『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の続編はゲームで描かれていた 映画の1年後が舞台の『ブギーの逆襲』

ティム・バートン監修『ブギーの逆襲』とは

 日本テレビ系列の映画番組『金曜ロードショー』で『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(Tim Burton's The Nightmare Before Christmas)が10月31日に放送される。地上波テレビでの放送は、今回が初だという。

 「……そうなの!?」と、筆者はその事実を耳にして思わず声をあげてしまった。

「ナイトメア―・ビフォア・クリスマス」10/20 4K UHD発売 予告編

 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は、日本では1994年に上映され、ホラーとファンタジーを融合した独特な世界観とキャラクターたち、ストップモーション・アニメとデジタルの技術を活用した映像表現と演出で高い評価を得た名作ミュージカルアニメだ。原案を映画『バットマン』シリーズや『チャーリーとチョコレート工場』などで知られるティム・バートン氏が手がけたことでも知られる。

 日本国内でも東京ディズニーランド・ファンタジーランドのアトラクション「ホーンテッドマンション」では、ハロウィンとクリスマスの期間限定で、同作をテーマにしたスペシャルプログラム「ホリデーナイトメアー」が例年開催されている。ゆえに認知度も相当高い方だと思うのだが、まさか地上波のテレビで放送されたことがなかったとは、改めて驚くしかなかった。

 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の高い評価については、いまさら語るまでもない。筆者にとってもお気に入りの映画のひとつで、とりわけ世界観と演出の独特さと耳に焼き付くほど印象に残るミュージカル楽曲の数々は、上映から32年以上が経ったいまもなお色あせない。日本語吹き替え版では主人公ジャック・スケリントン(以下、ジャック)をミュージカル俳優の市村正親氏が演じているが、その驚異的なハマり具合も一度見たら忘れられなくなるほどだ。

 そんな『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』だが、実は映画版の後日談を描いた事実上の続編が存在する。地上波テレビでの放送実現と関連グッズの新展開、ハロウィンの季節が重なったことから、にわかに『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』が盛り上がりを見せているこの機会に、件の続編を本記事を通して紹介したく思う。

 その名も『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』(以下、『ブギーの逆襲』)である。

ティム・バートンを始め、映画版の制作陣も監修などで参加した紛うことなき「続編」

 しかし、「紹介するにしてもカテゴリが違っていないか?」との指摘があるかもしれない。「リアルサウンド映画部」の方ではないのか、と。

 本記事のタイトルからバレバレではあるが、続編というのは映像作品ではない。れっきとしたテレビ(ビデオ)ゲームだ。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 改めて『ブギーの逆襲』について紹介すると、本作は2004年10月21日にPlayStation 2向けに発売されたゲームソフトである。

 サブタイトルの通り、本作は前作兼原作の映画終盤で倒された悪役で、復活を遂げた「ウギー・ブギー」(以下、ブギー。ゲーム中の表記はウーギー・ブギー)の逆襲に主人公のジャックが立ち向かうというストーリーが描かれる。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 時系列としては映画版の1年後に当たり、ジャックとブギーのほかにもヒロインのサリー、その生みの親であるフィンケル・スタイン博士、ゼロ、メイヤー町長といったお馴染みのキャラクターも引き続き登場する。

 もちろん、オリジナルキャラクターもわずかに登場し、そのデザインは原作の映画で美術監督を務めたディーン・テイラー氏が直々に担当。音楽も映画と同じダニー・エルフマン氏が手がけている。さらに原案のティム・バートン氏も共同制作兼監修として制作に参加。この布陣もあって、作品としては紛うことなき続編を名乗れるものとなっている。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 ゲーム本編の制作および販売は『バイオハザード』『ストリートファイター』『ロックマン』などでお馴染みのカプコンが担当。

 2025年のいまに見ると、ディズニー作品とカプコンの組み合わせは異色に見えるかもしれない。だが、2004年当時は特段、珍しいものではなかった。というのも、カプコンはファミリーコンピュータ(ファミコン)の時代から、ディズニー作品を原作とするゲームを数多く制作していたのだ。

 一例としてはファミコンで発売された『わんぱくダック夢冒険』、スーパーファミコンで発売された『ミッキーのマジカルアドベンチャー』が挙げられる。

『ミッキーのマジカルアドベンチャー』
▲『ミッキーのマジカルアドベンチャー』(1992年 スーパーファミコン)より

 特に『ミッキーのマジカルアドベンチャー』は、3作にわたってシリーズ展開されたほか、2000年代には『ミッキーのマジカルクエスト』と改題されたゲームボーイアドバンス向け移植版も出るなど、カプコン制作のディズニー原作ゲームの中では最も代表的な存在といっても過言ではないだろう。

