過去作への敬意と現代のプレイヤーに適応した進化……コナミデジタルエンタテインメント・岡村憲明&是角有二に聞く、新体制で生み出した『MGSΔ』の背景

新体制で生み出した『MGSΔ』の背景

 リアルサウンドテックの連載「ゲームクリエイターの創作ファイル」では、“ゲーム作り”にフォーカスしてクリエイターたちにインタビュー。その真髄に迫っていく。

 第7回の今回は『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』クリエイティブプロデューサーの是角有二氏と、「メタルギア」シリーズ制作プロデューサーの岡村憲明氏にインタビューした。

 1987年に生まれた「メタルギア」シリーズとともに歩んできたコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)の重鎮である二人から、自身のキャリアの振り返りや、リブートしたシリーズの未来、そしてクリエイターは何を目指すべきなのかなど、さまざまな観点からじっくりと話を聞いた。

ゲーム制作に必要なのはゲーム以外の経験

是角有二、岡村憲明

――ゲームクリエイターを目指そうと思ったきっかけのゲームは何でしょうか。

是角:小学生のころ、親に連れられてデパートの屋上にあったゲームコーナーへよく行っていまして、お兄さんやお姉さんたちが遊んでいるのをずっと眺めているのが大好きでした。

 そのうち近所の駄菓子屋に、10円で遊べるアップライト筐体のゲームが置かれるようになって、友達と『スペースインベーダー』や『平安京エイリアン』、『パックマン』などで遊んでいました。そのころから、漠然と「自分でもゲームを作りたい」と思うようになりました。ただゲームで遊びたいというより「コンピューターで何かを作る」こと自体に興味があったんです。それが、いま振り返ると最初のきっかけですね。

©Konami Digital Entertainment

――遊ぶ側から「作る側」に興味を持つのって、ひとつ壁があるように思うのですが。

是角:当時はまだ娯楽が限られていたので、自分たちで遊びを工夫することが多かったんです。たとえば、同じゲームで遊ぶにしても、友達同士でルールを変えてみたり。だから「遊ぶ=作る」みたいな感覚は、自然と身についていたと思います。特にコンピューターは家庭にまだ普及していなかったので、「どうやって動いているんだろう?」という仕組みへの興味がすごく強かったです。その仕組みを使えば、新しい遊びが作れるんじゃないか――そんな発想でゲーム制作に惹かれていったんだと思います。

――コンピューターに実際に触れるようになるのは、どのくらい後になりますか。

是角:初めてパソコンを買ってもらったのは高校生のときですね。だから興味を持ってから6〜7年後くらいです。『ベーシックマガジン(マイコンBASICマガジン)』などのパソコン系の雑誌で情報を集めたりしていました。高校に入るときに富士通のFM-NEW7を買ってもらったんです。

岡村:僕は小学四年生のときに『スペースインベーダー』のブームが来たんですよ。当時、電気屋さんに行くと無料でインベーダーゲームが遊べると聞いて、京都の寺町電気街によく行っていました。秋葉原の京都版みたいな場所で、もういまはありませんが、そこで「パソコン」という言葉すらまだ一般的でないような時代に、そうした機械を触らせてもらっていました。

 その店では、僕たちがパソコンを使わせてもらう代わりに、お客さんへ商品説明をしていました。空いている時間は自由に使っていいという条件で、ゲームのようなものを作って遊んでいたんです。作ったゲームを近所の店が導入してくれたりもしてて、ちょっとした商売みたいな感じで。まさに“パソコン少年”でした。

 当時は京都にそういうコミュニティが一つしかなくて、そこに集まっていた人たちは、後にいろんなゲーム会社に就職していきました。いまでも業界にいる方もいますし、僕もその中の一人です。そういう環境で「自分で作るのって楽しいな」と思ってからは、ずっとゲーム制作を夢見て生きてきた感じです。

是角:羨ましいですね(笑)。田舎にはそういうのなかったので。

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――大学時代もそのままゲームづくりに?

