「ReGLOSS 渋谷さんぽ」も話題 音のARを謳う『Locatone』が実現する“新たなエンタメ体験” 

『Locatone』による“新たなエンタメ体験”

 マップ上にある特定のスポットを訪れると、自動的にその場に応じた音声や音楽が聴こえてきて、自分の好きなコンテンツと一緒に現実世界を散策できる「Sound AR」サービス『Locatone(ロケトーン)』。同サービスがカバーのVTuberグループ「hololive DEV_IS」のユニット「ReGLOSS」とコラボしたイベント「ReGLOSS 渋谷さんぽ」を12月17日まで開催中だ。

 SHIBUYA TSUTAYAとも連動してポップアップショップが展開されていたり、歩き回るなかでReGLOSSのメンバーの会話劇やアルバム『Snapshot』をアプリ内で聴くことができる同イベント。街を舞台にしたテクノロジー×エンタメの新たな取り組みについて、今回はソニーマーケティング株式会社 事業開発センターの安彦剛志氏と増子寿壮氏に、サービスの歴史や様々な施策の裏側を聞いた。(編集部)

音楽が「聴く」「見る」から「体験する」世界へと移るなかで生まれた『Locatone』

ーーまずは『Locatone』がどのようにしてローンチされたのかを教えてください。

安彦:『Locatone』は、ソニーが10年以上前から取り組んでいる「リアルな場所でエンタメを作る」という事業から発展したサービスです。我々が目指しているのは、リアルな場所に仮想的な音声を配置し、ユーザーがその場所を訪れることで、自分の好きな世界と一体になれる体験を提供することです。

ーー10年以上の歴史があるのですね。そもそも『Locatone』には前身となるサービスがあったとか。

安彦:アニメの聖地巡礼サービス「舞台めぐり」ですね。同サービスを運営していた際に、リアルな場所に声や音楽が聞こえてくるシチュエーションを体験したファンが現地で泣いていたのが印象的で。アニメをそこで上映しているわけではないのに、なぜ現地で泣いているのか。それは、ARがあるからこそ、自分が好きな世界がリアルに「降ってきた」ように思えるエモーショナルな繋がりが生まれていたからです。私はこの繋がりこそがエンタメの本質だと考え、アニメの聖地巡礼に留まらず、全世界のユーザーに「自分の“好き”と一体になれる」体験を提供しようと『Locatone』を立ち上げました。

ーーなるほど。一方で増子さんは、『Locatone』がソニー株式会社からソニーマーケティングに営業主体が移ったタイミングから運営に携わってこられたそうですね。

増子:私は昨年『Locatone』の営業や運営の一部がソニーマーケティングへ移った際にサービスとして以前から興味のあった『Locatone』チームへ自ら手を挙げてJOINすることにいたしました。現在は『Locatone』のマーケティング全般を担っています。案件の獲得からツアーなどの形式での仕掛けや工夫の組み込み、リリース後の運用サポートまでを担当しています。

 エンタメ領域での活用はいくつか軸がありますが、一つは安彦が申し上げた「聖地巡礼コンテンツ」です。これは『Locatone』の中でも強力なジャンルであり、『ラブライブ!サンシャイン!!』が函館で行った5周年の企画や、静岡鉄道様とともに『僕のヒーローアカデミア』とコラボした「僕の静岡まちめぐり」などが事例として挙げられます。

安彦:聖地巡礼に関して強調したいのは、アニメが放送されたから聖地になるのではなく、「アニメの好きな人たちをちゃんと持てなしてくれる地域」が聖地になるという考えです。例えば先ほど挙げた「僕の静岡まちめぐり」は、静岡の街全体が盛り上がり、毎年コンテンツを継続してくれているため、ファンにとっての聖地化が進んでいます。『Locatone』はそうした地域とIPを繋ぎ、人が動くきっかけを作るエンタメソリューションを提供するという大きなミッションを担っています。