 例に挙げた2作以外にも『チップとデールの大作戦』『アラジン』『グーフィーとマックス 海賊島の大冒険』『ボンカーズ ハリウッド大作戦!』などのタイトルが存在する。中でも『アラジン』と『グーフィーとマックス 海賊島の大冒険』の2作は、後に『バイオハザード』を生み出す三上真司氏が制作に参加していることでも知られる。

 スーパーファミコン以降の時代にも、後に『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のディレクターを務める藤林秀麿氏が関わった『マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー』なるタイトルが発売されている。2000年代に入ってからも、前述の『ミッキーのマジカルアドベンチャー』の移植版のほか、任天堂との共同でニンテンドーゲームキューブ向けの『ミッキーマウスの不思議な鏡』なる新作を制作している。

 この一連の流れを踏まえれば、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のゲームが作られるのも自然な流れと言えなくもなかったのだ。とはいえ、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』をゲームにする発想自体は異色と言えたかもしれないが。

カプコンならではのガチ設計 完璧な原作再現と予想外に骨太なゲーム内容がよくも悪くも印象に残る

 そんな『ブギーの逆襲』は、固定カメラ視点の3Dフィールドを舞台に繰り広げられるアクションアドベンチャーゲーム。主人公のジャックを操作し、戦闘や謎解きで構成されたチャプターを順番にこなしていくという内容である。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 ジャックはフィンケル・スタイン博士よりもらった「ソウル・ラバー」なる緑のモンスターを装着していて、敵との戦闘ではこれを鞭のように扱う形で攻撃を仕掛けていく。

 攻撃は□ボタンを連続して押すとコンボになる。また、△ボタンで敵をつかみ、そのまま□ボタンを押すと投げ飛ばす、逆に△ボタンを連打すると地面に叩きつける技になる。ほかにコントロールスティック+□ボタンでその場でスピン(回転)して周囲の敵を巻き込む、遠距離攻撃を跳ね返すといった技も用意されている。

 ある程度ゲームが進むとコスチュームチェンジが解禁され、L1とR1ボタンを押すとジャックがそれぞれに応じた姿に変身。「パンプキンキング」なら炎を主体とした攻撃が、「サンタジャック」ならトラップの役割を果たすプレゼントを「Merry Christmas!」の決め台詞(?)と共に近くに設置できるようになる。時にはこれらの特技を使って仕掛けを解く場面も登場する。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 ほかにボス戦では、相手に攻撃を当てるたびに「ミュージカル・ソウル」なるアイテムが現れ、獲得すると画面左上の体力表示の下にあるゲージが上昇。満タンに達すると自動的に「ミュージカル・バトル」なるリズムゲームのモードへと移行し、タイミングよくボタンを押してミュージカルを長く踊りきることで、ボスに大ダメージを与えられるという独自のシステムがある(踊りきれず失敗した場合は……お察しください)。

 ややかいつまんだ紹介だが、こんな具合に原作のミュージカル要素やジャックのキャラクター性をゲームシステムへと落とし込んだ作りを特徴としている。それでいて、よくも悪くもカプコンらしさが発揮された手ごわいゲームに仕上げられている。

 元々、カプコンが制作したディズニー作品のゲームは、原作再現と並行してゲームとしてのやり応えも重視する傾向と特徴があった。前述した『ミッキーのマジカルアドベンチャー』の第1作はそのことが語り草になっており、時折「ディズニー魔界村」と呼ばれたりもする(……が、実際の同作は『魔界村』とは180度異なる方向性の2Dアクションゲームであるため、筆者は極めて的外れな例えだと指摘する)。

 本作『ブギーの逆襲』もその流れを汲んでおり、中でも戦闘は相手との間合いや距離を意識した立ち回りと、×ボタンで発動するステップによる回避を心がけることが試される本格的なものになっている。この時に限り、ジャックが戦闘態勢を取る関係で移動速度が遅くなるという仕組みもあって、安易な力押しも効きにくい。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 フィールドの探索や謎解きも、周辺を隈なく調べるのは序の口。ある程度進むとコスチュームチェンジの活用が試されたり、時には危険な罠が張り巡らされた地形を進むアクションゲーム全開な場面も出てくる。

 ほかにボスも相手の動きをしっかり読み切って隙を狙う、周囲の雑魚敵を利用するなどの特異な戦術が試されたりと一筋縄ではいかない。一応、簡単な難易度「EASY」も用意されているのだが、それでも結構な歯応えがあり、それなりにゲームに慣れたプレイヤーも戸惑ってしまうほどのバランスになっている。