岡村:大学の頃は、一時期オフィスコンピューター向けのソフトやデータベースなどを作っていました。2年くらいは開発現場に入り浸って、半分社員みたいな状態で働いていたんです。ただ「このままではいけない、大学はちゃんと卒業しよう」と思って戻り、残りの1〜2年の間に「やっぱりゲームを作りたい」と気づきました。そのときに入社したKONAMIが現職で、30年以上ずっと勤めています。ある意味、珍しい経歴かもしれませんね。

――ご自身の中で、一番理想に近いゲームと、その理由を教えてください。

是角:理想のゲームは時とともに変わります。年齢や置かれている状況によっても変わりますし、忙しいときはカジュアルなゲームを遊びたいし、時間があるときはじっくり楽しめるゲームを選びたいですからね。特にコンピューターゲームはハードの進化に伴って、できることもどんどん変わるので、これまた変わってきます。

 僕にとってのゲームの理想は、常に多くの選択肢があり、自分がやりたいときに好きな遊び方ができる状況です。忙しいときには5分でできるゲーム、時間があるときにはしっかり遊べるゲーム。ゲームでストレスを発散したり、頭をリセットしたりできることが理想ですね。最近は『NINJA GAIDEN 4』をクリアして、周回プレイもしているところです。『エスケープ フロム ダッコフ』も面白いですね。

岡村:僕の場合は、自分で動かせる物語――アニメやドラマのような体験をゲームで作ることが理想です。いわゆるナラティブ系ですね。ゲームのなかで物語を体験したいんです。

 ルールや仕組みの組み合わせで感情を生み出す、ゲームならではの表現が大事だと思っています。映像やセリフで「あなたのことが好きです」と直接伝えるのはつまらないじゃないですか。行動や仕組みを通して物語を体験する――これが僕の目指すゲームです。ユーザーが自分で選び、体験し、物語を感じ取る。そのインタラクションを活かしたストーリーテリングが理想ですね。

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――最近ハマったゲームや面白いと思ったゲームはありますか。

岡村:そうは言うものの、自分ではスマートフォン向けのハイパーカジュアルゲームばかりやっています(笑)。基本的に僕は、ゲームよりもドラマや映像作品を楽しむことも多いですね。Netflixの『今際の国のアリス』とか『イカゲーム』が面白かったです。

――体制を変えて「メタルギア」シリーズを動かし続けることは、既存ファンやゲームファンを相手にするという意味でとても大変な試みであると思います。そのうえで強く意識していること、作り続ける中で変化したスタンスなどがあれば教えてください。

是角:長いシリーズなので、ファン層は幅広いです。なので我々は過去作への敬意を持ったものづくりを意識しています。今回のリメイク作品でも、過去作の作り手の思いやコンセプトを大切にしつつ、それを現代のプレイヤーに届けるにはどうすればいいかを考えました。ただ、過去作をそのまま再現すると遊びにくさや手に取ってもらえない部分もあるので、そこは進化させています。

 例えば、カメラ操作を改善したり、当時技術的にできなかった表現を現代の技術で実装したりしています。カムフラージュ機能をワンボタンでできるようにするなどですね。

 ただ、昔の作品への敬意と新しい挑戦のバランスは非常に難しく、常に悩みながら制作しています。リメイク、新作、続編、スピンオフそれぞれでバランスの取り方が異なるので、その都度調整しています。

岡村:オリジナルスタッフの方々が抜けた中で、シリーズをどう受け継ぐかは悩みどころでした。作るべきではないかという話が出ては消え、出ては消えという感じで……。しかし、自分たちの年齢や「メタルギア」シリーズを知っているスタッフの減少を考えると、いまやらないとシリーズの復活は難しいという状況になってきました。偉大なシリーズなので、いましかできないという思いで制作を決断しました。

 グラフィックや操作性は現代向けに改善しましたが、物語やゲーム性はできるだけ当時のままにしています。過去作の思いを新しい世代に届けつつ、無理に新しい要素を付け足さない方針です。批判や意見をいただくこともありましたが、徐々に良い評価もいただけるようになり、ファンとのコミュニケーションも進んできました。

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――『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』を遊びやすく作った理由はなんでしょうか。

是角:もちろん、これまでの「メタルギア」シリーズ作品も当時は遊びやすい作品でした。ただ、ゲームの「遊びやすさ」は時代やトレンドとともに変化します。オリジナル版をそのまま出しても、現代のプレイヤーにとってはストレスになりかねません。そのため、今回のリメイクでは、操作性や快適さにかなり手を入れました。

 「METAL GEAR SOLID」シリーズのナンバリング作品である『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』が10年前ということもあり、“メタルギア”の名前を知らない人も増えていました。新しいユーザーにも楽しんでもらうため、操作やゲーム進行で余計なストレスを与えないことを意識しました。原作への敬意は示しつつ、現代のプレイヤー向けに調整しています。

 しかし、昔の操作スタイルでしか味わえない楽しさやゲーム性もあります。そこで、ニュースタイルの操作と、オリジナルに近いレガシースタイルの操作の二つを用意し、両方の楽しみ方を提供しました。

