識者が予測する、2025年のAIトレンド OpenAI『Operator』の登場とゲーム生成AIの台頭で“生成AI法”は成立するか

2024年のAI業界は、対話型生成AIの開発競争、動画生成AIの台頭、そしてAI研究者のノーベル賞受賞とまさに“実りの年”であった。それでは、2025年のAI業界ではどんなことが起こるだろうか。本稿ではAI業界の現状を確認したうえで、2025年のトレンドを予測していく。
地位が固まった生成AIプラットフォーマーたち
2024年のAI業界は、さまざまな技術的進化が実現した一方で、そうした進化を担うAI企業が淘汰された年であった。莫大な資金と計算資源を要する生成AI開発は、創業して間もないスタートアップが参入できるようなフィールドではなくなったのだ。こうした生成AI開発を推進して最新サービスを提供する“生成AIプラットフォーマー”の動向を以下に整理する。
生成AIプラットフォーマーの筆頭は、その知名度から見てOpenAIで間違いないだろう。同社が2024年に発表した主なサービスには、動画生成AI『Sora』、ChatGPTを駆動させる基盤モデルとなる『GPT-4o』『OpenAI o1』『OpenAI o3 preview』などがある。
同年12月に行われた12日連続の新サービス公開では月額200ドル(約3万円)で『OpenAI o1』などが使い放題のプラン「ChatGPT Pro」が発表されたのだが、OpenAIのアルトマンCEOがXにポストしたところによると、多くのユーザーが使い過ぎるので赤字、とのこと。このポストから、ChatGPTの注目度は依然として高いことがうかがえる。
insane thing: we are currently losing money on openai pro subscriptions!
people use it much more than we expected.
— Sam Altman (@sama) January 6, 2025
OpenAIの最大のライバルは、Googleだろう。昨年12月には、前述のOpenAI連続発表が進行するなか、最新対話型生成AI『Gemini 2.0』と最新動画生成AI『Veo 2』を発表した。OpenAIとGoogleは、両者一歩も引かないAI開発競争を繰り広げている。
OpenAIに資金提供しているMicrosoftは、GPT-4を活用した同社開発の生成AI『Microsoft Copilot』を中心にAIビジネスを展開している。昨年には同AIの活用に特化したPC『Copilot+PC』を発表し、同AIを活用した各種ビジネス向けアプリも提供している。
生成AIビジネスでは出遅れた印象のあるAppleも、2024年6月に同社開発AI『Apple Intelligence』を発表(※1)した。さらにiOS 18をはじめとするApple製品のOSがChatGPTと連携するようになるので、2025年には同社も生成AIプラットフォーマーの一員となるかもしれない。
2025年は、以上に挙げた生成AIプラットフォーマーが引き続きAI業界をけん引することになるだろう。これらの企業が開発競争を繰り広げる領域は、後述する「AIエージェント」になると予想される。
生成AI普及の新たな波“AIエージェント”
生成AI開発競争の新たな主戦場となる「AIエージェント」とは、ChatGPTのようにユーザーの質問または指示に対してテキストや画像を出力するのではなく、特定のタスクを遂行するものである。こうした特徴を理解するには、AIスタートアップのAnthropicが昨年10月に発表した「computer use」(※2)についての動画を見るとよい。この動画は、同AIが検索した会社情報をリクエストフォームに記入する様子を収録している。
AIエージェント開発に関しては、Googleが昨年12月の『Gemini 2.0』発表時に、AIエージェント開発プロジェクトに取り組んでいることを報告している(※3)。この報告により、メガネ型デバイスを駆動する「Project Astra」、ウェブブラウザベースでタスクを遂行する「Project Mariner」、そしてコーディングを支援する「Jules」の存在が明らかになった。
Microsoftは昨年11月にオンラインミーティングアプリ『Teams』の新機能として、ふたつのAIエージェント「Facilitator agent」「Interpreter agent」の実装を発表した(※4)。前者はミーティング中にその要点をまとめたメモを自動生成するものであり、後者はミーティング参加者の発言をリアルタイムに指定した言語に翻訳するものである。前者はパブリックプレビュー版がすでに提供されており、後者は2025年初頭に提供開始予定である。
OpenAIからはAIエージェントに関する発表がないものの、水面下で開発が進んでいると推測される。テック系メディア・The Vergeが昨年11月に報じたところによれば、同社はコードネーム「Operator」と呼ばれるAIエージェントを開発しており、2025年1月にプレビュー版を公開する、とのことだった(※5)。
以上のような水面下の開発の初期の成果として、OpenAIは2025年1月15日、ChatGPTに将来のある時点で何かを実行するように指示できる新機能「Tasks(タスク:「仕事、任務」を意味する英単語)のベータ版を発表した(以下のXポストを参照)。有料ユーザー向けのこの機能は、例えば「毎朝9:30に運動するように知らせて、その時にはやる気が出るメッセージを出して」というような指示を指定時刻に実行するものだ。
Today we’re rolling out a beta version of tasks—a new way to ask ChatGPT to do things for you at a future time.
Whether it's one-time reminders or recurring actions, tell ChatGPT what you need and when, and it will automatically take care of it. pic.twitter.com/7lgvsPehHv
— OpenAI (@OpenAI) January 14, 2025
そして、2025年1月23日、The Vergeがリークした通りのことが起こった。同日、OpenAIは専用ブラウザにおいてユーザーの指示にしたがってウェブ上のタスクを実行する同社AI gent「Operator」を発表した(※6)。この機能の実力は、YouTubeのOpenAI公式チャンネルで公開されたYouTube動画を視聴するとわかる。この動画から、同機能が食料品配達サービス・Instacartで食材を購入する様子が確認できる。
Operatorは、最初はアメリカ在住のChatGPT Proユーザーに提供され、ChatGPT Plus、Team、Enterpriseのユーザーに順次提供し、安全性と使いやすさに確信が持てた時点でChatGPTにも実装する予定だ。
AIエージェントは、その活用範囲が対話型生成AIより広い。2025年にAIエージェントの普及が実現した場合、多くの業界でユーザーとAIエージェントとのコラボレーションが実施されることになるだろう。