PS5、日本語版発売で大幅値下げ “どっちつかず”を脱却し、国内市場でNintendo Switch 2に対抗か?

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)は11月12日、日本およびアジア地域で制作された新作の情報を届ける配信番組「State of Play 日本」のなかで、PlayStation 5の新モデル「PlayStation 5 デジタル・エディション 日本語専用」(以下、PS5・日本語版)を発表した。
本稿では、直近の業界動向から、PS5・日本語版リリースの背景を読み解く。同機の発売は、今後のゲーム市場にとってどのような意味を持っていくだろうか。
PlayStation 5のラインアップに日本語専用バージョンが登場
PlayStation 5は、2020年11月にローンチされたSIEの現行ハードだ。「ハプティックフィードバック」「アダプティブトリガー」といったプレイの没入感を高める機能、4K出力や120fpsのフレームレートに対応したグラフィック性能、ロード時間の短縮化を実現した超高速SSD、PlayStation 4との後方互換性などを特徴とする。展開されているのは、ディスクドライブを搭載した「PlayStation 5」、ダウンロードソフトのみに対応する「PlayStation 5 デジタル・エディション」(以下、デジタル・エディション)、より高いスペックを備えた「PlayStation 5 Pro」(以下、PS5 Pro)の3タイプ。各モデルには機能に応じて価格差が設けられている。
全世界における累計販売台数は、2025年9月末時点で8,410万台。これは前世代機・PlayStation 4の同一期間における実績と比較しても遜色のない数字である。同機は2022年6月末までに全世界で1億1,700万台以上を売り上げ、PlayStationプラットフォームでは、PlayStation 2の1億6,000万台に次ぐ、第2位の販売台数を記録している。現行機がその数字を上回れるかに注目が集まる。
今回、発表されたのは、PlayStation 5の基本性能はそのままに、価格を大幅にディスカウントした日本国内専用の新モデル。本体言語を「日本語」、国/地域を「日本」に設定しているPlayStationアカウントのみが利用できる。価格は、全世界向けに展開されている従来のデジタル・エディション(税込72,980円)より約1万8,000円安い税込55,000円。発売日は2025年11月21日となっており、本稿公開時点ですでに販売が開始されている。
PS5・日本語版リリースの背景は?
SIEはなぜローンチから5周年を迎えるタイミングで、PS5・日本語版を発売するに至ったのだろうか。影響したと考えられるのが、「Nintendo Switch 2 日本語・国内専用」バージョン(以下、Nintendo Switch 2・日本語版)の存在だ。任天堂はNintendo Switch 2のローンチにあたり、多言語対応バージョンより価格を抑えた日本国内専用のモデルを展開している。このことが国内での普及を後押しし、異例のペースで販売台数を伸ばしている。
任天堂とSIEは家庭用ゲーム機の領域において、長くライバル関係にある。特に国内では、前世代機・Nintendo Switchの躍進以降、熱狂的に支持される任天堂プラットフォームの勢いに押されつつある実態がある。CS機で発売されるサードパーティータイトルは、マルチプラットフォームで展開される場合が多く、ユーザーは自身にとって都合の良いハードを選択できる。特にライト層は各プラットフォームで独占展開されるファーストパーティータイトルをあきらめ、1つのハードのみを所有するケースが少なくない。SIEにとっては、国内で広がるNintendo Switch/Nintendo Switch 2のシェアを奪うことが、求心力の回復に直結するというわけだ。
また、ここにはハードの販売をめぐるマーケットの現状も影響していると推測する。2025年6月に待望のローンチを迎えたNintendo Switch 2は、リリース当初こそ品薄が続いたが、ここ最近は在庫状況が改善。任天堂の公式オンラインストアが招待販売を実施していることに加え、ゲームメディアを取り扱う小売店などが抽選なしで店頭販売する例も増えており、まもなく誰もが自由に購入できる段階がやってくる見通しだ。シェアを奪いたいSIEにとっては、Nintendo Switch 2が思うように手に入れられるようになり、よりライトな層へとリーチし始めるこれからが正念場であると言える。だからこそ、上述の方法で顧客の獲得を狙ったのではないか。
