椎名林檎『日出処』はもっと多くのリスナーに届くべき 初週売上げを受けて考えたこと

参考:2014年11月03日~2014年11月09日のCDアルバム週間ランキング(2014年11月17日付)(ORICON STYLE)

 このコラムでは4週間に1回自分の順番が回ってきて、その週のアルバムチャートを分析して原稿を書いるわけですが、できることならこのタイミングでアルバムチャートについては書きたくなかったというのが正直なところです。「書きたいことがない」からではなく、逆に「書きたいことがありすぎる」というか、本来は冷静に分析すべきところに私情を挟まずにはいられないからです。

 自分が20年近く音楽に関わる仕事をし続けてきた根っこには「いいものは売れるはずだ」という信念のようなものがあります。だから、自分があまり「いい」と思えないものでも売れているものがあったら「いい」ところを探そうとするし、自分が「いい」と思えるものが売れなかったとしたらその理由を探します。「ミュージシャン本人にもっと売りたいという欲があったら」とか「もっと幅広く届けるための方法論をとっていれば」とか「リリースのタイミングがもうちょっと早かったら/遅かったら」とか、「いいのに売れない」理由の一部は、音楽そのものではなくミュージシャン本人やそのミュージシャンを取り巻く環境に原因があることもあります。そういう時は歯痒い思いをしながらも、(非常に)微力ながら自分が関わっている複数のメディアを通して作品の素晴らしさを世に訴えたりもするわけですが、もう今回はそういう次元ではなく、頭をガツンと殴られたような大きな衝撃を受けています。

 前置きが長すぎましたね。何について言っているのかというと、今週3位の椎名林檎『日出処』のことです。この際、3位というチャートの順位はどうでもいいです。衝撃を受けたのは初週42.638枚という売上げ。この数字は、椎名林檎名義のオリジナルアルバムとしては前作にあたる5年半前の『三文ゴシップ』の初週売上げの約3分の1、東京事変の最後のオリジナルアルバムとなった3年半前の『大発見』の初週売上げの約2分の1。「普通に近年のCD売上げの下降トレンドに沿っただけじゃないか」とか「iTunesチャートでは1位になったじゃないか」とか、いろんな意見もあるかもしれないですが、平静を装ってそんなことを言う人の首根っこをつかんでこう問い質したいですね。「あなたは本当に『日出処』を聴いたのか?」と。

 『日出処』という作品は、単に椎名林檎が5年半ぶりにリリースした5枚目のオリジナルアルバムというだけではありません。2012年2月29日、停滞著しい音楽シーンとは逆行するように、作品を積み重ねるごとにその吸引力と存在感を増していた東京事変を敢えて解散させて、椎名林檎が不退転の決意で作り上げた一大ポップアルバム。彼女自身も「“目抜き通り”を描きたかった」(『SWITCH』2014年11月号)と語っているように、この作品は約240万枚のセールスを記録した2000年のセカンドアルバム『勝訴ストリップ』以来と言ってもいい、椎名林檎が真っ正面から不特定多数のリスナーと向き合った作品なのです。ポップに振り切れているのは音楽だけではありません。これは今回あまり語られていませんが、一聴するだけでは解読困難というイメージが強いこれまでの椎名林檎の歌詞の歴史において、『日出処』における歌詞はいつになくストレートに胸を打つ表現が目立っています。気心の知れたNHKの音楽番組とテレビ朝日のミュージックステーション以外の音楽番組にも積極的に出演するなど、リリースタイミングのプロモーション活動においてもそんな「外向き」の姿勢を明確に打ち出していました。

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