『罪と罰~地球(ほし)の継承者~』から25年を経て思う、職人集団トレジャーの輝きと現在地

ゲーム職人集団・トレジャーの輝きと現在地

 11月21日で、『罪と罰〜地球(ほし)の継承者〜』が発売されてから25年が経つ。

 NINTENDO64末期に任天堂より発売されたこのタイトルは、左グリップを左手で握り、右手の親指で3Dスティックを操作する「レフトポジション」と称される持ち方を基本とした操作スタイルを最大の売りとする3Dアクションシューティングゲームである。操作スタイル以外でも、プレイヤーキャラクターと照準を同時操作しながら戦うゲームシステムや、架空の2007年日本を舞台にした硬派で殺伐とした世界観・ストーリーも見どころとなっている。

罪と罰 地球の継承者
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 ただ本作は『カスタムロボV2』に『バンジョーとカズーイの大冒険2』、果ては『マリオパーティ3』『ポケモンスタジアム金銀』といった任天堂の人気続編タイトル数本に挟まれたタイミングで発売されたのが響き、セールスは伸び悩んだ。さらに海外展開も当時実施されずに終わってしまい、結果として知る人ぞ知る作品となった。

 しかし、『週刊ファミ通』のクロスレビューでは完全新規のタイトルながら35点のプラチナ殿堂入りを果たすなど、ゲーム自体は非常に高い評価を得るに至っている。

罪と罰 地球の継承者
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 2025年現在はNintendo Switch、Nintendo Switch 2の『NINTENDO 64 Nintendo Classics』にてプレイ可能(※要:追加パック購入)。

 筆者にとっても本作はNINTENDO64のみならず、これまで遊んできたゲームの中でもトップ10に入るお気に入りタイトルで、今でも時折、後発の現行環境へと復刻されたバージョンを“ゆるり”と周回するほどだ(ゆるりの意味は後述する)。

 ただ、近ごろこのゲームを遊ぶたびに考えるようになったことがある。開発を担った「トレジャー」という会社の現状だ。

各種ゲーム機の限界に挑む野心的な制作姿勢で支持を集めた職人集団

 結論から言えば、トレジャーは2025年現在、新作の開発から距離を置いてしまっている。

3DS『ガイストクラッシャーゴッド』「神章開戦」編 

 同社は2014年発売の3Dアクションゲーム『ガイストクラッシャーゴッド』(ニンテンドー3DS)以降、家庭用ゲーム機向けの新作を作る機会が激減。近年は過去作の現行環境向けリマスター版の販売に注力し、その開発も販売も外部の会社に委託するなど、全盛期とは異なる活動に注力している。

 そもそもトレジャーとはいかなる会社か。同社はかつてコナミ(現:KONAMI)で『クォース』『悪魔城ドラキュラ(※スーパーファミコン版)』『魂斗羅スピリッツ』などの名だたるタイトルに携わったクリエイターが中心になって設立された。創業は1992年で、実に30年以上の歴史を誇る。

▲『ガンスターヒーローズ』(『セガ メガドライブ Nintendo Switch Online』より)
▲『ガンスターヒーローズ』(『セガ メガドライブ Nintendo Switch Online』より)

 以降は大幅に割愛した紹介となるが……トレジャーは設立間もなくセガとの販売契約を結んだことから、当時、同社が展開していた家庭用ゲーム機「メガドライブ」向けゲームの制作に注力。『ガンスターヒーローズ』『エイリアンソルジャー』といった野心的な2Dアクションゲームを世に送り出した。

 手がけたタイトルの多くは、ゲーム機の性能の限界に挑んだ派手な演出と制約を逆手に取った工夫の数々が光る特徴を共通して持ち合わせていたことから、同社は後に“職人集団”と呼ばれるようになる。

▲『レイディアントシルバーガン』(Nintendo Switch版より)
▲『レイディアントシルバーガン』(Nintendo Switch版より)

