Acid Black Cherry『L—エルー』はなぜ大きな支持を得たのか コンセプチュアルな創作手法を読み解く
オリコンが6月に発表した上半期アルバムランキングは、1位に三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE『PLANET SEVEN』、2位にAKB48『ここがロドスだ、ここで跳べ!』、3位にサザンオールスターズ『葡萄』、4位はSEKAI NO OWARI『Tree』、5位がMr.Children『REFLECTION』と、まさに音楽シーンの今を切り取った充実の作品群が並んでいる(参考:http://www.oricon.co.jp/special/48036/4/)
もちろん6位以降もロックバンドやK-POP、LDH系にジャニーズなど、幅広いラインナップなのだが、そのなかでも本稿では、15位にランクインされたAcid Black Cherryの『L-エル-』に注目してみたい。
この作品にフォーカスした理由は、1位~50位までの作品を並べた時に、V系アーティストが彼しか見当たらなかったからだ(ソロを対象としても次点が43位のhide『子 ギャル』となる)。ちなみに同期間でV系のみを対象としたランキングをTSUTAYAが発表しているが、こちらでもTOP5に3形態が入る(残り2つは国民的ヒット曲「女々しくて」を持つゴールデンボンバーのアルバム)など、圧倒的な力を見せつけている(参考:http://top.tsite.jp/news/i/24649126/)
特典で売上枚数をブーストした形跡もない同作、果たしてなぜここまでの結果を残すことができたのだろうか。Acid Black Cherryはアルバム毎に大きな物語を作る、いわばコンセプト作が多いことが特徴として挙げられるが、今回も収録曲と100ページにもなるストーリーブック(初回限定盤のみ付属)で“エル”という女性の一生を描いている。同作について、音楽ライターの武市尚子氏は“読む・ロックアルバム”だと定義する。
「『L—エルー』は、話に基づいて制作されたサウンドトラックではなく、あくまでも楽曲先行で出来上がったものですが、iTunesが主流となりCDを手にすることが少なくなった現時代において、yasuは、コンセプトストーリーブックをじっくりと読みながら視覚と聴覚の両方で感じる“CDというスタイルを重んじた独自の形”で、今作を世に送り出しました。時代に逆行する形ともいえますが、これは幼い頃、漫画家になりたかったというyasuの夢を具現化したものといえるでしょう」
ここまでしっかりとコンセプトを作り込んだ作品は、一方で取っ付きにくいものに映るかもしれないが、そこを補っていると思われるのが、彼の音楽性だ。Acid Black Cherryはyasuの所属するJanne Da Arcと同じく、V系という属性に見られることも多いが、楽曲はテクニカルでありつつ、起伏に富んだエンターテインメント性を孕んでいる。良い意味でポップの方角を向いており、V系ファン以外にも支持者が少なくないこともこれを証明しているといえるだろう。