Indie Game Stories:第3回
一口で癒やされ、満たされる。「好奇心が報われる」体験を届けたい――食べ物3Dパズル『UMAMI』開発スタジオインタビュー

『UMAMI』は、食べ物をテーマとした3Dパズルゲームだ。美味しそうな料理や幻想的なスイーツを完成させる過程で、まるで“心の中のお弁当箱”を整えるような優しい癒やしのひとときをプレイヤーへと提供する。
本作は、スペインのインディーゲームスタジオMimmoxが開発を手掛け、日本向けのパブリッシングはゲームマーケティング会社Nextingが担当している。
今回はMimmoxにて『UMAMI』のゲームディレクターを務めるマーク氏と、マーケティングディレクターのベアトリス氏にインタビューする機会を得たので、そちらの模様をお届けしよう。

『UMAMI』の持ち味である穏やかな心地よいパズル体験は、いかにして生み出されたのか。開発の裏側をめぐるエピソードからは、Mimmoxのクリエイターたちのゲームづくりに対する飽くなき「情熱」と「愛情」、そしてとびきりの「遊び心」を感じすにはいられない(編集部)。

――はじめに、おふたりのご経歴や担当範囲、スタジオについてのご紹介をお願いします。
マーク:Mimmoxで『UMAMI』のゲームディレクターを務めています。スペイン在住で、これまで『Towers of Aghasba』のようなインディー作品から『STALKER 2』のようなAAAタイトルまで、アーティストやプロジェクトディレクターとして長年ゲーム業界に携わってきました。アート面・技術面のリーダーとしての経験が、『UMAMI』の礎となっています。Mimmoxのビジョンを形にし、新しいアイデアと革新的なメカニクス、そして“魂”を感じるような癒しの雰囲気を融合させたゲームを生み出すことができました。
ベアトリス:Mimmoxおよび『UMAMI』のマーケティングディレクターです! フランスとノルウェーのルーツを持ち、もともとは地理学を学んでいました(長い話になりますが……)。数年前にゲーム業界へ飛び込み、以来ずっとこの道を歩んでいます。ゲーム業界内外でマーケティングの経験を積み上げてきましたが、決まりきった「これが正解」というやり方にとらわれることはありません。
私がこの仕事、そして業界で本当にやりがいを感じるのは「人」です。ゲームを遊んでくれるプレイヤーとの出会い、温かく誠実なコミュニティづくり、そして好奇心と優しさを持ったマーケティングを大切にしています。特にインディーゲームの世界では、情熱と本物の想いが何よりも大事だと信じています!
スタジオとしてのMimmoxは、人々の心に深く響くゲームを目指し、新しい発想や心地よいプレイ体験を重視した開発を行っています。『UMAMI』も、まさにこのビジョンから生まれました。開発初期から、優れた開発者・アーティスト・クリエイターたちが力を合わせて、その基盤を築いてきました。現在では一部のメンバーが引き続きサポートを行っているものの、プロジェクトの運営、ビジネス面の判断、全体のディレクションは、ゲームディレクターのマークとマーケティングディレクターのベアトリスが中心となって行っています。
──Mimmoxが開発を手掛けた『UMAMI』について、あらためてジャンルやコンセプトを教えてください。
『UMAMI』は、15のユニークな食べ物をテーマにしたパズルを解いていく、心地よい3Dパズルゲームです。集中して挑むものから、より軽やかに楽しめるものまで、バランスよく設計されており、プレイヤーが無理なく最後まで楽しめる構成になっています。
「ちょっとした頭の体操を、好きなときに、好きなペースで楽しめる」——そんな感覚を大切にしています。各ステージには小さなサプライズや遊び心のあるディテールも散りばめられており、プレイヤーの探究心をくすぐる、温かくておいしそうな世界を目指しました。
一言でいえば、『UMAMI』は「小さな幸せを味わう」ことにフォーカスした、やさしくて味わい深いゲームです。

