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いきものがかり・水野良樹と哲学研究者・戸谷洋志が語り合う、Jポップに哲学が必要な理由

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 いきものがかりの水野良樹と哲学研究者の戸谷洋志によるトークイベントが11月13日、東京・紀伊國屋書店新宿本店にて行なわれた。同イベントは、戸谷の『Jポップで考える哲学』(講談社)と水野の『いきものがたり』(小学館)という2冊の著書の出版を記念したもので、『Jポップで考える哲学』内で戸谷がいきものがかりの「YELL」を取り上げたことをきっかけに実現したもの。リアルサウンドではこの対談について、一部を抜粋しながら構成。戸谷はなぜJポップを哲学の題材に選んだのか、水野が考える「Jポップに哲学が必要な理由」とは何か、2人の対話から探ってみたい。(編集部)

「寂しがっている自分だからこそ、多くの方の目に触れるポップスに惹かれた」(水野)

戸谷洋志(以下、戸谷):まずは最初にお互いの本の簡単な説明をすると、私の『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』(講談社)は、Jポップの非常に有名な曲を取り上げて、それを手がかりに哲学の解説をするという、少し変わった哲学の入門書です。15曲を取り上げている最後の章でいきものがかりさんの「YELL」を紹介していて、この本を水野さんが見つけてTwitter上で取り上げてくださったことが、イベント開催のきっかけでして。

水野良樹(以下、水野):その時は、戸谷さんによる哲学の視点で見た「YELL」の分析がすごく面白くて、思わずつぶやいてしまったんです。僕のほうは『いきものがたり』(小学館)という、自分の所属しているいきものがかりがデビュー10周年を迎えたことを機に、Twitter上でやった同名の企画を本にして、結成からこれまでのことを1冊の本にまとめました。今日は「YELL」の話をきっかけに、自分が曲を書く上で何を考えているか、もしくは戸谷さんがなぜJポップを哲学の題材に選んだのかとか、そういったことをお話できればと思います。

20161223-mizuno3.JPG戸谷洋志

戸谷:私は、この本を書くにあたって「YELL」を何百回と聴いたんですよ。みなさんはいきものがかりというものについて、どういうイメージを抱いているのかわかりませんが、僕は「みんなが知っていて、誰もが親しめるような身近さがあって、それでいてとても開放的で肯定的な明るいアーティスト」というものなんです。ところが「YELL」を何度も聴いていると、明るいメロディーに乗せているが、必ずしも明るいだけではない「孤独」や「別れ」といったメッセージが一貫しているように思っていて。「YELL」ではそれが非常に鮮烈に表れているなと感じたんですね。

水野:この曲、最初は合唱曲として作ったものだったので、そのときにやはり「卒業」は曲の中に含んだテーマの一つとしてありましたね。

戸谷:冒頭の歌詞は<『“わたし”は今 どこに在るの』と 踏みしめた足跡を 何度も見つめ返す>という荘厳な出だしで。「私はいまどこにいるんだ、私は何者なのだ」という問いを抱えながらも踏みしめた足跡を何度も見つめ返すけど、明確なものは見えていないという哲学的な始まり方なんです。次の歌詞も見て欲しいんですけど。

<枯葉を抱き 秋めく窓辺に かじかんだ指先で 夢を描いた 翼はあるのに 飛べずにいるんだ ひとりになるのが 恐くて つらくて 優しいひだまりに 肩寄せる日々を 越えて 僕ら 孤独な夢へと歩く>

とあって。ここは「翼はあるのに飛び立てない、その理由は一人になるのが怖いから」という話なんですよね。卒業が近づいて、いままで自分が過ごしてきた友人関係が終わりを迎えることが予感できるけど、それを受け入れることができないという葛藤が描かれているのかなと思うんです。で、次は僕の好きな部分ですね。

<永遠など無いと 気づいたときから 笑い合ったあの日も 唄い合ったあの日も 強く 深く 胸に 刻まれていく>

 これは学校生活を前提とすると、いままで友人と過ごしてきていて同じような日々がこれからも繰り返されると思っていたが、卒業が目の前にやってきて別れを自覚した瞬間に「友達の意味を変える」ことの決断を迫られるという。これも水野さんのカラーが表れていると思うんですよ。だって、別れのときが迫ってきて「別れてもずっと一緒だよ」というメッセージを発することもできるのに、水野さんは「別れたら一人ひとりが別の人生を歩んでいくから」という前提で<サヨナラは悲しい言葉じゃない それぞれの夢へと僕らを繋ぐ YELL>と答えを提示するわけで。

