ゲームと生成AIは“共進化”の関係性にある? まるでSFのような技術も登場した最新動向を調査した

ゲームと生成AIは“共進化”の関係性に?

 AIとゲームは歴史的に深い関係にあり、AI研究の一環としてチェスなどのボードゲームをプレイするAIが開発されたり、RPGに登場するNPCの制御にAIが活用されたりしてきた。そこから生成AI時代になるとAIの言語能力が飛躍的に向上し、AIとゲームの関係も“新次元”に突入した。

 本稿では2025年におけるAIとゲームをめぐる新たな動向を「AI活用ゲームに対する意識」「対話型生成AIのベンチマーク」「ストーリー生成AI」そして「ゲーム生成AI」という4つの観点からまとめていきたい。

ゲーム開発者のAI利用率は90%に到達

 生成AIの活用はゲーム開発の現場にも及んでおり、いまやゲーム開発者はAI普及と進化の影響をもっとも大きく受けている職業のひとつといっても過言ではない。ゲーム開発者のAI活用に関する意識については、Googleのクラウド部門が2025年8月にアンケート調査結果を発表している(※1)。

 アメリカ、韓国、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンのゲーム開発者615名を対象として行われた同調査によると、回答者の90%がすでにゲーム開発でAIを活用していることがわかった。

 また「AIはどのようにゲーム業界を変えていくか」と質問したところ、「ゲーム環境のグラフィックと没入性の向上」が30%、「ゲーム開発の民主化」が29%、「反復的開発サイクルの高速化」が28%、といった回答が得られた。一方で「新しいゲームジャンルやゲームプレイタイプの出現」という回答は27%であり、AIによってゲーム自体が変わるにはまだ時間がかかりそうなこともわかった。

 ゲームプレイヤーの生成AIに対する意識調査については、ゲーム攻略サイト「ゲームエイト」を運営する株式会社ゲームエイトが2025年8月、同サイトを利用するゲームプレイヤー205名を対象としたアンケート調査結果を発表している(※2)。

 この調査において「もしAIがゲームに取り入れられたら、あなたはどんなことを期待しますか?(複数回答可)」と質問したところ、1位の「ゲームの品質向上」が36.10%の支持を得る一方で、「新しいゲーム体験の創出」は18.54%と3位であり、ゲームプレイヤーもまた「Aを活用した新ジャンルのゲームの誕生と普及」は先の話だと考えていることがうかがえる。

 また「もし、今遊んでいるゲームの中にAI生成物(イラストや声、ストーリーなど)があったと知ったら、ゲームを遊ぶときの気持ちにどんな変化があると思いますか?(複数選択可)」という問いに対しては、「特に影響はない、面白ければ問題ない」が53.23%、「AIが使われているかどうかを明確に開示してほしい」が32.84%となり、過半数のゲームプレイヤーが適切にAIを活用しているならば、ゲーム自体には問題はないと考えていることもわかった。

 以上のGoogleクラウド実施調査とゲームエイト実施調査は、前者の調査対象国が5カ国に対して後者は日本のみと調査規模が異なるものの、ゲーム開発者とゲームプレイヤーというゲーム業界における立場の異なる関係者から回答を得ているため、ゆるやかな補完関係にあると見なせる。これらの調査から、ゲーム業界全体が生成AIをおおむねポジティブに受け入れている現状が読み取れるだろう。

工場建設ゲームやチェスでは人間に遠く及ばず

 製品やサービスの性能を測定するツールは一般に「ベンチマーク」と呼ばれるが、AIのベンチマークには伝統的にゲームが活用されてきた。というのも、特定のゲームにおける人間のトッププレイヤーにAIが勝利すれば、そのゲームにおいてはAIが人間を凌駕したと判断できるからである。こうした経緯から、チェスの世界チャンピオンに勝利した「Deep Blue」や、囲碁のトッププロプレイヤーに勝利した「AlphaGo」などが開発された。

 ChatGPTをはじめとする対話型生成AIが登場すると、その高度な言語と推論の能力を測定するために、複雑なルールのゲームをベンチマークとして活用する動向が活発になった。たとえばClaudeシリーズを開発・提供するAnthropicは2025年3月、GPT-4oを含むその当時の代表的な対話型生成AIを対象とした、工場建設ゲーム『Factorio』をベンチマークとして活用した評価結果を発表した(※3)。

