連載:クリエイティブの方舟(第5回)
「自信がないから作戦を立てる」 水溜りボンド・カンタとワイテルズ・Nakamuが明かす“クリエイター 兼 経営者”としての苦悩

400万人超えのYouTube登録者を抱えるチャンネルのブレーン的役割を担い、「佐藤寛太」名義でミュージックビデオなどの映像作家としても目覚ましく活躍する水溜りボンド・カンタと様々な業界のクリエイターが、クリエイティブの源流を含む創作論について語り合う連載企画「クリエイティブの方舟」。
第5回は、同級生6人組実況グループ・White Tails【ワイテルズ】(※現在無期限活動休止中)の発起人でプロデューサーのNakamuが登場。カンタ率いる映像制作会社・Arks株式会社が、2025年1月に日本武道館で開催された同グループのイベントの様子を収めたBlu-ray『WhiteTails “最初で最後が武道館”』の制作を請け負ったことで知り合った2人は、YouTubeクリエイターや会社経営者という共通点をもつ。今回はそんな2人に、武道館イベントの裏側や経営者としての悩みを赤裸々に語ってもらった。(編集部)
2人をつないだ“武道館イベント”の制作秘話
ーーまずお2人の出会いについて教えてください。
カンタ:たしかオンラインでの打ち合わせが最初だったような……。
Nakamu:そうですね。僕らの武道館イベントで、人気ラジオ番組やイベントを手掛けてきた石井玄(玄石)さんにプロデューサーとして入っていただいたんですけど、そのときに「DVDやるんだったら、せっかくだし」ということで、最初に名前が挙がったのがカンタさんのチームでした。まずYouTubeで活動しているところにシナジーがあって、培ってきた編集スタイルと、1日目の公演中に撮った映像を2日目に流すというスピーディーな編集に対応できるということで、僕の方からも「ぜひ」と、お願いしました。
カンタ:石井さんとは『水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)』からのご縁があって、Arksを立ち上げたこともお知らせしていたので推薦してもらったんだと思います。夜中に編集したものが次の日の公演で流れるのは、めっちゃ新鮮な経験でした。

ーーお互いの第一印象は覚えていらっしゃいますか?
カンタ:僕はゲーム実況者の実態がつかめていないというか、人によって違うんだろうなと思っていたんですけども、ワイテルズのみんなはYouTubeで見るまんまに感じて。
ドキュメンタリーも撮ってはいますけど、普通に考えたらその道のプロにお願いしてもいいところを頼んでもらったので、YouTubeクリエイターならではの関係性とか、どの部分を見せたいか、見せたくないか、完成形がこうなったら嬉しいとか、自分ごとのように思えたというのが第一印象です。
Nakamu:僕はグループのなかでプロデューサー的なポジションにいたので、お2人でやられているチャンネルのプロデュースをしているカンタさんとは、グループに対する葛藤だったり、大変な部分も共有できるからこそ、ドキュメンタリーも生々しく撮っていただけるだろうという気持ちでした。
カンタ:俺も同じ感覚で。YouTubeクリエイターというものでくくったときに、仲のいい友だちでやっているけど数字で判断される世界にいなきゃいけないし、9年を経て、それぞれがやりたいことを見つけたり、家族ができる人がいるかもしれない。フェーズがどんどん変わっていくなかで最初で最後のイベントを武道館でやって、活動休止するという決断したというその思いを聞けばきくほど、同業の自分だからこそ、いい選択なんじゃないかと思ったり。
Nakamuくんは全員の関係性が悪くなる可能性があるのに活動を続けていくことについて「ファンは本当に求めているのか」ということをずっと葛藤していて。それが正しいかどうかもわかんないけど、イベントをやろうと。メンバーも初めは、「やるの?」みたいな感じだったよね(笑)。
Nakamu:そうですね。2023年の10月に活動休止したいとメンバーに伝えたときには、すでに武道館の日程を押さえていたんですよ。そのうえで「グループの活動を休止したい。で、武道館も抑えてきた」「武道館までは頑張るし、みんなが輝けるようにするから」と言ったときの最初の返事は、「休止はいいけど、別に俺らは武道館やりたいと思っていないけどね」みたいなものでした。
カンタ:グループを一番見てきて肌で数字を感じたり、みんなの雰囲気でそういう選択をしたけど、うちのチームが密着してドキュメンタリーの素材を何十時間、何百時間と撮影していくうちに、だんだんとひとつになっていったような感じがしました。でも1年前にミーティングしたときは、けっこう孤独だったよね。
