薬師丸ひろ子はアイドルとは別種のスターだった “女優にして歌手”の軌跡を振り返る

昔からのファンも新しいファンも楽しめるカバー

 薬師丸は現在までに、15本の映画に主演し、21枚のシングルと9枚のオリジナルアルバムを発表している。13年にリリースされた前作『時の扉』もカバーアルバムで、日本のスタンダードな楽曲を選んで歌ったものだ。

 2000年代は音楽活動は実質休止状態だったが、10年代に入ってからはコンサートも再開し、また主演映画『わさお』(11年)で22年ぶりに主題歌「僕の宝物」を歌うなど活発になってきており、特に『時の扉』以降は精力的に活動を展開している印象である。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の女優・鈴鹿ひろ美役で「潮騒のメモリー」を歌ったのも記憶に新しいところだ。

 大学入学後、活動を再開してからももちろんたくさんトピックはある。「探偵物語」が松本隆—大瀧詠一コンビで書かれており、以降松本が作詞の定位置を占め、アルバム『花図鑑』(86年)でついに松本のトータルプロデュースになるとか、いくらでもトピックはあるのだが、それらを全部書くには残念ながらスペースがだいぶ小さいようだ。

 薬師丸の歌声の美点として、透明感、特に高域の透明感をあげる人は多い。長いブランクがあったのに不思議と声に衰えが感じられないなと思っていたら、声が低くならないよう声楽の先生に就いてレッスンを続けているのだというインタビューが最近出ていた。(参考:『日刊スポーツ』16年9月18日付「薬師丸ひろ子歌手35周年アルバム思い込めた12曲」

 今回先行配信される「セーラー服と機関銃〜Anniversary Version〜」のアレンジは、オリジナルの雰囲気の核を残そうとしているように見受けられるから、声に注意して聴き比べてみると面白いだろう。薬師丸はAnniversary Versionについて「大人になったらなったでこういう歌だったのかと新しい発見があり、同じ歌なのに新しい歌に取り組むようなところがある。それに、もう、この歌は、聴いてくださる人たちのものになっているような気がします」とコメントしている。

 「戦士の休息」は、町田義人のオリジナルとはアレンジから何からまったく別物で、あの哀切な楽曲が、こうまで包み込むような優しさを湛えた歌に変貌するものかと驚いた。

 いずれの楽曲も、35年の蓄積を感じさせつつも、往年の輝きを失っていない。昔からのファンも、新しいファンも、それぞれの薬師丸ひろ子のイメージを重ねて味わえるカバーに仕上がっているのではないかと思う。

■栗原裕一郎
評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter

■関連情報
『戦士の休息』『セーラー服と機関銃〜Anniversary Version〜』
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