価格設定にも、そうしたSIEの思惑がにじむ。先にも述べたとおり、PS5・日本語版の価格は、税込55,000円。税込49,980円で販売されているNintendo Switch 2・日本語版より、約5,000円高い。しかしながら、両機のあいだには、スペックや対応ソフトなどに差がある。なかには「プラス5,000円でPlayStation 5が買えるのなら……」と考える、Nintendo Switch 2購入待ちのユーザーもいるかもしれない。
おそらくSIEは、国内市場において、PlayStation 5をNintendo Switch 2の比較対象に押し上げたいのだろう。今回の実質的な値下げにより、サードパーティータイトルを中心にプレイする予定で、かつNintendo Switch 2が備える携帯性を求めないユーザーには、PlayStation 5が有力な選択肢となったのではないか。
そのうえで、ひとつ懸念があるとすれば、PS5・日本語版が物理メディアに対応しない点だろう。SIEはデジタル・エディションやPS5 Proに外付けできるHD Blu-ray ディスクドライブを別売りで用意しているが、税込11,980円と誰もが気軽に購入できる価格ではない。
加えて、業界では「プラグアンドプレイ」に対する支持も根強い。プラグアンドプレイとは、物理ソフトを本体に挿せば、インターネットを介してゲームデータをダウンロードすることなく、そのままタイトルをプレイできる仕様を指す言葉だ。
実際に『サイバーパンク2077 アルティメットエディション』Nintendo Switch 2版をパッケージ、ダウンロードのそれぞれでリリースしたCD PROJEKT Groupは、8月末に公開された2025年前半の決算報告のなかで、売上の75.4%がパッケージ版だったことを明かしている。同タイトルでは、ゲームカートリッジにすべてのゲームデータを収録しており、追加のダウンロードを行うことなくプレイできた。CD PROJEKT Groupは一連の製品仕様が好調な売れ行きに作用したのではないかと言及していた。
ハードの販売においても、物理メディアに対応しているかが売上に影響する可能性がある。こうした潜在的なニーズの存在は、PS5・日本語版の成否を考えるうえで、スペックや価格、対応ソフトの差とは異なる指標となっていきそうだ。
PS5・日本語版の発売が意味するもの
他方、PCゲーミングの領域では11月13日、Steamを運営するValve Corporationが据え置き型ゲーム機「Steam Machine」を発表した。2026年初頭より順次出荷予定で、発売日、価格は年明け以降にアナウンスされる予定だという。
同社は2022年2月、アメリカの半導体企業・Advanced Micro Devices(AMD)と協力し、携帯型ゲーム機「Steam Deck」を発売している。今回発表されたSteam Machineは、これに続くValve Corporationのゲーム機事業の新展開ということになる。
ゲーム業界ではSteamの登場以降、PCゲーミングの市場が右肩上がりで成長を続けている。同サービスの同時接続プレイヤー数は、2015年8月に1,000万人、2020年3月に2,000万人、2022年10月に3,000万人、2025年3月に4,000万人を突破し、2025年10月には、史上最多となる約4,167万人を記録した。見てわかるとおり、増加のペースは年月を追うごとに早まりつつある。SteamはPCゲーミング市場の黎明期から、その盛り上がりを牽引してきた。
こうした同サービスの存在感を裏付けるように、Steam Deckのローンチ後には、PCやその周辺機器のメーカーが続々と携帯ゲーミングPCの市場に参入。現在では、主要各社からさまざまな端末が発売されている。このような経緯を踏まえると、Steam Machineの発売以降には、据え置き型ゲーミングPCでも同様の競争が生まれる可能性がある。一連の動向により、ユーザーはこれまで以上に、スペックや価格などの面で自身にとって都合のよいハードウェアを選びやすくなるのかもしれない。
かねてからPlayStation 5は「Nintendo Switch/Nintendo Switch 2に勝る性能を持つが、ミドルレンジ以上のゲーミングPCには敵わない」と、中間的なポジションに分類されてきた。Steam Machineの登場により、ゲーミングPC全体がユーザーにとって、さらにリーズナブルなハードウェアとなることで、SIEは今後どちらと戦っていくべきなのか、方針の明確化を迫られていると言える。
言わずもがなだが、同様の規格で長く発売される性質を持つ家庭用ゲーム機が、パーツを部分的に換装することで常に最先端のハードウェアであり続けられるゲーミングPCと、スペックで競うのは分が悪い。今回のPS5・日本語版の発売は「SIEが家庭用ゲーム機の領域でシェアを争っていく」という声明ともとらえられる面がある。
SIEが新たに打ち出したPlayStation 5の販売戦略は奏功するだろうか。ゲーム機市場の今後を占ううえで、重要なターニングポイントとなりそうだ。

























