2025年ゲームカルチャー総決算 インディーの躍進とライブサービスゲームの試練、Switch 2発売で業界は新時代へ

 2025年も残りわずか。みなさんにとって、今年はどのような1年だっただろうか。本稿では、この時季の風物詩として、2025年のゲームカルチャーをさまざまな角度から振り返っていく。

『都市伝説解体センター』のヒットに示された「小規模制作」「異業種参入」のトレンド

『都市伝説解体センター』ローンチトレーラー

 年が明け、最初にゲーム業界を賑わせたのは、集英社ゲームズが販売元のミステリーアドベンチャー『都市伝説解体センター』のヒットだった。

 2025年2月13日にリリースを迎えた同作は、小規模制作から生まれたタイトルでありながら、「都市伝説をテーマにしたキャッチーな世界観」「手軽にプレイでき、かつ没入度の高いストーリーテリングの形」「ピクセルアート風のサイケデリックなグラフィック」などが高く評価され、たちまち話題に。SNSにおいて、関連ワードがトレンド入りするといった印象深いムーブメントを巻き起こした。Steamプラットフォームのユーザーレビューには「おすすめ」の声が多数集まり、あっという間に高評価作品に。インディーが躍進するゲーム市場にあって、国産タイトルでは、2025年屈指の成功作となった。

 特筆すべきは、発売元の集英社ゲームズが異業種からの参入である点。業界ではここ数年、同様の例が相次いでいる。集英社以外では、おなじく出版を本業とする講談社、エンタメ事業を展開するサンリオ、商業施設「PARCO」で知られるパルコなどがパブリッシャーとして参入し、すでにタイトルをリリースしている。ゲーム市場はすでに専門外の企業でもヒット作を生み出せる構造となりつつある。

 こうした現状を浮き彫りにしたという意味で、『都市伝説解体センター』のヒットは非常に興味深い。2026年も同様の流れが続くのか。そのようなことを考えさせられるトピックだった。

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海外発では『R.E.P.O.』『CloverPit』がブレイク 両者から考えるヒットの条件とは

R.E.P.O. Release Trailer

 目覚ましい結果を残した2025年発売の国産インディータイトルの例に『都市伝説解体センター』を挙げるならば、海外からは『R.E.P.O.』を選出しておかなければならない。

 同作は、スウェーデンを拠点に活動するインディーゲームスタジオ・semiworkが開発/発売を手掛ける、オンライン協力型のホラーアドベンチャーだ。2025年2月にSteamにてアーリーアクセスが開始されると、カジュアルでわかりやすいゲーム性と、物理演算を取り入れたシステムによる歯ごたえのある難易度、最大6人による協力プレイといった性質が受け入れられ、たちまちトレンドのタイトルとなった。

 市場調査会社のGameDiscoverCoが12月に発表した「2025年に発売された新作ゲームの売上ランキング」では、さまざまな人気タイトルを抑え、1位にランクイン。このデータには推計も盛り込まれているため、多少の誤差はあるだろうが、『R.E.P.O.』が「2025年を代表するインディータイトル」であることは否定しようのない事実だろう。

CloverPit - Launch Trailer

 他方、秋には、2人のイタリア人からなるインディーゲームスタジオ・Panik Arcadeが開発を、イギリスのパブリッシャー・Future Friends Gamesが発売を手掛けたローグライクスロットゲーム『CloverPit』がヒットを記録した。両者に共通するのは、「実況/配信界隈からブームに火がついたこと」「与えられたノルマをひとつずつクリアしていくゲーム性」「ゲームオーバーとなると、最初からやり直しになる仕様」だ。つまるところ、これらは成功するインディータイトルに求められる要素と考えられるのではないか。

 『R.E.P.O.』と『CloverPit』の躍進には、ゲーム市場のトレンドの一端を見ることができる。こうした傾向は2026年も続くのか。その点にも注目だ。

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『モンスターハンターワイルズ』と『ポケポケ』に見る、ライブサービスゲーム運営の難しさ