 もう一つの軸は、『Locatone』が目指す「新しいエンタメ体験」、すなわちイマーシブな体験の創出です。音楽が「聴く」「見る」から「体験する」世界へと変化する中で、IPとのパートナーシップを通じて、例えばLiSAさんやYOASOBIさんとのコラボレーション事例のように、音楽の中に自分が入り込めるような新しい遊び方を提案しています。

ーー既存のIPやコンテンツに新たな価値を付与するだけでなく、地域や移動手段までエンタメ化されていることがよく分かりました。その中で、今回VTuberを起用した「ReGLOSS 渋谷さんぽ」の施策が生まれたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

安彦:ソニー側からホロライブプロダクション様にお声がけさせていただいたのですが、その前に私たちはVTuberの「ゲーム実況」という文化に注目していました。ゲーム実況は、自分が体験していることを言葉にして周りの人に伝え、評価を得る仕組みですよね。この「リアルな目の前のものを自分で言葉にできて人に伝える能力」が、そのまま「リアルな場所を面白く伝える能力」に繋がるのではないか、と考えたのです。ライバーさんが自分の言葉で場所を実況すれば、説得力のある面白いコンテンツができるだろうという期待がありました。

会話劇と音楽の聴き心地、GPSの判定制度…ユーザー体験向上に欠かせなかった工夫とは

ーーその中で、数あるVTuberグループの中からReGLOSSが選ばれた理由、そして舞台が渋谷になった経緯について教えてください。

安彦:ReGLOSSが選ばれた最も大きな理由は、彼女たちが渋谷を拠点に活動しているグループであったことです。ファンの方々にとって、街に紐づいて活動している人たちが街を実況することの方が、より納得感があるだろうという判断がありましたし、ReGLOSSの皆さんが渋谷の街にいそうだとファンに思ってもらえることが重要でした。

ーー施策の内容についてですが、従来のLocatoneは10~20個くらいのスポット数が多いですが、「ReGLOSS 渋谷さんぽ」では30個と多かったことに驚きました。

増子:スポット数はホロライブプロダクション様側との協議で決定し、約30箇所となりました。これは、短い時間で多くのスポットを巡ることを可能にするためです。渋谷駅周辺という密集したエリアにスポットを配置することで、ユーザーが自由にルートを決めやすく、1日で回りきれる構成にしました。広がりすぎず、密集している方が、リアルな若者の渋谷での遊び方にも近い体験を提供できると考えました。

ーー実際に体験してみると、まるでラジオ番組を聴いているかのようにスムーズに渋谷を巡ることができました。会話劇がシームレスに始まり、終わるとまたアルバムの楽曲がスムーズに流れるという体験も素晴らしかったです。技術面で工夫されたポイントはありますか?

増子:『Locatone』では、BGMパートと音声パートがフェードイン・フェードアウトでシームレスに重なり、自然な体験を提供できるよう工夫しています。切り替えが断絶しているとユーザー体験として不快になってしまうため、散歩している感覚を損なわないよう、細かく調整しました。

 さらに、渋谷のようなビルが密集しているエリアでは、GPSがズレやすいという課題があります。厳密にエリア設定をしすぎると、少しでも場所がズレると音声が流れないという問題が発生するため、エリア設定の微調整を何度も重ねました。ユーザーが「難しそう」と感じることなく、近くに来たら反応してくれる、柔軟な設計にすることを目指しました。

安彦:今回は特に楽曲が取り入れられていたことで、ただのガイドコンテンツではなく、長く歩いていてもアルバムを聴いているかのような、気持ちのよい体験を作ることができました。

増子:音声コンテンツについてはホロライブプロダクション様側から素晴らしい内容のものを提供いただきました。メンバーの方々のパーソナリティや、渋谷という場所で何について語るか、という内容のバランスが絶妙で、ファンのみなさんが「ReGLOSSらしい」と感じられるものが提供できたと思います。

