のん史上“一番不幸な役”? 復讐劇の主人公を演じて魅せる「見たことのない表情」

俳優・アーティストののんが主演を務めるオリジナルドラマ『MISS KING / ミス・キング』(全8話)が、9月29日より毎週月曜日20時よりABEMAで無料配信される。
『MISS KING / ミス・キング』は、天才棋士の父に人生を奪われた主人公・国見飛鳥が、その深い憎しみから開花させた才能と、まっすぐに突き進む意志の強さで、自らの人生を取り戻していくヒューマンドラマだ。辛い過去と向き合いながらも、前に進もうとする力強い女性の姿が丁寧に描かれている。今回は主演を務めたのんへインタビューを行い、テーマにもなっている将棋との向き合いや、自分と飛鳥との共通点、出演作が続くここ1年の現在地について語りつくしてもらった。(編集部)
「将棋は、いままでどれだけ向き合っているのかが表れてしまう競技」
――『MISS KING / ミス・キング』の脚本を読まれたときの感想を教えてください。

のん:最初に読んだときは、「おお、将棋か」と思って心を掴まれました。私がやってきた役柄のなかでは不幸な目に遭う主人公という役が新鮮で、これをどうやって演じればいいのかを考え始めていましたね。
――のんさん史上“一番不幸な役どころ”ということですが、のんさんは“飛鳥”という人物にどのような印象を抱きましたか?
のん:飛鳥はぶっきらぼうで、振る舞いが荒っぽい感じがあるんですけど、内面は繊細で鬱屈してるので、そういった危なっかしい感じが出せたらいいと思いましたね。最初は重たいシーンばかりが続くので、ここから将棋で戦うテンションに持っていくためにどうやって観ている人の心を惹きつけられるのかを模索していました。
――役作りはどのようにされていったんですか?
のん:飛鳥は将棋を始めると、それまで抑えつけられていたポジティブな部分が表れてくるんです。最初と最後では飛鳥はまったく違った表情をしているので、そのグラデーションのきっかけを考えるのが難しかったですね。あとは、相手の駒にぶつける打ち方があって、その駒の扱いにも苦労しました。
――それまで将棋の経験は?
のん:まったくなかったです。今回初めて駒を触りました。将棋指導で入ってくださった先生に、「1日100回指していれば絶対に上手くなる」と根性論で教え込まれたので、それを胸に朝起きてボーッとしているときも、ずっと手を動かしていました。
――家では、ひとりで自主練をしていたということですか?
のん:そうですね。空打ちで練習したり、オンラインでコンピューター相手に将棋を指して、ルールを習得していきました。
――のんさん自身も相当将棋が強くなったのではないですか?
のん:8枚落ち(※1)とか、3枚落ち(※2)まで行ったかな。ハンデありでやっていたので、全然強くはならないです。
※1:上手(強い方)が飛車、角、桂馬、香車、銀将をそれぞれ2枚ずつ落とした状態で対局するハンデ戦のこと
※2:上手(強い方)が飛車、角行、香車の3枚を落とした状態で対局するハンデ戦のこと
――のんさんが思う将棋自体の魅力は?
のん:将棋は、いままでどれだけ向き合っているのかが表れてしまう競技だと思いました。一手に何時間もかけたりするときがあるというのを聞くと、何十通り、何百通りも考えて勝利を導き出すためには、どれだけ将棋にのめり込めるかが試されるので、それを対局のたびに繰り返していく姿はかっこいいなと思います。
――撮影期間中、印象に残った出来事はありましたか?
のん:鼻血を出したことが印象深かったです。第1話は山岸(聖太)監督が撮影をされているんですけど、山岸監督とは鼻血つながりで。MV(スチャダラパーとEGO-WRAPPIN’「ミクロボーイとマクロガール」)の撮影で初めてご一緒したときに、「のんさんには鼻血を出してもらいたい」と言われて、それが面白い感じの鼻血だったんですよ。今回台本が上がってきて読んでみたら、「あ、鼻血出てるじゃん」と思って、監督に「鼻血つながりですね」と言ったら、「のんさんは鼻血が似合うんですよ」と言われました(笑)。
――今作、藤木直人さんとはバディのような関係性で物語が展開されていきます。現場ではどのような印象でしたか?
のん:藤木さんのこういった役柄は新鮮だなと思って見ていました。荒っぽさ、男臭さみたいなものと、藤木さんの持つ色気が合わさって、かっこよくてシビレましたね。現場での気遣いも細やかで、肌寒い日に熱々の肉まんを差し入れしてくださったんですよ。コンビニにあるような蒸し器ごと。すごくありがたくて、2個も食べちゃいました(笑)。
――『MISS KING / ミス・キング』は、飛鳥が逆境から自分の可能性を切り開く成長物語となっています。ご自身とも通ずる部分もあったのでしょうか。
のん:自分の才能を過信しているところが似てるかなと思いました。飛鳥は将棋をやるのに20年以上のブランクがあるんです。でも期間を空ける前はかなり将棋をやりこんでいたので、自分の腕には自信があるんですよね。だから、負けても全然へこたれない。そんなところは私と通ずる部分かなと思いました。あとは、不器用なところも似てますかね。人と接するのがそんなに得意じゃないところ……飛鳥よりはだいぶ得意だとは思うんですけど、そういうところが私にもあります(笑)。
――逆に飛鳥とは異なる点はどこだと思いますか?
のん:飛鳥は一度将棋を辞めてしまった人なんですよね。自分の好きな気持ちを抑え込んで生きてきたところから始まりますが、将棋の世界に戻ってからはどんどんのめり込んで周りを置いていってしまうんです。私は子どものころから家族のことを気にせずに好きなことをやって振り回してきた方なので、そこが違うところかなと思います。
――好きな気持ちを抑え込む飛鳥を、のんさんはどのように見ていましたか?
のん:抑え込んでいただけで、将棋を好きな気持ちは消えてなかったんだと感じました。将棋の世界に戻ってくる理由は父親への復讐ですが、その復讐相手がカリスマになってしまったから、将棋を忘れられない、無視できない存在になってしまったわけですよね。気持ちが拗れていって、いまの飛鳥が出来上がっていったのかなと思いました。
――のんさんとしては、いままでにないダークな役でもありますよね。
のん:いままでに見たことのない表情がたくさん詰まっていると思います。私はこの役を表現する上で、監督と話したり、台本から解釈していくうちに、振る舞いは荒っぽい感じなんだけど繊細なところがあるんじゃないかというイメージが固まっていきました。最終的に行き着いたのは『赤い激流』(TBS系/1977年)の水谷豊さんのような感じでしたね。
――事前にいただいた資料でも、そのダークとも言えるようなのんさんの表情が見られます。(場面写真を見せながら)
のん:生意気な、挑戦的な飛鳥ですね。人を食ったような表情。これは対局のシーンで、相手を睨みつけてますね。飛鳥のキャラもあるんですけど、今回はドラマなので、本来の棋士の方がやらない、睨んだりとか、見つめ合ったりという仕草やシーンも盛り込まれています。腕を組んだり、頬杖をついたりとか、どういうマナーがあってどういった振る舞いをすると感じが悪いのかは、所作指導の方に根掘り葉掘り聞いて、そのシーンに合わせて作っていきました。



















