ゲームにおける声優交代がもたらすものを考える 「記憶との離別」と“もう一人の彼女”が繋ぐ未来

ゲームにおける声優交代がもたらすもの

 ゲーム、アニメ、映画、ドラマ……キャラクターが“生きる”あらゆるメディアにおいて、「声」は人格をつかさどる不可欠な要素として存在している。とりわけ、声優という専門職が担う演技は、二次元の絵や文字に命を吹き込み、観客・プレイヤーの心に定着させる決定的な鍵である。

 近年、名作ゲームのリメイクや、人気シリーズの長期化に伴い、キャラクターの声優交代が注目される場面が増加したように思う。それは単なるキャスティング変更という制作上の都合にとどまらず、作品とファンとの間に流れる時間を可視化する現象でもある。

 声が変わることは、作品世界の連続性やキャラクターの不変性に対する問いかけであり、時には戸惑いや拒絶を生む波紋にもなりうる。ファンにとって特定のキャラクターの声は、その人物との出会い、共に過ごした時間、そして体験した物語そのものと強く結びついているからだ。

 本稿では、この「声優交代とは何か」という問いを改めて捉え直し、映画やアニメといった他メディアにおける文脈を比較検討したうえで、ゲーム(特に美少女ゲームやノベルゲーム)において、プレイヤーの体験といかなる関わりを持つのかを論じる。

「声優交代」とは何か? 役の引き継ぎと演技の継承

 声優交代とは当然ながら、既存キャラクターの声を別の演者が引き継ぐことである。その背景には、年齢や健康問題、スケジュール調整が難しくなるといった個人的要因だけでなく、作品の方向性の刷新、技術水準の向上、ターゲット層の変化など、制作上の要因が複雑に絡み合っている。

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 とくに長寿シリーズでは、初期からキャラクターを演じてきた声優の降板が自然発生的に起こりうる。ファンは体調面やキャリア上の理由について理解を示しやすいものの、長年蓄積してきた“記憶の声”が途切れる喪失感は避けられない。

 また、リメイク作品では、制作側が現代の技術や演出に合わせてキャラクター像を“再演”させるため、あえて新しい声優を起用する場合がある。これは単なる人員交代ではなく、演技のリメイクに近い。

 加えて、コンテンツを長期的に維持するための「リスクマネジメント」という側面も見逃せない。ゲームキャラと違い、声優は当然ながら歳を取る。そして、病気や予期せぬ死によって降板せざるを得ない事態も起こりうる。特に運営型タイトルでは、キャラクターの永続性そのものが収益の基盤であり、交代はコンテンツを持続させるための合理的な判断でもある。声優交代とは、キャラクターの魂を未来へつなぐ継承作業とも言えるだろう。

各メディアにおける声の交代の受け止め方

 声優交代に対する受け止め方は、そのキャラクターが生きる“メディアの特性”によって大きく異なる。

 例えば映画やドラマ(実写)の場合、俳優の交代は比較的頻繁に発生し、観客もこれを別演者による再演として受け入れる土壌がある。「スパイダーマン」や「バットマン」といったヒーローは、時代や監督が変わるごとに演じる俳優も変わるが、キャラクターの記号性や物語の根幹が変わらない限り、シリーズは継続する。

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 一方、アニメにおける声の変化は、より繊細に受け止められる傾向がある。長寿シリーズでは、キャラクターの声がファンの“記憶の声”として深く定着しているため、声優の交代は人格の変化のように感じられることが多い。

 これに対し、ゲームの場合はアニメ的要素を持ちながらも、プレイヤーがコントローラーやマウスを通じて能動的に介入する「インタラクティブな体験」を基盤としている。この点において、ゲームは他のメディアと一線を画していると言えるだろう。例えばゲームのリメイク作品をプレイする際、プレイヤーは自身の手でキャラクターとの関係性を“再体験”、つまり「記憶の再構築」にも似た行為を行うこととなる。そのインタラクティブ性ゆえに、新しい声による演技を自らのプレイ経験によって記憶に統合する余地が大きいことも、ゲーム特有の受容構造ではないだろうか。

ゲームジャンルによって異なる声の重み

 ゲームというメディアの中でさえ、声の存在感、そして声優交代の影響度は、ゲームジャンルとキャラクターが担う役割によって大きく異なる。

 まず、恋愛シミュレーション/美少女ゲーム/ノベルゲームといったジャンルは、キャラクターとの感情的な関係性と、その構築が体験の中心に据えられている。このジャンルにおいて、声はプレイヤーとの私的な記憶そのものであり、交代は既存ファンにとって“感情的な関係の断絶”と強く認識される。

「月姫 -A piece of blue glass moon-」オープニングアニメーション

 一方でRPGやアクションのように、プレイヤーとの関係性よりも物語やゲームプレイが重視されるジャンルでは、声の重みは相対的に軽減される。ストーリー重視のRPGでは、交代は「時間の経過」や「次の時代」の解釈として受け入れられやすく、また、アクション・シューティングのように声が機能的要素を担うジャンルでは、声優交代の影響は感情的な拒絶よりも、操作時の音声変化による違和感などに限定される。

 最後に、運営型タイトルのケースも考えてみたい。同ジャンルはいわゆるコンシューマータイトル(ゲーム機で遊ぶ作品)と異なり、作品の設定や世界観が更新され続ける仕組みであることがほとんど。声優を交代した場合は過去が上書きされる構造ゆえ、交代は既存ファンにとって“記録の消失”のように受け止められる。しかし、制作側の論理から見れば、交代はコンテンツの継続的な収益とサービスの維持を最優先した、合理的かつ必然的な選択である。

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 例えば『原神』の特定キャラクターでは、声優のスキャンダルを背景に、海外版のボイス差し替えが即座に発表された。また『アークナイツ』など、市場の事情により特定のキャラクターのボイスが削除・変更される事例も発生している。これはビジネス上の冷徹な判断が、ファンにとっての「記憶」を上書きする現実を示している。

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