水野:確かにそうですね。

戸谷:「サヨナラ」というのは関係の終わりを示す言葉で、哲学的にいうと分断の言葉なんですよ。やっぱり他者と自分が違う生き方をしている中で、でもどうしても分かり合えないところはあって、離れ離れにならなくてはいけない瞬間もある。じゃあ、その他者に対して、自分はどうやって関係していくのか。水野さんの詞は「それぞれ自分の人生を決断していくんだけど、それは私も他者も同じ。私はあなたから去っていくし、あなたも私から去っていくけど、それぞれが同じように決断しているからこそお互いにつながり合える部分もある」という解釈をあたえてくれるんです。

20161223-mizuno4.JPGいきものがかり・水野良樹

水野:僕が戸谷さんの本を読ませていただいて、何を面白いかと思ったかというと、「YELL」について話をする中で“星の友情”という言葉が出てくるじゃないですか。これは「仮に2つの彗星があったとして、同じ軌道で一緒に共に歩んできたんだけど、なにかの拍子に軌道が変わってしまって、2つの双子だったような星が別々の方向に進んでしまう」というもので。解釈としては「空間的には別れなんだけれども、その星はそれぞれ孤独な道を歩むという点においてはどちらも共感できるところがあって、孤独を抱えてるというところでは友情がある」という。この曲にはその点が共通しているというのを戸谷さんが指摘されていて、実際に自分がこの曲を書いたときにイメージしたことを、まさに言い当ててもらってるような感じがしたんですよね。

戸谷:ありがとうございます。

水野:この曲を書く前段として、そもそも「自分はなんで歌を書くのか」ということも話したいんですけど。すごく暗い言葉にすると、基本的に僕、人間というのは孤独だという前提で生きているというか、分断の中にいる存在だと思っていて。そこも視点が2つあって、1つは必ず生きてるものには死が訪れるという時間的な縦軸としての分断と、同じ空間にいるひと全てが空間上で一緒にいるけど、すべての気持ちや感情を一体化させることは絶対にできないと思っている横軸の分断。そんなことを考えて寂しがっている自分だからこそ、商業的で多くの方の目に触れたりするポップスに惹かれているんだと思います。

 「YELL」を書いたときも中学生が歌うことをまず想定して、自分の中学生時代を思い起こしたりしていて。おそらく多くの人はあまり別れを経験してないだろうし、いま隣にいるクラスメイトが永遠かのように思ってしまっている。そんな彼らに理不尽な別れが訪れるというものは、絶対に彼らが歌うものとして描かなければいけないと考えていました。ここがまさしく、いま戸谷さんがおっしゃったことにつながると思うんですけど、それが悲しいだけではなく、必ず向き合っていかないと生きていけないことなんだというのは書くべきだと。それは誰もが通ることで共有もできること、つまり戸谷さんの言葉をお借りすると「孤独を共感する」ことができるというのが頭の中にあったと思うんですよね。

戸谷:これは本の中で書かなかったことなんですけど、分かり合えない他者との関係を哲学の中で議論するときによく使われる言葉で「寛容」という概念があるんです。わかりあえない他者に対して寛容になることは相手を許すこと、つまりわかりあえないことを受け入れてあげることなんです。そういう意味でこの「YELL」は面白い言葉で、単に励ましてるだけではなくて、大声で励ますというイメージがあるんですよね。そんな描写は哲学の中で考えて来られなかったことだと思うんです。他者との関係を考える時に、ある種の身体性というか勢いを持ったものはないので。

水野:この言葉自体は、歌を書くときに自分が大事にしている距離感ーー言葉を発する人間と、それを受け取る側の距離感が大事だなと思ったものでもあるんです。「頑張れよ」って、肩を叩いている感じのする距離感ですごく近いものですけど、「YELL」はもう遠くに行こうとしている人や、距離感がいまから広がっていくというか。そういう意味で「帰りたくなったよ」も距離感がある曲だと思っていて。「仕事疲れるな、早く帰りてえな」の帰りたいではなく、「上京」という言葉で表せるぐらいの感じや、もうその場所がないという距離感を意識しているんです。

戸谷:やっぱりこの「YELL」という言葉は、去りつつある他者に向けられているものなんですね。

水野:そうですね。もう少し根本の話として「なんでそういう歌を書こうとしてしまうか」というと、社会に対してそういうものが求められているだろうと思っているからなんです。世の中の人は帰りたいという気持ちを持っていてもそれを果たせない人が多くて、そんな人に歌が必要だと思っているからこそ、ああいう歌詞を書くんです。「YELL」についても、14歳と15歳の子は、この曲の本当の意味を理解しないで歌っていると思うんです。ただ、これが5年経って、場合によっては身近な人が亡くなったり、まったく違うような人間になったりして、別れをより意識する経験がどんどん増えていくなかで「ああそういうことだったのか」と思うような歌なんだと思っているんですよね。

      

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