MCP Support in FLE v0.2

 『Factorio』をプレイするように設計されていない対話型生成AIに対して、Anthropicは同ゲームをプレイできるように特別なプレイ環境を用意した。そのうえで、さまざまな製品を製造するように指示を与えたところ、「Claude 3.5-Sonnet」が指示達成率21.9%で1位となった。もっとも、ベンチマークで使った指示を人間プレイヤーに与えたところ、すべて達成できたので、同ゲームに関しては生成AIが人間に大きく劣ることもわかった。

 Google傘下のAI研究機関DeepMindは2025年8月、Googleが開発した「Gemini 2.5 Pro」を含む8つの対話型生成AIを対象として、チェストーナメントを実施したことを発表した(※4)。このトーナメントには、推論に強いとされる「OpenAI o3」もエントリーしていた。

 上記のトーナメントは、「OpenAI o3」が優勝する結果となった。トーナメント後、参加した生成AIの優劣をより明確するために総当たり戦を実施したうえで、人間チェスプレイヤーのラインキングに活用されているEloレーティングを算出した(※5)。この結果においても、以下のランキング表のように1位は「OpenAI o3」であった。

 もっとも、「OpenAI o3」のEloレーティングは1397なのだが、このスコアは人間チェスプレイヤーの最高位であるグランドマスターの2500に遠く及ばない。さらには、チェスに特化したアプリである「Stockfish」の3644には手も足も出ない。

 『Factorio』とチェスのベンチマーク事例から、対話型生成AIはゲームプレイにおいては現在のところ人間に遠く及ばないことがわかる。驚異的な進化を遂げているように見える対話型生成AIでも、ゲームを活用したベンチマークによって弱点が露呈するので、今後も同様の取り組みは続けられるだろう。

パズーとキキが登場するシーンを生成するアドベンチャーゲーム

 対話型生成AIを活用すれば、プレイヤーの入力テキストに応じて、さまざまなストーリーを生成する“生成AI駆動型アドベンチャーゲーム”が開発できるのではないか、という期待がゲーム業界に広がっている。

 上記のようなゲームの日本国内における先駆的事例として、日本発のエンタメAIカンパニーを自認するモリカトロン株式会社が2024年に発表した『言霊の迷宮』がある(※6)。このゲームでは、プレイヤーの入力テキストに合わせて、キツネの姿をした冒険者・モリックが使うアイテムや探索するダンジョンのシーンが、テキストのストーリーと静止画によって生成される。

人とAIが紡ぐ無限の冒険物語!アドベンチャーゲーム「言霊の迷宮」のご紹介

 2025年4月には、中国の大手IT企業テンセントの研究部門と香港城市大学の共同研究チームが、プレイヤーの入力に合わせて短いアニメーションを生成するアドベンチャーゲームシステム「AnimeGamer」を発表した(※7)。

 研究目的で開発されたAnimeGamerでは、アニメーションを生成するための学習データとして10本のジブリ映画が活用された。その結果、以下の画像のように『天空の城ラピュタ』のパズーと『魔女の宅急便』のキキが登場する、現実のジブリ映画にはないアニメーションを生成できるようになった(画像上段の「Ours」のフレーム群、本稿のトップ画像も参照)。このアニメーションではシーン指定が「部屋」、入力テキストが「静かに本を調査する」となっている。ちなみに下段と中段は性能比較のために用意した既存モデルの出力結果であり、この比較から「AnimeGamer」の表現力の高さがわかる。

 なお、AmineGamerにおけるジブリ映画の活用は非営利の研究目的であり、この研究によるジブリ映画のアニメーションを生成するAIの開発や商用化、さらにはジブリ映画に対する著作権侵害を意図していないと理解すべきである。

 以上のような生成AI駆動型アドベンチャーゲームは、まだ研究段階にある。というのも、製品としてリリースした場合に想定されるさまざまな入力テキストに、現段階では十分に対応できないからである。しかしながら、“プレイヤーの数だけストーリーがある”というこのジャンルのゲームが製品化されたあかつきには、新たなゲーム文化が誕生するかもしれない。