 メガドライブ以降にもセガサターンで『ガーディアンヒーローズ』『シルエットミラージュ』、アーケード向けに『レイディアントシルバーガン』といった野心的なタイトルを制作した。

 1997年頃からはNINTENDO64初の2Dアクションゲーム『ゆけゆけ!!トラブルメーカーズ』を筆頭に、セガ以外のメーカーともタッグを組んで新作を作るようになり、その流れから『罪と罰 地球の継承者』は生まれた。

 『罪と罰 地球の継承者』もトレジャーの職人集団としての底力が発揮された作品だった。

▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 象徴的なのは20体以上の敵が画面内に表示されても安定性を失わないフレームレート、文字通り目まぐるしく、アクション映画さながらの荒唐無稽なカットを生み出すカメラワーク。いずれも技術面と発想周りでの優れたセンスが発揮されている。

 特にフレームレートに関しては、3Dモデルを限界ギリギリまで粗くしたり、一部の敵を2Dイラストで処理するなどの負荷を軽減させる工夫が随所でなされていて、メガドライブ時代に手がけた作品を思わせる“らしさ”が滲み出ている。

 もちろん、ゲームとしての完成度も高く、銃撃と斬撃を可能とした「ガン・ソード」なる特殊拳銃を駆使して敵に挑む戦闘は、単純ながらも手に汗握る駆け引きを演出する。とりわけ斬撃は敵の一部攻撃を跳ね返したり、ステージ内の仕掛けを投擲武器に転用する「カウンターアタック」が痛快で、上手く使いこなせば耐久力のある敵やボスを素早く仕留められる恩恵もあって極め甲斐がある。

罪と罰 地球の継承者
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 反面、難易度は高く、最も簡単な「イージー」が標準と言っても過言ではないほど。ただし「ノーマル」以上の難易度でなければ全ステージをプレイできない、エンディングを見られないといった制約は皆無。「イージー」も全編ラクラクではなく、独特の操作を会得しないと攻略困難な壁もあったりと、それなりに歯ごたえのあるバランスになっている。

 逆に慣れれば数時間で周回できるという、“ゆるく”遊べる余地を持っているのも見逃せない部分だ。この調整は後述する攻略本に掲載された開発者インタビューによれば、遊びやすさの向上を第一にしたもので、任天堂とトレジャーが衝突した結果、生まれたものとのことである。

罪と罰 地球の継承者

 こうした野心的な作りの『罪と罰 地球の継承者』は、ゲーム販売後にも本編の前日譚を描いた小説が「電撃ゲーム文庫」のレーベルで発売されるなど、任天堂のゲームとしては珍しいメディアミックス施策も組まれた。攻略本も小説にちなみ、メディアワークス(現:KADOKAWA)から販売されるなど、当時、「任天堂公式ガイドブック」の名で小学館から刊行されるのがお約束となっていた流れに一石を投じている。

 ただ、発売後の推移については冒頭で言及した通りである。

インディーゲームが隆盛を極めた今に見る、少人数のゲーム作りに重きを置いていた同社の制作姿勢

 とは言え、任天堂とのタッグはその後も続き、2004年にはニンテンドーゲームキューブ向けに3Dアクションゲーム『ワリオワールド』を発売。ほかに2000年代に入ってからはPlayStation 2、アーケード、ニンテンドーゲームキューブ、ゲームボーイアドバンス、ニンテンドーDS向けにさまざまな新作を手がけている。

 代表的なところでは、2025年現在もリマスター版が現行環境向けに展開されている縦スクロールシューティング『斑鳩』がある。創業メンバーの古巣であるコナミとタッグを組む形で制作された『グラディウスV』もそのひとつだ。