『モンスターハンターワイルズ』 プロモーション映像①

 また、2月末には、『モンスターハンターワイルズ』が発売に。同作は7年ぶりに主要プラットフォーム(PlayStation/Xbox/PC)で同時展開されるシリーズの最新作ということもあり、『モンスターハンター:ワールド』に代わる一作になるのではないかと注目を集めた。

 リリース当初こそ、爆発的な支持を獲得し、空前の同時接続プレイヤー数を記録したが、その後は特にPC版において、挙動の不安定さを含む不具合が頻発。少なくとも現時点では、発売前の期待に匹敵する評価を得るには至っていない。

 他方、『モンスターハンターワイルズ』と異なるジャンルでは、『Pokémon Trading Card Game Pocket(以下、『ポケポケ』)』をめぐる動向も興味深かった。同作においては、1月末にトレード機能を実装するアップデートを実施。しかしながら、その仕様が望まれた形ではなかったことで、ユーザーの不満が噴出する事態となった。

 こうした声を受け、運営は3月末、改修を発表。7月に第1弾となるパッチを配信した。公式のアナウンスによると、今後も随時、修正や要素の追加を行っていくとのこと。トレード機能の実装を端緒に、『ポケポケ』運営は1年を通じて対応に追われる形となった。

 業界動向に詳しいフリークならご存知のとおり、同作は2024年10月のサービス開始直後から爆発的に支持を広げ、あっという間に比肩しうる存在がないと言っても過言ではないほどの人気タイトルとなった。一連の経緯は『モンスターハンターワイルズ』のそれと酷似する。両作のあいだには、「基本プレイ無料・アイテム課金型」と「有料版として販売」というマネタイズモデルの違いこそ存在しているものの、「アップデートを行いながら息の長い活躍を期待されてきたコンテンツである」という共通項がある。その点を踏まえると、ともにライブサービスゲームに分類して差し支えないタイトルであると言えるだろう。

 業界では、長期的に利益の獲得が見込める同モデルに力を注ぐ企業が増えているが、実際に相応のIPの創出できた例は多くない。『モンスターハンターワイルズ』と『ポケポケ』という異なるジャンルの人気作が2025年に見せた動向には、開発/運営の難しさが映し出されているような気がしてならない。

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2025年を代表する1作といえば……見事GOTYを獲得した『Clair Obscur: Expedition 33』

『Clair Obscur: Expedition 33(クレール オブスキュール:エクスペディション33)』ローンチトレーラー

 4月には、のちに2025年の賞レースを総なめにしていくことになる『Clair Obscur: Expedition 33』(クレールオブスキュール エクスペディション33)が発売を迎える。ベル・エポック時代のフランスを舞台にしたコマンドRPGである同作は、独創的な世界観や美しいグラフィック、伝統と革新を両立したシステムなどが評価され、発売から3日で100万本の売上を記録。当初から業界で最高の栄誉とされる「The Game Awards」の「Game of the Year」受賞を有力視する声が大きかった。

 12月12日に開催された「The Game Awards 2025」では、そのような事前の評価を裏切ることなく、見事「Game of the Year」を獲得。インディー発のタイトルであることを踏まえると、『Hollow Knight: Silksong』や『HADES II』『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』『ドンキーコング バナンザ』『Kingdom Come: Deliverance II』といった並み居る強豪を抑えての受賞は、快挙というほかないだろう。

 The New York Times誌が行ったインタビューによると、『Clair Obscur: Expedition 33』は1,000万ドル(日本円で約16億円)以下の開発費で制作されたのだという。業界で話題を集めやすい「AAA」と呼ばれるタイトルには、その10倍以上の予算がかけられるケースも少なくない。

 一方で、同作に盛り込まれた体験がそれらに見劣りするかと言われれば、決してそのようなことはない。先に紹介した『都市伝説解体センター』の例同様、ゲームの開発/販売は、これまで以上に「限られた予算をどこに投じるか」が重要となりつつある。『Clair Obscur: Expedition 33』の発売と商業的成功、その後に得た評価は、最新のゲーム制作のトレンドを表す、2025年を代表する出来事のひとつであったと言える。

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ついに発売を迎えたNintendo Switch 2 待望される金字塔的タイトルの登場