──タイトルにある“UMAMI”は日本語の「旨味」に由来しているようですが、どのような想いが込められているのでしょうか。
「umami(旨味)」という言葉が日本で深い文化的意味を持つことは理解しており、その点を強く意識してタイトルに選びました。この言葉を再解釈するのではなく、その豊かさや温かさ、感覚的な心地よさを静かに想起させるような存在でありたいと思っています。ゲームを通して、その想いがプレイヤーに伝われば嬉しいです。
──可愛らしくユニークな料理やスイーツのビジュアルが印象的です。ビジュアル面はどのように作り上げたのでしょうか。
料理やスイーツを一つ一つ「小さなアート作品」のように感じてもらいたくて、最初はプレイヤーが笑顔になるようなユニークで魅力的なフードアイデアをスケッチすることから始めました。それをアーティストが色彩豊かに、細部に遊び心を加えて仕上げていきました。どのオブジェクトも個性とチャームを持たせるよう意識しています。
──世界観やビジュアル、ゲーム性、BGM・効果音を通して、とても癒やされる体験が得られます。どのような点に配慮して、この心地よさを作り出したのでしょうか。
開発初期から、『UMAMI』は「穏やかに立ち戻れる場所」にしたいという想いがありました。プレイヤーが安心してゆっくり遊べるよう、操作の触感やテンポ、テーマや色、音の演出までひとつひとつ丁寧に調整しました。
ピースの回転やはめ込みの感触、音のバランス、パズルの難易度に合わせた音楽の流れなど、すべてがプレイヤーにとって穏やかで、かつ心をくすぐるような設計になっています。リラックスしながらも「好奇心が報われる」体験を届けたかったのです。

──開発初期にまずどのようなことに取り組みましたか。
最初に取り組んだのは、「パズルのピースをキューブ状に切り分ける技術的ワークフローの構築」でした。複数のソフトウェアを組み合わせてカスタムツールを開発し、その仕組みがスムーズにゲームに統合できるかを早い段階でプロトタイピングして確認しました。
──コンセプトやアート、ゲームシステムをどのようにして一体化させたのでしょうか。
アート、パズル、サウンドデザインといった各要素を同じレベルの丁寧さと一貫性で作り上げることを意識しました。チーム全体が連携しながら取り組むことで、調和の取れた、丁寧に構築されたゲーム体験を実現できたと思います。
──開発中に印象的だった成功体験や、特に苦労したエピソードがあれば教えてください。
『UMAMI』はパズルゲームとしても非常に新しい試みであり、すべてのパズルが手作業で彫刻・彩色されているため、非常に時間と手間がかかりました。
初の試みであることから、ピース数やパズルの難易度設定には特に苦労しました。「難しすぎず、簡単すぎない」理想のバランスを見つけるために、何度もアート面を中心とした反復作業が必要でした。
──開発に使用しているエンジンやツール、チーム体制についても教えてください。
各パズルは、リード3Dアーティストによるスケッチとディスカッションから始まります。その後、ZBrushで精巧に造形され、テクスチャ担当が3D Coat、Substance Painter、Photoshopを使用して、温かみのある手描きの質感を加えていきます。
その後、Houdiniと3ds Maxで開発したカスタムツールを用いて、ピースに切り分けていきますが、この工程もかなり手作業が必要です。どのパズルもユニークな形状のため、微調整と確認を繰り返す必要があります。
最後に、Unity上でアセットを統合・最適化し、リードプログラマーがプレイフィールを仕上げています。