Nakamu:マジで孤独でした。それこそカンタさんチームと石井さんとのファーストコンタクトでは、ワイテルズ側は僕しか参加していなくて。そこで僕は「メンバーはまだそこまで前向きじゃないので、なるべくうまくカバーしていただいて」と、当時の本音もしっかり話しました。
ーーグループのリーダーとしての話も含めて、見えすぎるがゆえのものをファーストコンタクトで感じとったんですね。
カンタ:考えすぎているなと(笑)。だからどういうドキュメンタリーにするか考えたときに、ワイテルズのみんなにとっていいものにしたいから、全員がカッコよくみえる、楽しいものにしようと、そういう目線で追っていきました。
相当みんな優秀だし、能力があるからこそ絡まっている糸みたいになっているけど、武道館に向かっていくにつれてそれが解けていっているのがドキュメンタリーに出ていると思いますね。
ーーカンタさんだからこそ作れたような感じがしますね。
Nakamu:間違いないと思います。一般的な映像制作会社に頼んだ場合、そこの温度感が見ている側にどう伝わるか、インフルエンサーレベルで理解するのは難しいと思っていて。カンタさんはご自身のファンだったりこれまでの経験から、僕らと僕らのファンの関係性や、ファンへの向き合い方を理解してくださっていて、ドキュメンタリーにはそれがすごく表れていると思います。
カンタ:編集をしていくにあたって、ワイテルズを見てきた人たちが気づいているであろう、「ここは友達なんだけど、ここは戦友だろうな」というメンバー間にあるニュアンスがわかるような、ファンが見たいものになっていると思いますね。
Nakamu:6人が完全に横並びじゃない感じですよね。矢印の向きだったり太さみたいなものがちょっと違うみたいな。
カンタ:編集すればするほど、それが自分でもわかってきて。武道館のステージを見終わったあと、全部のカメラの映像を確認したときは必要以上に時間がかかりましたね。「この表情、ドキュメンタリーに入れたいな」とか。武道館が終わったあとも、どんどん好きになっている(笑)。
ーー愛ですね(笑)。映像制作以上のことをされていますよね。
Nakamu:ほかの方に頼んでいたら絶対になかったクオリティ……エモーションというか、感情の部分がすごく映像のなかに垣間見える。ただ効率のいいカットとか、ただよく見えているわけじゃなくて、その裏にちゃんと編集者の愛があることは僕も感じているので、それはカンタさんに頼まないとできなかったことだと思います。
カンタ:みんなが限界すぎてカメラを回せない瞬間もあったんですけど、一応先輩だから、無理やり撮影するみたいな。普通のディレクターだったらやめておこうとなるところを、ここは絶対映像に残さないと自分がやっている意味がないと思って。もうてんやわんやでしたよ。
Nakamu:2日目はBroooockくんが作ったゲームが止まったりとか、本番2時間前にコントのセットが逆向きになっているのがわかったり。ほかのこともいろいろ同時多発的に起こっていて、ずっと走り回ってました。
カンタ:これはいいドキュメンタリーになるぞと思いました(笑)。でも素晴らしいなと思ったのが、3日間のうちの1日目はメンバーが緊張するかもしれないとか、あまりにやることが多いと大変だからというので、メンバーは本当に何も知らない状態でやっていたところですね。
Nakamu:リハーサルみたいな体をとって、ミスしても何とかなるみたいな空気感を作って。最終日は本当に本番としてやらなきゃいけないんですけど。
カンタ:だから3日中2日はけっこう和やかな空気だったんですけど、3日目は急に「ヤバいぞ」という空気に変わったもんね。素材を見ても、最終日は前の2日間と比べると、誰もカメラに向かって喋っていないし、尺が短いんですよ。でも本当のワイテルズらしさが入っているから、武道館に来た方でDVDを買っていない人は見てほしい。
Nakamu:準備のプロセスや緩んでいる時間と、「ヤバい」となってからの全員のピリついた空気感とか。
カンタ:これまでこういうドキュメンタリーを作ったことはなかったから、すごく不思議な気分。裏側も知っていて、「あの人たちがいま、舞台に立っている」という見方をしたときに、自分も大きな会場でのイベント経験があるからすごく共感もできるし。YouTubeクリエイターのイベントはファンも仲間なんで、「大丈夫っしょ」という感じで臨んでいたけど、実際にステージに立つと、「ファンがいっぱいいる」みたいな。それを俯瞰して見ているような感覚でした。
Nakamu:追体験チックだったんですか?