Nintendo Switch 2 予告映像

 2025年のゲームカルチャーを振り返るならば、この話題を避けて通ることはできない。任天堂は6月5日、全世界で1億5,000万台以上を売り上げたNintendo Switchの後継機「Nintendo Switch 2」をリリースした。

 前世代機の成功、ローンチからの経過年数もあり、公式アナウンスが行われる何年も前からさまざまな憶測を呼んでいた同機。事前の予想では、「Nintendo Switchの偉大な功績に匹敵する結果は残せないのではないか」との懐疑する声も多くあったが、蓋を開けてみると、そのようなバックグラウンドを追い風に、販売台数を現在進行形で伸ばし続けている。

 発売から4日間での全世界における販売数は350万台以上。その後も勢いはとどまることなく、9月末には1,000万台を突破した。こうした結果を受け、任天堂は、当初強気と言われていた2026年3月期の予想販売数を、1,500万台から1,900万台へと引き上げた。

 惜しむらくは、同機を代表するようなタイトルがまだ生まれていないことだろうか。前世代機であるNintendo Switchでは、そのローンチタイトルとして『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、『ゼルダの伝説 BotW』)がリリースされている。アクションRPG「ゼルダの伝説」にオープンワールドのシステムを取り入れた同作は、そこに含まれる体験によって、シリーズ、さらにはゲームカルチャーそのものの新たな可能性を示した。オープンワールドの分野のその後のトレンド化に、同作が影響した面も少なからずあるだろう。

 一方、Nintendo Switch 2の初年度の目玉として用意されていたであろう『マリオカート ワールド』『ドンキーコング バナンザ』『カービィのエアライダー』は、十分な結果を残しつつも、ゲームカルチャーに名を残すほどの作品とはなれていない現状がある。同機をめぐって今後期待されるのは、『ゼルダの伝説 BotW』に匹敵するようなゲーム史に名を刻むタイトルの登場なのかもしれない。

発売4日で350万台 Nintendo Switch 2“予測超えの初動”で、ゲーム制作はミドルレンジ主流の時代に?

6月5日、Nintendo Switch 2が発売となった。世界で1億5,000万台以上を売り上げたNintendo Switc…

任天堂の販売施策がSIEにも波及 ゲーム機は「日本語」モデルで国内在庫を確保する時代へ

State of Play 日本 | 12.11.2025 [日本語 - JAPANESE]

 Nintendo Switch 2の流通では、国内市場に対して一定数の在庫を確保するため、「日本語・国内専用」バージョンが展開されるという、珍しい施策も目を引いた。国内において、同機が事前の予想以上に受け入れられた背景には、このモデルの影響もあったと推測する。

 こうした任天堂のマーケティングは、競合であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のそれにも作用したと考えられている。同社は11月、展開する現世代機・PlayStation 5に、新たに「日本語専用」バージョンを用意した。ファミ通発表のデータによると、直前の週では、500台弱にとどまっていたPlayStation 5 デジタルエディションの販売数が、同モデルの発売直後には、23,400台まで跳ね上がった。発表時には、好感を持って受け入れている層がいる一方で、「ローンチ時にやってくれていれば」「もう遅い」といった声も目立ったこの施策。蓋を開けてみると、はっきりとその効果を確認できた形だ。

 転売など、流通に問題を抱えるローンチ期のハード販売において、今後、明確な解決策が生まれないかぎりは、こうした手法が一般的となっていくのかもしれない。その意味において、任天堂が独自の施策を生み出したこと、それが競合であるSIEにも影響したことは、2025年のゲーム業界における印象的な出来事であったと言える。「(少なくとも国内においては)安心できる業界に一歩近づくことができた1年」と振り返ることができるのではないだろうか。

PS5、日本語版発売で大幅値下げ “どっちつかず”を脱却し、国内市場でNintendo Switch 2に対抗か?

SIEがPS5・日本語専用モデルを発表。任天堂の国内戦略やPCゲーム市場の拡大を踏まえ、その背景とゲーム業界への影響を詳しく解説…

 駆け足で振り返ってきた2025年のゲームカルチャー。みなさんの印象に残っているのは、どのような出来事だろうか。そのような話題で盛り上がるのも、年の瀬ならではの楽しみなのかもしれない。

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