 2009年には、『罪と罰 地球の継承者』の続編『罪と罰 宇宙(そら)の後継者』が当時の任天堂が展開していた家庭用ゲーム機「Wii」向けに発売されている。

▲『罪と罰 宇宙の後継者』(Wii)
▲『罪と罰 宇宙の後継者』(Wii)継者

 同作はWiiリモコン+ヌンチャクによる新たな操作スタイルと、空中を自在に動けるシステムの採用で、さらにスピーディかつテンポのいいアクションと縦横無尽な戦闘が楽しめる内容へと進歩。一部ステージでは弾幕が襲い来る場面が増えるなど、難易度も大きく上がったが、終始60fpsを維持する高フレームレートによって実現した派手な演出の数々、ジャンルが一変する一部ボスとの戦闘などの強烈な要素が満載であり、前作に引けを取らない力作に仕上げられている。

 同作が発売された当時には、任天堂公式サイトでトレジャーの開発スタッフに社長の岩田聡氏が直接インタビューする施策「社長が訊く」(※1)も実施され、前作発売までの経緯やトレジャーの知られざるゲーム制作スタイルなどが語られている。

▲『罪と罰 宇宙の後継者』(Wii)
▲『罪と罰 宇宙の後継者』(Wii)

 その中でも2025年現在に読むと興味深いのは、少人数でのゲーム作りに重きを置いていたとの話だ。ファミリーコンピュータの時代のようにチームの合計人数が3人しかいない中でのゲーム作りを2009年当時も行っていたという。「その方がやりたいことをすごく突出してできるから」というのは同「社長が訊く」において、トレジャーの代表取締役社長である前川正人氏の発言である。

 今にして思うと、この制作姿勢はインディーゲームにほぼ近いスタイルで、そういった作り方も選択肢のひとつとして確立された現代は、よりトレジャーの強みが活きる時代とも言える。しかも、同社は基本的に続編よりも新規のオリジナルタイトルを優先的に制作するスタンスをメガドライブ時代よりアピールしていた。

 加えて昨今はダウンロードによる販売形式も浸透。小規模なゲーム開発会社でも自社販売に挑める余地が広がっている。

 実際に2010年代に入ってからはゲームフリーク、インティ・クリエイツといった開発を専門にしていたメーカーもダウンロード専売の形で自社販売のタイトルに挑むようになり、一部はシリーズ作品として好評を博すに至っている。当時そのような動きがあったからこそ、トレジャーもいずれ……という期待を抱かされる側面もあったのだ。

罪と罰 宇宙の後継者
▲『罪と罰 宇宙の後継者』(Wii)

 しかし、トレジャーの現状については前述した通りである。WEBサイトが稼働中なことからも、会社としては健在ではあるものの、過去作の復刻を除く完全新作のリリースはもう、10年以上も音沙汰がない状況となっている。

 任天堂とのタッグも『罪と罰 宇宙の後継者』を最後に途絶えている。元々、この続編も前作と同じく、発売後の売上が伸び悩んだという事実があり、それがひとつの要因として響いた結果だったとも言える。

 それに続編にはトレジャーから退社したメンバーが数名参加しているなど、この当時から会社規模が縮小し始めている兆候が「社長が訊く」や本編のスタッフクレジットからも匂わされていた。

もう少しインディーゲームの台頭が早ければ……全盛期の再来はもう望めないのか

 トレジャーの規模が縮小していると思しき兆候は、以降もタイミングで散発的に見られた。他社から発売されたタイトルのインタビュー記事などで、元所属クリエイターが参加しているケースが相次ぐようになったのだ。

▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 2010年に差し掛かる頃というのは、HD環境でのゲーム制作が本格化すると同時に、現場の大規模化への移行が進んだ時期。トレジャー特有の少数制作の強みを活かすのがより厳しくなる転換期でもあった。さらに大規模化に伴い、完全新規タイトルを制作することによるリスクも大きくなりつつあり、これも基本、続編を積極的に作らないトレジャーには逆風となったのは十分に考えられる。

