくなるアレンジが展開。この2曲でつかみはOKというくらい、ABCならではの色合いを濃厚に醸し出しているのはさすがだ。

 しかし、アレンジに関してはハードなロック路線一辺倒ではけっしてない。徳永英明の初期名曲「輝きながら…」はピアノとストリングスが美しい王道のバラードに仕上がっているし、ブルーハーツの「青空」は原曲のメロディアスな特色を強調するように、ソフトなバンド・サウンドを従えて歌う。さらには、松任谷由実が麗美に書いた「青春のリグレット」では、ボサノヴァ風のギターに始まりエッジーなポップ・ロックへとなだれ込むのが見事だし、サザンオールスターズの「私はピアノ」では、ラテン風のリズムやアコーディオンの響きが効果的。また、プリンセス・プリンセスの「M」にいたっては、アカペラ・スタイルという画期的な試みで、新境地の一曲となっている。これだけのアレンジを目まぐるしく取り入れても、yasuのボーカルはぶれることなくシンガー然としているのが頼もしい。

 この特色は、本作では最新曲であるAKB48の「フライングゲット」を聴けばさらにその思いが深まる。アイドルだからといって色眼鏡を通すことなく真摯に楽曲に向き合い、結果的に彼にしかできないハードエッジな歌謡ロックに仕上がっているのだ。今作の特設サイトにあるセルフライナーノーツ以外にyasuがどういう思いでこの曲を選んだのかはわからないが、80年代の楽曲同様に名曲として評価し、自分なりのフィルターを通して表現していることに違いはない。

 こうして聴き通すと、ひとつ重要なことに気付かされる。それは、原曲へのリスペクトだ。巷にはカバー集が山のように溢れているが、どちらかというとカバーする側の個性やエゴを全面に打ち出している印象が強い。フェイクしたり、奇抜に解体してみたりすることでアーティスト性を誇示するのは、もちろん悪いことではないし、そこがカバーの面白さなのかもしれない。しかし、ABCは基本的にオリジナルのメロディを尊重し、一曲一曲をていねいに歌い上げている。アレンジも多彩ではあるが、原曲のイメージを大幅に損なうことなくABC流に解釈している。そんな観点から見ても、非常にオーソドックスで誰もが楽しめるカバーアルバムであり、ABCのファンがここから過去の名曲へ遡るには、とても親切な作品なのである。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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■リリース情報
『Recreation 4』
発売:2017年1月25日(水)
【CD+DVD盤】 ¥3,000(税抜)
〈CD収録曲〉 (※カッコ内は原曲歌唱アーティスト/発売年)
01.流星のサドル (久保田利伸 / 1986年)
02.星空のディスタンス (THE ALFEE / 1984年)
03.輝きながら… (徳永 英明 / 1987年)
04.三日月 (絢香 / 2006年)
05.CLOUDY HEART(BOØWY / 1985年)
06.青空 (THE BLUE HEARTS / 1988年)
07.青春のリグレット (松任谷 由実 / 1985年)
08.私はピアノ (サザンオールスターズ / 1980年)
09.Forget-me-not (尾崎 豊 / 1985年)
10.フライングゲット (AKB48 / 2011年)
11.M (プリンセスプリンセス / 1989年)
12.Tomorrow never knows (Mr.Children / 1994年)
※CD ONLY盤共通

〈DVD収録内容〉 (※カッコ内は原曲歌唱アーティスト/発売年)
■The Live Show “Recreation”
[ライブ収録楽曲]
01.恋におちて (小林 明子 / 1985年)
02.GLAMOROUS SKY (中島 美嘉 / 2006年)
03.青空 (THE BLUE HEARTS / 1988年)
※生演奏でのスタジオライブ収録のため、CD収録の音源とは異なります。
Special talk guest:小室哲哉

映像作品
『10th Anniversary Live History -BEST-』
発売:2017年3月22日(水)

Acid Black Cherryオフィシャルサイト

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