水溜りボンド10周年で振り返る、活動の軌跡と“変わらないもの” いつまでも2人で「YouTube界のサザエさん」に

 2人組YouTuber・水溜りボンドが活動10周年を迎え、ハワイロケ記念動画を公開した。といっても「◯◯したら即帰宅」といった刺激的な罰ゲームや派手なドッキリ要素はない。2人が思い出の地を巡り、これまでの歩みを語り合う──そんな肩の力が抜けた旅の記録である。

 「ロケなんてカッコつけて言ってますが、友達と旅行行った時にカメラを回しただけです」とトミーが概要欄で記したように、中心となっているのは“素の2人“のやりとり。移動車での何気ない会話や、レストランで何を食べるのかとメニューを覗き込むときの空気感……。その一つひとつが微笑ましく、そんな時間を愛しむように、編集を手掛けたカンタも「編集素材むちゃ多くて超大作になってしまいました」と2時間を超える長尺動画にしてファンに届けてくれた。何気ない日常こそが「水溜りボンド」というコンテンツの真骨頂だと再認識させてくれる作品となっている。

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「YouTube界のNHK」と呼ばれた快進撃と思わぬ失墜

 この10年、実にいろいろなことがあった。前半の5年間は、「YouTuberドリーム」を地でいく快進撃を見せた水溜りボンド。2015年から2020年までの丸6年間、毎日投稿を続けてきた彼らの努力家な側面と、世間にYouTube動画の普及していくタイミングとがリンクして、破竹の勢いで人気YouTuberの頂きへと駆け上がっていった。

 その内容が家族や子どもたちも安心して閲覧できる和やかな企画を打ち出していたことも、刺激的なコンテンツの多いYouTube界において注目を集めた。いつしか「YouTube界のNHK」などと呼ばれたことからも、幅広い層から人気を得ていたことを伺わせる。

  そして2019年春には東海オンエア、パオパオチャンネル、アバンティーズと共に、SHIBUYA109のシリンダー広告として渋谷の街を彩ったことでも話題に。さらに、ラジオ『オールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)、『水溜りボンドの〇〇行くってよ』(テレビ神奈川)などレギュラー番組を持ち、『世にも奇妙な物語 ’18秋の特別編』(フジテレビ系)をはじめとした様々な番組にも登場。

 しかし2020年、思わぬタイミングで彼らの歩みは止まることになる。トミーが経営する飲食店で緊急事態宣言下に30人以上を集めた飲み会が報じられたのだ。「NHK」と呼ばれるほどクリーンなイメージを築いてきただけに世間の反発は大きく、離れていったチャンネル登録者数は40万人以上。カンタも動画で「僕や僕らに付いてきた後輩は『トミーはそういう時にしっかりと止めれる相方』だと思っていたので、正直かなりショックを受けました」とコメントしていたように、視聴者としても「なぜ?」という気持ちが大きかったのを覚えている。

  それでも「ただ、この出来事はトミー1人の責任ではなく、家族以上に一緒に時間を過ごしてきた僕自身の責任も大きかったなと反省しております。本当に申し訳ございませんでした」「誠に勝手ながら、水溜りボンドがこのような形で僕は終わりたくはありません」と、1人で水溜りボンドのチャンネルを更新し続けたカンタ。そして、動画の収益は医療従事者への寄付することで再出発を誓ったのだった。

トミーのリスタートとカンタの挑戦

 一方でトミーは、猛反省の日々を過ごしていた。「YouTuberドリーム」を体現していたハイブランドファッションを脱ぎ捨て、ラーメン店の内装や駐車場の塗装などを手掛けるアルバイトに勤しむ半年間。カンタが「リハビリとして」回したカメラには、外食をせずに毎日自炊するトミーの姿も映し出されていた。それが、後に個人チャンネル「とみビデオ」の礎を築くことになるのも、彼らの強さを痛感する流れだった。

 裸一貫からスタートした「とみビデオ」の特長は、トミーのスピード感のある語り口で大好きな「食」をテーマにしたショート動画だ。自分で作った料理に舌鼓を打つのはもちろん、ゲストを巻き込んで早食いドッキリをしたり、さらにはプロの調理人とワチャワチャしたり……。あのころとはまた違った形でトミーの新たな人脈が広がっているのも、ファンとして微笑ましく見守っていたい。そんな感覚だ。

 今ではチャンネル登録者数は100万人を突破。この8月は再生回数1億1600回を超え、GoogleとUUUMの取り分を除くとショート動画からの収益は98万7600円であったという報告動画もアップ。 そこからスタッフの給与などの経費を引くと、手元に残るのはおよそ30万円ほどだというから、かつての勢いを振り返るとなかなかリアルな数字である。しかし、その“ガチ感“こそ今のトミーとファンとの絆を深めている印象だ。

 ハワイ動画ではYouTube以外の収益が0円であることから自身を「最古のYouTuber」と笑っていたトミー。気づけば、YouTube界も大きく変化し、彼らと同じタイミングでYouTubeを始めたクリエイターたちのなかでYouTube1本で勝負している者はほとんどいなくなった。 YouTubeから離れて別の道へと進んだ者もいれば、人気YouTuberたちはこぞって新たなビジネスを展開している。年齢的に結婚をしたり子どもが生まれたりと、家族を守りながら活動する世代になっていっていることも大きい。

 トミーもいつかはまた好きな飲食で事業を手掛けたいという思いはあるものの、「そこじゃなくてYouTubeだよで、応援した人もいるのかな」と、なかなかその決断はできないという本音をこぼす。そのまっすぐな言葉を届けられるところも、この10年で彼らが大人になった部分と言えるのかもしれない。

 もちろんクリエイターとしてのキャリアの変化は、カンタにも起きている。2024年、9年来の仲間たちと映像制作/SNS運用支援を手掛けるArks株式会社を設立。YouTuberという言葉では収まらない才能を開花させている。個人チャンネル「カンタの大冒険」では、登録者数100万人超えの大物YouTuberである「北の打ち師達」のふぇるとを、ディレクターにスカウトするという新たな試みも。それは、自身が企画・編集をする「水溜りボンド」との差別化を図り、セルフプロデュースでは出せない人間味を出していこうという挑戦。

 「俺をおもちゃにしてくれ」というカンタの提案も、すべてひとりで完結しようとしていた数年前の彼からは考えられない言葉。そして、ふぇるともディレクタションしたいという心情の変化を知ったというタイミングが重なったからこそ実現した流れだ。

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