矢野利裕のジャニーズ批評
キスマイ『KIS-MY-WORLD』が傑作である理由 サウンドの方向性から読み解く
Kis-My-Ft2の新作『KIS-MY-WORLD』は、傑作である。キスマイは、これまで多様な楽曲を歌いこなし、さまざまな音楽的可能性を探っていた印象がある。もちろんダンス・ミュージックの印象が強かったが、そのなかでもユーロビートに近いもの、ミクスチャー成分の強いものなど、細かい方向性はさまざまであった。
本作『KIS-MY-WORLD』は、先行シングル「Thank youじゃん!」「Kiss魂」の流れを受けてか、音楽的な方向性が、ディスコ/ファンク~EDMのあいだでだいたい統一されている。その意味で、シンフォニックで速い4つ打ちの「Another Future」は、アルバム中ではむしろ、アクセントとして機能している。アルバム全体はもう少しディスコ/ファンク寄りと言える。「Thank youじゃん!」は、うねるベースラインと跳ねるピアノが印象的な、少しニューオリンズ風のファンキーなダンス・ミュージックである。重要なことは、鈴木おさむによる歌詞の俗っぽさとシンプルなメロディが歌謡曲感を担保していることで、この歌詞とメロディによってお茶の間サイズに整えられている。いまから振り返れば、来るべきアルバムの方向性を決定づけていくという点で、重要なシングル曲だった。
「Kiss魂」は、ヴォコーダーも使用されたハードなEDMで、エレキ・ギターの轟音も目立つミクスチャー風の曲である。しかし、やはりファンキーなベースライン、そして一瞬挿し込まれる高音のカッティング・ギターが、重めの曲に軽やかさを与えており、その点ユニークである。「Kiss魂」「Another Future」の前後には「Brand New World」「FOLLOW」という曲が配置されているが、それぞれバキバキしたシンセサイザーを基調にしつつも、サビにやはり歌謡曲感を残している。ダンス・ミュージックを取り入れた歌謡曲/ポップスという意味では、SMAPや嵐のラインに連なるが、そのバランス感覚は、SMAPや嵐とは似て非なる。
中盤「君にあえるから」あたりになると、徐々に雰囲気が明るくなる。「君にあえるから」は、サックスとピアノがフィーチャーされたメロウなR&Bだが、キックだけがやけに太いのは、EDM的なノリを残そうとしているからだろうか。いずれにせよ、アルバムの構成としては見事である。この太いビート感は、続く「if」でも受け継がれる。「if」は、ピアノとストリングスが美しく響くバラードだが、その底流には太いビートが鳴り続けていて、ダンス・ミュージック感が強いのが面白い。そして、この生楽器をフィーチャーした2曲を経て、横尾渉&藤ヶ谷太輔による「わんダフォー」に続く。楽しいブラスアレンジに耳を奪われるが、背後のワウワウギターが本当に陽気で良い。本作は、方向性をある程度定めたがゆえに、かえってサウンドの多様性や広がりを獲得しているのだ。