──日本展開にあたって意識していること、あるいは楽しみにしていることがあれば教えてください。
『UMAMI』を日本で展開するには、丁寧で思慮深いアプローチが必要だと最初から考えていました。だからこそ、日本市場や文化を理解したローカルパブリッシャー「Nexting」とのパートナーシップを選びました。
彼らのガイダンスは、私たちのアプローチが尊重と配慮に基づいたものになるために欠かせません。日本のプレイヤーのみなさんが、パズルだけでなく、雰囲気やディテール、小さな演出にまで込めた私たちの愛情を感じてくれることを心から楽しみにしています。
──日本のインディーゲームファンにどのような印象をお持ちですか?
私たちは日本人ではないため、あまり決めつけることはしたくありませんが、これまで見てきた範囲では、日本のインディーゲームファンは「癒し系(いやしけい)」のゲームに対して、チャーミングさや丁寧なデザイン、オリジナリティを重視する印象があります。
心を休めたり、感情に寄り添ってくれるような、美しく穏やかなゲームが愛されていることを知っており、『UMAMI』もそんなやさしい感覚に寄り添えるゲームになればと思っています。
──日本のプレイヤーに届けたい体験があれば教えてください。
『UMAMI』が、まるで一口で満たされるような、穏やかで触感的で心地よいひとときを提供できればと願っています。
パズルを解くたびに、まるで新しい味を発見するような楽しさや驚きを感じてもらえたらうれしいです。そして何より、日本のみなさんにこのゲームが「敬意」と「真心」を持ってつくられたものであることを感じ取っていただけたら幸いです。
「うま味」という言葉に込められた美しさや意味を、ささやかな形ではありますが、遊び心と温かさで表現したいと思っています。

──子どもの頃に影響を受けた作品や、人生を変えるような出会いがあれば教えてください。
私は昔から、木製ブロックのパズルや、触って楽しめるおもちゃに惹かれていました。シンプルなパーツが組み合わさって、美しい形が生まれる……その不思議さと満足感は、今でも私の中に強く残っています。
そうした感覚こそが『UMAMI』の原点であり、一つ一つのパズルが「小さな冒険」や「静かな達成感」を感じられるような設計につながっています。
──クリエイターとして、大切にしている価値観や考え方があれば教えてください。
私は「優しさ」「思いやり」「真心」を持ったゲームづくりを大切にしています。
ゲームがもたらすささやかな喜びや安らぎは、日常の中でふっと心を軽くしてくれるものです。だからこそ、どの作品にもプレイヤーと真摯につながろうとする姿勢で向き合いたいと思っています。丁寧に、誠実に、プレイヤーの気持ちに寄り添える作品をつくっていきたいです。

──Mimmoxが拠点を置くスペインのインディーゲーム開発の現状について教えてください。
スペインのインディーゲーム開発は、とても活気があり、成長を続けています。独自のアートスタイルや個人的なストーリーを大切にする、情熱的なクリエイターがたくさんいます。
インディーショーケースやゲームジャムなど、クリエイター同士のコラボレーションや学びの場も多く、コミュニティとしても充実しています。インディーにとって、とても刺激的な時代だと思います。
──今後挑戦してみたいジャンルやテーマがあれば教えてください。
まだはっきりとは決まっていませんが、その「模索していく過程」こそが楽しいとも感じています。
ひとつだけ確かなのは、今後も「心地よくて、やさしくて、ちょっぴり魔法のような」体験を届けていきたいということです。『UMAMI』はその始まりにすぎません。
たとえゲームジャンルやテーマが変わっても、私たちが大切にしたいのは「癒し」「落ち着き」「静かな満足感」。満たされた気持ちになれるインタラクションや、穏やかな空気感、まるで雨の日に毛布にくるまるような心地よさを、これからも追い求めていきたいと思っています。
テンポ、質感、音楽、色彩……そうした“肌触り”を大切にした、ひとつひとつに個性がありながら、どの作品にも「心の余白」を感じられるようなゲームを届けたいです。
──最後に、日本の読者やプレイヤーに向けてメッセージをお願いします。
ここまで『UMAMI』について知っていただき、本当にありがとうございます。私たちは、このゲームを「静かで、温かく、心を軽くしてくれるような時間」を届けたくてつくりました。
ゲームの中で、ふと力が抜けて、少しだけほっとできる瞬間——そんな「小さな幸せ」が、『UMAMI』を通してみなさんの元に届けば、とても嬉しく思います。





