ツアーと合わせて展開されていたSHIBUYA TSUTAYAのポップアップショップ

ーー体験を通じて、私も渋谷という場所を熟知していたつもりでしたが、それでも新しい発見がありました。ユーザーの反響としてはいかがでしたか。

増子:SNSへの投稿を見ると、「渋谷を改めて知った」「普段行っている場所を違う側面から見れた」「ここにこんなのがあるなんて知らなかった」といった、多くの発見があったという声が寄せられており、非常にやってよかったと感じています。

 『Locatone』のコンテンツにはAR写真機能も含まれていますので、ユーザーは各スポットでAR画像をゲットし、様々なポーズのキャラクターと写真を撮って、SNSで共有して楽しんでいただいてます。AR写真、音声、散歩というテーマがトータルでマッチし、ツアーとしての満足度が非常に高かったと感じています。

ーー今回の施策を経て、今後『Locatone』が目指す展開や、挑戦したい新しいジャンルについて教えてください。

安彦:今回の施策はうまくいったと手応えを感じていますので、今後はライバーさんとの「街実況」のような組み合わせを、もっといろんなパターンで展開したいと考えています。

 バーチャルの方だけではなく、動画で地域を紹介している人たちと連携し、街を面白く実況するコンテンツを作りたいです。これが一つのジャンルとして確立できれば、リアルを面白くする作り手が増えることにも繋がります。

増子:私たちは、VTuberやYouTuberとのコラボレーションを多様なパターンで展開し「街実況」のような新しいジャンルを作りたいですね。

安彦:そういった思いがあって、『Locatone』が目指す最後の大きな軸は「音声コンテンツクリエイターを作るサービス」の構想です。全国には、ガイドなどリアルな場所を解説できる人々が数万人います。彼らの持つ面白い知見やストーリーをデジタル化し、収益化できる仕組みを提供したいのです。リアルな場所に声を配置することで、新しいエンタメを作れる人を増やしていく。このビジョンを実現するために、ベータ版として「Locatone Studio」を一部クリエイター向けに展開しており、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の世界を創造していきたいと考えています。

ーー最後に、今後Locatoneを適用してみたい、新しい場所やコンテンツの構想があれば教えてください。

安彦: 個人的な野望ですが、「世界遺産」で展開したいですね。世界遺産は見るべき場所は多いですが、詳しい人が解説してくれたら、もっと面白い体験になるはずです。専門家の面白い解説と連携し、グローバルに広がるシリーズにしたいと考えています。

増子: 私は、スポーツ系コンテンツに意欲があります。スポーツもファンが多く、非常に熱くなっていますので、例えばスタジアムへ向かうまでの道のりで、音声コンテンツを聞きながら気分を盛り上げられるような、試合会場周辺で顧客に喜んでもらえる体験を提供できないかと考えています。成功事例として、そうした音声コンテンツを作っていきたいです。

■Holy Night Symphony in みなとみらい
ナレーションは、声優・俳優の津田健次郎さん
https://www.locatone.sony.net/ch/53/
https://musicport-yokohama.jp/news/11158
開催期間:2025/11/6日(木)~2025/12/25(木)
開催場所:神奈川県 横浜みなとみらい21地区

■町田市×うたごえはミルフィーユ
手鞠沢高校アカペラ部と行く♪市内観光プログラム(Produced by クマちゃん)
https://www.locatone.sony.net/ch/86/
https://www.city.machida.tokyo.jp/kanko/miru_aso/utamille/utamille_locatone.html
開催期間:2025/10/1日(水)~2025/12/28(日)
開催場所:東京都 町田市

■『僕のヒーローアカデミア』×静鉄コラボ 
僕の静岡まちめぐり
https://www.locatone.sony.net/ch/85/
https://www.shizutetsu.co.jp/heroaca-shizutetsu/
開催期間:2025/9/21(日)~2025/12/20(土)
開催場所:静岡県 静岡市

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