 こうした特徴から、映画の続き見たさに軽い気持ちで触れようとすると火傷する内容ではある。しかし、ゲーム自体の出来は良好で、特に見た目は『デビル メイ クライ』っぽくも、独自要素によって異なる戦術性が表現された戦闘システムは見所多し。操作性もよく、技も数が絞られていることから覚えやすいという強みがある。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 最初はぎこちない動きになりがちながら、慣れるにつれてミュージカルばりの踊るような立ち回りができるようになっていくのも、『デビル メイ クライ』っぽさと本作特有の上達の快感が詰まっている。チャプターごとの内容も変化に富んでおり、終始、プレイヤーを退屈させない。

 そして、原作再現もティム・バートン氏を始めとする本家スタッフが関わっているだけあって完璧で、ファン垂涎モノである。

 特に戦闘曲として「This is Halloween」を始めとする映画の楽曲(もちろんボーカル付き)がそのまま流れるのは圧巻。しかも、ボスに至っては相手ごとに本作オリジナルのミュージカル楽曲が設定されているのに加えて、戦闘中には歌詞(およびセリフ)の字幕まで、視認性を損ねない工夫を施して表示するこだわりぶりである。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 グラフィックと演出も原作のテイストを見事に再現しており、間違いなく『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』だと断言できる仕上がり。唯一、ボイスは日本語吹き替えではなく英語のみだが、映画版のキャストも一部参加しているのもあって違和感は皆無。

 ストーリーも中盤以降に明かされるブギーの恐るべき野望など、見所が多い。その果てに訪れるラストバトルも、本作の設定とゲームシステムあってこその非常に印象的で盛り上がるものになっているので必見だ。

 エリア切り替えやメニュー画面への移行のたびにロードが挟まるテンポの悪さ、『デビル メイ クライ』同様にカメラが固定で自由に動かせないストレスを抱かせる部分もあるが、遊び応えと原作再現の高さは本物。少しゲームに慣れている必要こそあるが、原作映画が好きでアクションゲームも好きな人ならばたまらない作品である。

復刻は未だ実現せず いつか遊びやすさの向上を図ったリマスターが出てくれればと思うが……

 だが、こうして紹介したものの、2025年のいまも本作はオリジナルのPlayStation 2版以外の遊べる手段が存在しないという厳しい現実がある。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 それに、前述したようにテンポの悪さと固定カメラといった点は、現代の3Dアクションゲームに慣れたプレイヤーからすると、相当にきつく感じる部分となってしまっている。戦闘などのゲーム部分の出来は確かなのだが、もし今後、オリジナルに触れるというならばそれなりの心構えと覚悟が必要であるとは忠告しておきたい。

 本作に限らず、かつてカプコンが制作したディズニー作品原作のゲームの復刻は特に国内向けには全く進められていない。唯一、『わんぱくダック夢冒険』に関しては、リマスター兼リメイク版『DuckTales: Remastered』が発売されたことこそあったが、日本ではスマートフォン以外のプラットフォームでは未発売に終わっている。

 近年はカプコン自身もディズニー作品を原作とするゲームの制作をあまり手がけなくなってしまっており、その事実からも今後、本作も含むディズニー作品原作ゲームの復刻が実現するか否かは怪しいと言わざるを得ないだろう。そもそも、権利関係の複雑さと厳しさも大きいのだと思われる。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 ただ本作も含め、カプコンが制作したディズニー作品のゲームを楽しみ、その出来の良さと意外な遊び応えに魅了されてきた身としては、このまま過去のゲームとして忘れ去られていくのは看過しがたい。原作を知らない人でも、思わず唸ってしまうような遊び応えと妥協のない作り込みの数々は、いまに体験しても色あせない魅力と価値があるのだ。同時に、このような世界中から親しまれている題材でも、ガチなゲームにしてしまうカプコンという会社の面白さを知ることもできる。

 全部とまでは言わないが、可能であればそういったタイトルに再び触れられる機会を設けてほしい。本作『ブギーの逆襲』も、原作映画の地上波初放送の実現と、新たな関連グッズの発売で大きな盛り上がりを見せているからこそ、単体の形でもいいので実現してほしい。欲を言うなら、オリジナル版の難点であるテンポ周りの改善を図ったリマスター版を熱望したいところなのだが……。

『ティム・バートン ナイトメアー ビフォア クリスマス ブギーの逆襲』

 同じように権利周りの高いハードルを乗り越え、現行の環境で遊べるようになった『鬼武者』のこともある。実現まで時間を要するかもしれないが、いつかより美しく、遊びやすくなった『ブギーの逆襲』を体験できる機会を心待ちにしたい。

 なお、最後に余談だが、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のゲームは『ブギーの逆襲』に限らず、『パンプキンキング』なるゲームボーイアドバンス向けに発売された2Dアクション作品もある(販売はD3パブリッシャー)。こちらは原作映画の前日譚を描いている。例によって、現行環境には復刻されていないタイトルで、オリジナル版しか遊ぶ手段はないのだが、興味のある方はこちらも触れてみることをオススメする。

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