カンタ:「輝いているな」みたいな。自分のファンもこうやって見にきてくれていて、こうやって感動していたんだろうなと。でも、この6人はやっぱりすごいなと思って。なるべくしてなったんだということも、お客さんが感動する理由もすごくわかったから、YouTubeを含めて自分のやっている仕事は面白いなと思いましたね。
ーーいろんな思いがあったと思いますが、制作を進める上で印象に残っていることはありますか?
カンタ:一番はモザイク処理が大変すぎること。ワイテルズは顔出ししていないので、顔が映らないような画角で撮ることもできたけど、それだとなんかおもしろくないと思って顔も写していたんです。そしたら顔が鏡に反射しているとか、そういう映り込みがものすごく発生していて。ワイテルズメンバーやスタッフの方と一緒にチェックしたり、本当に大変でしたね。
Nakamu:本編は全員マスクを被っていたんですけど、ドキュメンタリーがね。とてつもない物量だったと思います。
カンタ:武道館でMVを撮ったことはあったんですけど、編集はしたことがなかったんで、単純にテンションが上がるという。
Nakamu :音ハメもしてくれたりしてたんですよね。これは僕からの注文ではなくて、カンタさんが……。
カンタ:やりたかったから、勝手に(笑)。好きなアーティストのライブ映像をいっぱい見て、サビは引きの方がいいんだなとか、疾走感はこうやったら出るんだみたいなことを、改めて理論化してやらせてもらえたのが個人的には楽しかった。遊ばせてもらいました。
Nakamu:めっちゃカッコよくなっていましたからね。エンドロールはDVD限定のものがついているんですけど、それもカンタさんが作ってくださって。
カンタ:「ジブンシ」というオリジナル曲に3日間のイベントの様子とドキュメンタリーを合わせた総集編みたいなものを勝手に作って、最後に差し込みました(笑)。
ーー出来上がった動画を見たときは、率直にどう思いました?
Nakamu:なにかやっているところをあとからカメラの視点で見ることはなかったので、「こんな風にみえるんだ」「この言い方しがちだな」とか、自分のよくないところがすごく目につきました。僕が知らないところでメンバーにひとりずつインタビューしてくれた映像では、メンバーが僕のことを褒めてくれるシーンがあって、グッとくるところもありましたね。
カンタ:男同士はめんどくさいですよね(笑)。直接言えばいいものを、カメラを介すると「よくやってくれていますよ」みたいな言葉が出てきたりするから。残しておくべきものだったなと思っていますね。
Nakamu:ドキュメンタリーには、カンタさんの目線で切り取ったワイテルズが出ていると思っていて。そこは僕が触るより、カンタさんに編集していただいたものの方がきっと写りがいいはずなので、信頼して任せていましたね。
ーーそういう意味では、ある程度節目のタイミングで初めてグループを俯瞰で見た感じですよね。どう見えましたか?
Nakamu:やっぱり6人って仲がいいんだな、というのが率直な感想です。僕らはみんな不器用で、全員変にプライドが高いので、自分の気持ちを素直に相手に伝えることができない。「いつもありがとう」とか「ごめんね」というワードが出ないんですけど、そういうのも実はボディランゲージのなかに含まれているんだと。そうやって僕らは関係を築いてきて、いまここにいるんだということが明らかになったなと思います。
カンタ:普通に考えたら9年間、同性の人間が6人でなにかをするとなると、どこかで足並みは揃わなくなっていくはずなんですよね。僕らのような2人組でもそうですけど、毎日一緒にいて、一緒に住んでいることが仲いいのかっていったら、いろいろあるじゃないですか。けど、なにかしら関係性が続いてるという時点で、仲はいいんだろうね。
Nakamu:間違いないですね。とくにオープニングは、全員別のドアから登場したんですけど、バラバラになったときでも心がつながっている感じがあって。音楽がかかって、全員が花道の先にあるセンターステージに集まる瞬間の、全員の目のギラつき具合というか、「よし、やるぞ」というスイッチが入って、「ここはマジで乗り越える場所」みたいな空気感は改めて仲のよさを感じました。
カンタ:本当に大切なときに助け合えるわけだから、仲は良いでしょ(笑)。武道館やってよかったよね。
Nakamu:僕らにとってはめちゃくちゃよくて。ファンの人にも同じような気持ちになってもらえたらいいなと思います。





