――オリジナル版スタッフと新しいスタッフのシナジーはありましたか。

是角:オリジナル版に関わったスタッフ達は、経験や知識を新しいスタッフに伝えることで、シリーズのこだわりや意図を若い世代に継承しています。特に、現代のプレイヤーが引っかかるところを若いスタッフが洗い出してくれました。

 スタッフはオリジナルのソースコードやスクリプトを分析して、当時の設計意図を理解した 上でリメイクに反映します。その過程で「なぜこう作られたのか」をオリジナルスタッフから直接聞くことで、新しいスタッフもシリーズ制作の思いやこだわりを学ぶんです。

――印象的だった若いスタッフの意見はなんでしょうか。

是角:「CQCのやり方がわからない」という意見にびっくりしましたね。原作ではザ・ボスが無線で教えてくれるんですけど、現代のプレイヤーは必ずしも無線を全部聞いてくれるわけではないので……(笑)。なので、TIPSを表示することにしました。

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――今後どのような作品を目指していくのでしょうか。

岡村:いまは次に何を作るかを考えている段階です。せっかく「メタルギア」という作品で、新しい人にも触れてもらえる機会を作れたので、これを続けていきたい気持ちはあります。

 ただ、作る内容についてはまだ未定です。リメイクもあれば、新しい作品に挑戦することもあるかもしれません。「メタルギア」シリーズはビデオゲームの歴史みたいなもので、ドット絵から映画のような表現まで幅広く、それぞれの作品に応じたリメイク方法や表現の仕方が異なります。今回作った『MGSΔ』の方法論をそのまま全作品に適用するつもりはなく、作品ごとに最適な手法を検討していくつもりです。

 オリジナルスタッフの多くの方々が抜け、チームが再編された状態から、人を集めてようやく『MGSΔ』を作るところまで来れました。チームとしては、過去作の魅力を損なわず、現代のプレイヤーにも楽しんでもらえるクオリティを実現できたという自信があります。現在はこの次の展開について、具体的なプランを模索しているところです。

――個人的には『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS』のリメイクに期待しているところがあります。

岡村:あの当時のハードは当時の技術力で3Dのパフォーマンスを出すために相当特殊な作りが要求されていて、MGS4もなかなか特殊なコードになっていて……。今持ってくるのは大変そうだなぁ(笑)。

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――ゲームクリエイターを目指す方へのメッセージをお願いします。

是角:いま夢中になっていることにとことんのめり込むことが大事です。人に迷惑をかけない範囲で、興味のあることを楽しみ尽くす。その経験が、自分で何かを作ろうとしたときの引き出しになります。たくさん経験して、楽しむことがまず第一歩です。

 ゲームへの愛情は、制作の原動力にもなります。どんなに大変でも、「ゲームが好き」という気持ちがあれば、いいものを作ろうという意欲が湧いてきます。ですから、好きなゲームは思いっきり遊び、ゲームへの情熱を膨らませてほしいですね。具体的なスキルという意味では、学校の勉強も役立ちます。ただそれ以上に、自分の個性を活かすには興味のあることに没頭する習慣が必要だと思います。

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岡村:僕も同じような感じで、ゲームが好きだ、ゲームで生きていくんだ、という自負を持ってほしいですね。ただ、それと同時に、ゲームしかやっていないというのも良くないので、ゲーム以外のことにも興味を持ってほしいです。そこで得たものをゲームの企画に持ち込んでほしい。

 また、いまの環境は非常に恵まれています。UnityやUnreal Engineなどの開発環境を使えば、手元ですぐにゲームを形にできます。昔は何もない状態から作るしかなかったので、いまの方がずっとやりやすい状況です。それに、我々も同じものを使っていますからね。

 だから、考えているだけではなく、とにかく手を動かしてみてください。恥ずかしがらず、自分でゲームを作り、友達に遊んでもらいケチョンケチョンに言われてみる。意見をもらいながら改善していく経験こそ、最も学びになりますから。

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 夢中になれることに没頭し、ゲームだけでなく多様な経験を積むことが、ゲーム制作の力を養う秘訣である。いまの時代は、手元の環境で容易にゲームを形にできる状況にある。頭で考えるだけでなく、まずは作ってみること。そうして得られた経験が、自分だけの創造力を形成するのだと、そう語ってくれた。ゲーム業界を目指す者でなくても、多くの創作や進路において参考になるお話だったように思う。

■関連情報
『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』公式サイト
https://www.konami.com/mg/mgs3r/asia/ja/ 
「メタルギア」シリーズ公式X:@metalgear_jp
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舞台脚本とゲーム制作に共通する「完成させること」の大事さ 『ネタバレが激しすぎるRPG』作者・みぬひのめの創作ポリシー

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