『桃鉄2』マップ分割が“地理を学ぶメディア”の役割を強化する? パーティーゲームとしての新たな広がりを生むか

『桃鉄2』新たな広がりを生むか

 11月13日、『桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~ 東日本編+西日本編』(以下、『桃鉄2』)がリリースを迎えた。

 従来のゲーム性をそのままに、マップシステムに大きな変化をくわえた同タイトル。本稿では、「桃太郎電鉄」シリーズと動画プラットフォームの交わりを起点に、『桃鉄2』の商業的/文化的可能性を考察する。

「桃太郎電鉄」シリーズから2年ぶりに新作が登場

桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~ 東日本編+西日本編 [Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ 2025.7.31]

 「桃太郎電鉄」シリーズは、コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)が開発と販売を手掛けるすごろく型のデジタルボードゲームだ。プレイヤーは鉄道会社の社長となり、都度設定される目的地を訪れながら、全国の駅でさまざまな物件を購入し、資産王となることを目指していく。

 ハドソン(2012年にコナミが吸収合併)が展開していたRPG「桃太郎伝説」から派生したシリーズで、初作である『桃太郎電鉄』は、1988年にファミリーコンピュータで発売された。今回リリースを迎えた『桃鉄2』は、前作『桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~』(2023年・Nintendo Switch)以来、2年ぶりとなるシリーズの最新作。日本全国を「東日本」「西日本」に分割し、従来作品の3倍以上の駅を収録した。

 対応プラットフォームはNintendo Switch/Nintendo Switch 2で、価格は、Nintendo Switch版が税込7,980円、Nintendo Switch 2版が税込8,980円となっている。なお、Nintendo Switch版は、別売りのアップグレードパス(税込1,000円)を用意することで、Nintendo Switch 2版へとバージョンアップできる。

コナミの動画チャネル対応の草分けとなった「桃太郎電鉄」シリーズ

桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~ 紹介映像 (桃鉄2) | KONAMI

 業界では昨今、特定のタイトルが動画/ライブ配信プラットフォームのゲーム実況/配信コンテンツをきっかけに注目を集め、トレンド化を果たす事例が相次いでいる。直近、ゲーム作品を題材に制作された実写映画のヒットが話題を集めている『8番出口』も、そのようにして飛躍したタイトルのひとつだ。少なくともここ数年、こうしたチャネルへの適性は、作品そのものの出来とは別に、商業的/文化的成功を左右する重要なファクターとなりつつある。2025年10月には、ほぼ無名だったはずのインディータイトル『CloverPit』が、同様のプロセスから人気を博し、大ヒットを果たした。

 実は「桃太郎電鉄」は、コナミが当時、唯一の特例として実況/配信を認めたシリーズとしても知られている。2020年11月、Nintendo Switch向けに発売された『桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜』では、個別にガイドラインが定められ、個人のクリエイターにもその門戸が開かれた。

 それまでコナミは原則、ゲームのプレイ動画の投稿を別途許諾を得た法人のみ(個人に関しては、個別対応の難しさから窓口さえ設けられていなかった)に限っており、くわえて収益化も認めていなかった。しかし、『桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜』の発売以降は、少しずつ同社が展開する他のタイトル/シリーズにもガイドラインを設け、部分的に許諾する動きが広がっている。

 その意味において、「桃太郎電鉄」は、コナミが動画プラットフォームに対応する先駆けとなった作品であると言えるだろう。その後、同社が展開するタイトル/シリーズからは、「サイレントヒル」や「パワフルプロ野球」などが実況/配信コンテンツとして人気を集めている。おそらく今回発売された『桃鉄2』もまた、パーティーゲームであるという特性が界隈に受け入れられ、著名なストリーマーやゲーム実況者、芸能人YouTuberなどに取り上げられていくに違いない。

『桃鉄2』に含まれる大きな変化

『桃太郎電鉄2』

 一方、先にも述べたとおり、『桃鉄2』は従来のゲーム性をそのままに、マップを「東日本」「西日本」に分割。これまでに含まれなかった多数の駅を収録した点を特徴とする。このように盛り込まれた大きな変化がポジティブなものであるかは、今後各プレイヤーや実況/配信コンテンツの視聴者によって議論されていくことになるだろうが、ここにはゲームの面白さ、タイトルの評価とは別の文化的意義が存在している。それが「従来の作品以上に、地理に対する知識を深められる」という点だ。

 幼少期から「桃太郎電鉄」に触れてきたフリークのなかには、同シリーズを通じて、日本の地理や各地の特産物などを学んだ人も多いと推測する。かくいう私もそのようにして知識を深めてきたうちの1人だ。ともすると、ゲームとは子どもの成長に悪影響を与えるコンテンツだと認識されやすいが、「桃太郎電鉄」に内包されるこのような体験は、同分野がもたらすわかりやすい恩恵として、少なくともフリークには広く認知されている実感がある。こうしたシリーズの個性が、『桃鉄2』に盛り込まれた上述のゲーム性の変化により、さらに効果的に働いていく面があるのではないか。

 特に同タイトルが対応するNintendo Switch/Nintendo Switch 2は、PlayStationやXbox、PCと比較し、ファミリー機としての性質が強い。ゲームコンテンツが多様化するいま、シリーズの草創期のように子どもにとって優先順位の高い選択肢となることは困難だろうが、それでも、こうした変化は一定、子ども、さらにはそれ以外の全プレイヤー/視聴者の地理教育に役割を果たしていく面があるのかもしれない。

 また、そのような効果を体現していくためには、前項で触れた実況/配信プラットフォームでの盛り上がりも不可欠となるだろう。おそらく前々作『桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜』が発売されたタイミングで制作陣、及びコナミがそうしたチャネルに対応しようと考えたのは、シリーズとの親和性が高いと判断したからに違いない。プレイヤーの裾野が広がるほど、パーティーゲームである『桃鉄2』の訴求力は高まり、商業的にも文化的にも幅広い層にアプローチできるはずだ。

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