 一応、2010年代に入ってからもXbox LIVE アーケード、Steamへの参入を表明するといった動きは報じられており、インタビューでは新作に対する意欲を語るところも見られている(※2)。だが、ダウンロード販売とインディーゲームの存在がより幅広いプレイヤー層に浸透し、目立ち始めたのは、2017年のNintendo Switchが出た辺り。

▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 あれから任天堂を始めとする大手のメーカーもインディーゲームに力を入れるようになり、昨今の隆盛を極めた状況を見るたびに思う。大規模化への移行期、それに伴う完全新規タイトルの制作ハードルの上昇が起きつつある辺りで、ダウンロード販売とインディーゲームの台頭が起きていれば、トレジャーは元気だったのだろうか、と。

 元々、少人数によるゲーム作りにこだわりを持っていることを語っていたほどだ。時期の到来が早ければ、当時の勢いを保ちつつ健在だったのではないのかと思うのである。

 そうすれば、自社販売の新たな野心的なアクションゲームやシューティングゲームを作っては、ファンを楽しませていたのでは、と。むしろ、販売規模が世界に広がった今なら、海外ファンも多数獲得していたのかもしれない。

 結局、同社の職人集団としての活躍は過去となり、当時をリアルタイムで追いかけられた世代の間でしか語られない存在になったのには侘しさが募るばかりだ。何よりも野心的な新作の数々にお目にかかれる機会が失われてしまったのが大きすぎる。

▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 とは言え『罪と罰』の2作を始め、トレジャーが手がけた作品の数々は今なお話題にあがることがある。特に『エイリアンソルジャー』と『ガーディアンヒーローズ』は、2022年にアニメ化された漫画『異世界おじさん』において頻繁にネタにされたのが記憶に新しい。同社はXアカウントも開設しているが、国内に限らず、海外にも多くのファンを抱えていることがフォローしているユーザー、ポストに対するリプライから察することができる。

 メガドライブ時代に同社が手がけた代表作の大半もNintendo Switch、Nintendo Switch 2の『セガ メガドライブ for Nintendo Switch Online』で2025年現在もプレイ可能だ。そのタイトルごとの紹介文でもトレジャーのことは「職人集団」と表されており、残した足跡の大きさが語り伝えられている。

▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)
▲『罪と罰 地球の継承者』(『NINTENDO64 Nintendo Classics』より)

 また、活動を縮小したとは言え、会社が残っているという事実は、同社のゲームに魅了された人間のひとりとしては素直に嬉しいことである。過去にも記事として取り上げた朱雀、アルファドリームという実力派のゲーム開発会社が消えてしまう出来事と、そのショックを味わった身としては尚更だ。

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 とは言うものの、もう全盛期のような活動は見込めないかもしれない。新作が出るかどうかについても高望みできないだろう。

 それでもいつか、トレジャーが再び表舞台に立つ日を待ち続けたい。野心的で職人の魂が宿った新作を目にしたい。そして、願うならば久しぶりに任天堂とタッグを組んで、『罪と罰』の2作のような野心的なタイトルを出してほしい。

 現状を踏まえれば夢に終わる可能性も高いが、少人数の制作も選択肢のひとつとして立派に確立された時代だ。新たな形で“宝箱”が開かれる時を心待ちにしている。

参考

※1:社長が訊く『罪と罰 宇宙の後継者(そらのこうけいしゃ)』(任天堂公式サイト)
https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/r2vj/vol1/index.html
※2: 『斑鳩』がSteamで近日配信 なぜいまSteamなのかをトレジャーに直撃(ファミ通.com/2014/1/29掲載)
https://www.famitsu.com/news/201401/29047259.html
※ PS4版『斑鳩』発売記念レビュー&前川社長インタビュー。トレジャーの理想、未だ屈せず、死すことなし!(電撃オンライン/2018/6/27掲載)
https://dengekionline.com/elem/000/001/751/1751642/

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