「ロンドンの運河に飛び込むドラゴン」が登場するワールドを生成

 2024年2月にOpenAIが動画生成AI「Sora」を公開した時、デモ動画のひとつに『Minecraft』のプレイ動画があったことから、“AIによるゲーム画面の生成”が注目されるようになった。このようにしてゲーム生成AIは新たな研究分野となり、同年12月、Google DeepMindは1枚の静止画から3Dゲームフィールドを生成して探索できる『Genie 2』を発表している(※8)。

 2025年2月、Microsoftの研究部門はゲーム生成AI「Muse」と、このAIを組み込んだゲーム開発環境「WHAM(World and Human Action Model:世界と人間のアクションモデル)」のデモンストレーターを発表した(※9)。この「WHAM」を活用すれば、ゲーム開発者はテキストを入力するだけで、任意のキャラクターのさまざまなアクションを生成できる。この開発環境からは、プログラミングの知識なしでビジュアルがリッチなゲームを開発できる未来を垣間見ることができる。

 2025年8月には、Google DeepMindが前述の「Genie 2」の後継AI「Genie 3」を発表した(※10)。「Genie 3」では、生成したワールドに起こった変化を数分間保持する“世界の記憶”が可能となった。具体的には、例えば3Dワールドにある部屋の壁の一面をペンキで塗った後、この壁から視線を外し、また壁を見ると、壁にはペンキを塗った跡が残っているのだ。

Genie 3: リアルタイムで移動できるダイナミックな世界を創造する

 この“世界の記憶”と並ぶ「Genie 3」の革新性として、“ワールドイベント”の実装がある。この機能は、生成したワールドを探索中に、テキスト入力によって任意のイベントを起こせるというものである。たとえば、ロンドンの運河を生成後、「荒々しい深紅のドラゴンが頭から真っ逆さまに飛び込み、運河に砲弾のように激突する」と入力すると、実際に深紅のドラゴンが運河に飛び込む様子が描画されるのだ。

 以上に紹介したゲーム生成AIには、テキスト入力のみでゲームを開発する“ゲームの民主化”や、『Roblox』のようにゲーム開発自体を一種のゲームとして提供することによる、“新しいゲーム開発コミュニティ”の創出、といった可能性が秘められている。

 本稿では、生成AI時代におけるAIとゲームをめぐる最新動向を4つの観点から紹介してきた。こうした最新動向から、生成AIとゲームは相互に影響を与え合うことで、双方が同時に進化する“共進化”の関係を築いていることがわかる。そして、共進化する生成AIとゲームは、今後も両方の新たな可能性を展開していくだろう。

〈参考〉
(※1)Google Cloud「90% of Games Developers Already Using AI in Workflows, According to New Google Cloud Research」
https://www.googlecloudpresscorner.com/2025-08-18-90-of-Games-Developers-Already-Using-AI-in-Workflows,-According-to-New-Google-Cloud-Research
(※2)株式会社ゲームエイト「【株式会社ゲームエイト】ユーザーはAIに何を思う? 生成AI活用に関する意識調査レポート(2025)を公開!」
https://game8.jp/articles/569134
(※3)「Multi-Agent Factorio|FLE v0.2 Release Notes」
https://jackhopkins.github.io/factorio-learning-environment/versions/0.2.0.html
(※4)Google「Rethinking how we measure AI intelligence」
https://blog.google/technology/ai/kaggle-game-arena/
(※5)Kaggle「Chess Text Input|Leaderboard」
https://www.kaggle.com/benchmarks/kaggle/chess-text/leaderboard
(※6)モリカトロン株式会社「言霊の迷宮」
https://morikatron.com/research/kotodama
(※7)「AnimeGamer: Infinite Anime Life Simulation with Next Game State Prediction」
https://howe125.github.io/AnimeGamer.github.io/
(※8)Google DeepMind「Genie 2: A large-scale foundation world model」
https://deepmind.google/discover/blog/genie-2-a-large-scale-foundation-world-model/
(※9)Microsoft research「Introducing Muse: Our first generative AI model designed for gameplay ideation」
https://www.microsoft.com/en-us/research/blog/introducing-muse-our-first-generative-ai-model-designed-for-gameplay-ideation/
(※10)Google DeepMind「Genie 3: A new frontier for world models」
https://deepmind.google/discover/blog/genie-3-a-new-frontier-for-world-models/

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