薬師丸ひろ子はアイドルとは別種のスターだった “女優にして歌手”の軌跡を振り返る

 薬師丸ひろ子が歌手デビュー35周年を記念して、自ら選んだ12曲の映画音楽をカバーしたアルバム『Cinema Songs』を11月23日にリリースする。発売に先立ち9月25日に、収録曲の中から「戦士の休息」と「セーラー服と機関銃〜Anniversary Version〜」の2曲が先行配信された。

 「戦士の休息」は、薬師丸のスクリーンデビュー作である『野性の証明』(79年)の主題歌。オリジナルを歌ったのは町田義人、作詞は山川啓介、作曲は大野雄二だ。「セーラー服と機関銃」(81年)は主演第3作となる同タイトル映画の主題歌で、薬師丸の歌手デビュー曲となった。

 つまりこの2曲は、映画および歌それぞれにおける彼女のデビューを彩った楽曲であり、それぞれのキャリアを溶け合わせるかのような『Cinema Songs』というこのアルバムをよく象徴する選択となっている。アルバムのリリースにあたり「自分なりの映画への愛というか、ラヴレターのようなものかもしれないと思ったりしています」というコメントが彼女からは出されている。

 そこでこの2曲、「戦士の休息」と「セーラー服と機関銃」を起点に、薬師丸ひろ子という女優にして歌手の軌跡を振り返ってみようというのがこの稿の目的である。

角川映画とメディアミックス

 『野性の証明』は、角川映画第3弾として1978年10月に公開された。主演は高倉健。薬師丸は、本人が知らぬ間に応募されていたオーディションに合格し出演が決まった。年齢をはじめとして役の条件に合致していない部分があり、もう一人残った応募者に決まりかけていたところを、角川春樹が強く推して合格させたというのはよく知られた逸話だ。薬師丸の将来性を見込んだ角川は、審査員だったつかこうへいに裏で耳打ちをし、強引に合格に持ち込んだのである。

 当時、角川春樹は、映画と原作の書籍を連動させて相乗効果を狙うメディアミックスを仕掛け始めたところで、CMや広告、チラシやポスターなどが大量に出稿されていた。映画化と同時に文庫のカバーを映画仕様のものに掛け替えて売り出すのも常套手段だった。それらの写真や映像では、眼光の鋭い少女が口を固く結びキッと睨みつけていた。

 その少女が14歳の薬師丸ひろ子だったわけだが、テレビで、新聞雑誌で、街で、書店で、その凜々しい表情を何度となく見せつけられた人々(というか我々)は、映画が公開される頃には、もはやすっかり彼女に魅入られていたのだった。

『野性の証明』

 角川映画は、映画主題歌を積極的にフィーチャーし、露出を増やして売上に結び付けていくことにも早くから意識的で、第2弾『人間の証明』の主題歌であるジョー山中「人間の証明のテーマ」は40万枚を超え、「戦士の休息」も約20万枚のヒットを記録した。

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