くるりの傑作『THE PIER』はいかにして誕生したか?「曲そのものが自分たちを引っ張っていってくれる」

「誰かに対して同胞意識を持つということもないし、ライバルみたいな存在もいない」(岸田)

――まさにその通りで。正直、最初にこのアルバムを聴いた時、冒頭のインスト曲「2034」が始まった瞬間、自分の中にあの曲を解釈するコードがなかったから「なんじゃこりゃ?」って思ったんですよ。でも、今はもうあの曲から始まらないと落ち着かない(笑)。

岸田:僕ね、ポール・トーマス・アンダーソンの映画が好きで、中でも一番好きなのが『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で。あれが、僕の考える娯楽作品の最たるものなんですよ。

――あれを「娯楽作品」と言い切っていいのかどうかわからないけど、岸田くんにとって「娯楽作品」の頂点なのか(笑)。

岸田:あの作品のオープニングとか、空は晴れてるのに、もう既にあかん感じがするでしょ。炭鉱の山をカメラでグワーッとなめて、そこにジョニー・グリーンウッドの変な音楽がギュイーンって鳴るじゃないですか。作品の冒頭から、そこにいる人の心情とかとはまったく関係なしに、ただ絶望感が青空とともに描かれる。あの不穏な感じをこの作品でも出したかったんですよね。あと、ポール・トーマス・アンダーソンの映画って大体長いでしょ? 今回のアルバムは14曲入ってますけど、やっぱりある程度の長さは必要だと思うんですよね。それは映画やCDのアルバムだけじゃなくて、写真集とかスポーツの試合とかでもそうで、やっぱり娯楽って一本の作品の間に2回か3回は感情の何らかのピークが来ないと。ピークが1回やと金払う気がしないんですよ、僕は。

――自分がさっき『What’s Going On』の例を出した理由はもう一つあって。あのアルバムをマーヴィン・ゲイが出した後、カーティス・メイフィールドやダニー・ハサウェイを筆頭に、当時のブラック・ミュージックがガラッと変わっていったじゃないですか。僕はこの『THE PIER』という作品が、今の日本の音楽シーンにとってそういう効果をもたらしたらいいのになって妄想してしまったんですよ。全体に波及することはないかもしれないけど、なにかのきっかけになり得る作品だなって。

岸田:なるほど。なんとなく、それと似たようなことは自分も感じてはいるんです。今回は、自分の中でも自己満足的な手応えとはまたちょっと種類の違う、何ら新しい製品の開発をしたんだなっていう。開発者としての「これをみんなどう使ってくれるやろうな」っていうような感覚っていうのがあって。実際にライヴの現場で、CDのバージョンよりも全然雑で音数も少ないんですけど、「Liberty&Gravity」をバーンとやって終わった時のお客さんの表情だったりとか、レスポンスの多さというよりも、その質っていうんですかね、それがこれまでにはない感じで。みんな、どよめくんですよね。全然規模は違いますけど、昔、自分たちが「東京」っていう曲を作ったばかりの時のお客さんの反応とそれがちょっと似てて。自分たちがこうしたい、こうなりたいっていうより、曲そのものが自分たちを引っ張っていってくれてる感があって。ただ、音楽シーンのこととかは、もうあまり考えてないかな。誰かに対して同胞意識を持つということもないし、ライバルみたいな存在もいないし。

――でも、尊敬している先輩のミュージシャンもいるし、可愛い後輩もいるだろうし、そういう中で音楽をやっているという意識はもちろんあるわけですよね?

岸田:もちろん、それはすごくありますよ。ないのは同胞意識だけ。尊敬する人っていうのは、畑も違うし、やってることも違うし。後輩のバンドにも好きなバンドはいっぱいいるけど。

――孤独を感じてるわけではない?

岸田:いや、孤独ですよ。孤独でしかない。でも、みんなそうでしょ。僕らと同期だったスーパーカーやナンバーガールのメンバーだって、今もずっと音楽をやってるけど、みんな孤独やと思いますよ。でも、音楽ってそういうものだと思うんですよ。だから、最近のフェスのお客さんの、全部ではないと思うけど、なんか妙な連帯感だけで来てる感じとかがほんまに嫌いで。ああいう人たちは、みんなサッカーとか野球とかを観に行ったらいいのになって。そっちの方が絶対に彼らのやりたいことが思う存分にできるし、そういう人らがいなくなると、ちゃんと音楽が好きな人たちだけが残るから。まぁ、暴論ですけどね(笑)。何が言いたいかって言うと、音楽ってすごく便利なものだし、そこに正解なんてないんですけど、みんなもっとそれぞれが好きなように、自由なかたちで関わってほしいなって思うんですよね。『THE PIER』に入ってる曲には、何かの結論を出しているような曲はないんですよ。これまでも、よく人から「くるりっぽいね」って言われる曲って、コード進行的にも何も解決せずにぼやーんとしたコードで終わっていく曲が多くて。いつも僕らは結論を出さないし、急いでもいないし、それは今作でも同じ。ただ、何かに対してすごく怒っていて、だからこういう作品ができたって言うことはできると思います。多分、同じような怒りを感じているミュージシャンも多いと思うんですよね。でも、そこでどういう作品を出すかっていうところにおいては、ミュージシャンによって当然違いはあって。それでこういう作品を作ると、やっぱりすごく孤独感を感じることになりますね(笑)。

(取材・文=宇野維正)

■リリース情報
『THE PIER』
発売:2014年9月17日
【初回限定盤】
全曲楽譜集付き7inchサイズジャケット仕様、「Liberty&Gravity」ハイレゾ音源ダウンロードコード付き
¥5,000(税抜)
※ハイレゾ音源の再生には専用の再生環境が必要です。
※ハイレゾ音源ダウンロードコードはハイレゾ配信サイト「VICTOR STUDIO HD-Music.」でご利用いただけます。
【通常盤】
¥2,900(税抜)

〈収録曲〉
1.2034
2.日本海
3.浜辺にて
4.ロックンロール・ハネムーン 【チオビタ・ドリンク2013夏編CMソング】
5.Liberty&Gravity
6.しゃぼんがぼんぼん
7.loveless <album edit> 【チオビタ・ドリンク2013~2014 通年編CMソング】
8.Remember me  【NHK総合「ファミリーヒストリー」テーマソング】
9.遥かなるリスボン
10.Brose&Butter
11.Amamoyo
12.最後のメリークリスマス<album edit>
13.メェメェ
14.There is(always light)  【10月18日公開・映画「まほろ駅前狂騒曲」主題歌】

■ライブ情報
『「THE PIER」リリース記念 くるりワンマンライブツアー2014 ~金の玉、ふたつ~』
11月6日(木) 東京 : EX THEATER ROPPONGI
11月10日(月) 東京 : 中野サンプラザ
11月11日(火) 東京 : 中野サンプラザ
11月25日(火) 広島 : CLUB QUATTRO
11月26日(水) 名古屋:Zepp Nagoya
11月29日(土) 福岡 : Zepp Fukuoka
12月2日(火) 大阪 : オリックス劇場

『京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園』
9月21日(日) 京都・梅小路公園 芝生広場

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