写真という“思い出の断片”から心温まる物語を紐解こう 写真整理パズル『インスタントメモリー』レビュー

6月8日、『インスタントメモリー』がNintendo Switch、PC(Steam、Epic Games Store)向けに発売された。本作は、家族写真を整理してアルバムを作ることをパズルに仕立てたナラティブパズルアドベンチャーゲームだ。スペインのインディーゲームスタジオEndflameが開発を手掛け、日本向けパブリッシングはゲームマーケティング会社のNextingが担当している。
開発会社の代表を務めるラウラ・リポル氏の、「祖父母と一緒に古いアルバムをめくりながら、家族の話を聞くのが大好きだった」という幼少期の思い出から着想を得て生まれたという本作について、プレイしてみてわかった魅力を本稿にてお届けしよう。
被写体に思いを馳せながら時系列順に写真を整理
“写真を通じて家族の物語をつなぐ”という物語性のあるパズルが楽しめる『インスタントメモリー』。ゲームを始めると、プレイヤーのもとには一通の手紙が。中には、親戚や知り合いを名乗る人物からのメッセージと、複数枚の写真が収められている。

プレイヤーは、手紙の差し出し人のメッセージと写真に収められている光景から、いつ・誰の・どんな場面を写したものかを推測し、写真を時系列順にアルバム上へと並べていくことになる。すべての写真を並べ終わったころには、登場人物たちが紡いだ人生のかけがえのない思い出が、ひとつの物語となって浮かび上がるというわけだ。

時系列をパズルに落とし込んだゲーム性であるがゆえに、物語の始まりとなる“1枚目の写真”に目星がつくとその後の推理がスムーズに進みやすい。もちろん撮影日などの直接的なヒントは記載されていないので、写真の登場人物たちが最も若い姿で写っていそうなものや、物事のきっかけとしてふさわしそうな場面が写っているように感じたものを、まずは直感で2~3枚くらい目星をつけてみるといいだろう。
複数枚の写真を選びとってアルバム上に並べてみると、写真と写真をつなぐ“色付きの矢印”が表示されることがある。緑色は時系列的にその写真どうしが隣り合うこと(つまり正解)を表し、赤色は不正解。黄色の場合は、時系列の流れは合っているものの2枚のあいだに足りない写真が存在することを示す。

この矢印を頼りにすれば比較的ストレスフリーにパズルを解いていけるので、写真に紐づく物語や、写真整理という行為自体をメインに楽しみたい場合はありがたい機能となっている。また設定から非表示にすることも可能なので、歯ごたえのあるパズルを求めるならばオフにし、写真から読み取れる情報のみを頼りに試行錯誤してみるのも一興だ。
- なかには写真の裏にメモ書きが残されていることも
多くは語らない、語り過ぎないからこその“心地よさ”
パズルとして整理していくことになる家族写真は、祖父母の馴れ初めから新婚生活までを切り取ったものや、ある兄弟たちの毎年のクリスマスにまつわる写真、叔父の若かりしころの仲間たちの青春模様など、さまざまなテーマに沿って用意されている。それらの物語を、チャプターごとにオムニバス形式で紐解いていくわけだ。

身も蓋もないことを言えば、写真のなかの人物たちはプレイヤーにとって赤の他人であり、写っているのも遠い過去の出来事である。
しかしながら、写真として切り取られた光景や彼らの表情から当時に思いを馳せていくうちに想像が膨らみ、自然と感情移入が進み、彼らの思い出が“生きた物語”としてスッと胸に染み渡っていくような、そんな体験を本作はもたらしてくれる。しかも登場人物のセリフも、ボイスも、状況説明文さえもなく、写真の羅列によってそうしたゲーム性を成し遂げているのが秀逸なポイントだと感じた。

コンセプト、アート、サウンドに至るまで一貫して心地よさが感じられる雰囲気づくりも見事。ナビゲート役を務めるかわいらしい猫ちゃんをはじめ、アルバム作成画面では紅茶の入ったティーカップがあったり、お茶請けが乗ったお皿が用意されていたりと楽しげだ。パズルゲームに対してとくに影響はしない要素だが、ひと息入れたいときはぜひクリックしてみてほしい。

ちなみに、各チャプターをクリアしたときにはメダルがもらえるのだが、このメダルを使って解禁できる要素がお茶請けの種類であるというのも“らしさ”だと感じた。ほかにもアルバムをデコレーションするためのシールやテープの種類が徐々に増えていくので、写真の整理が終わった後は、出会えた物語に彩りを加えてあげよう。それこそ、お子さんと一緒にシール遊びに興じるというのも楽しいかもしれない。

登場人物たちの心温まる物語とパズル要素が溶け合い、世界観と“整理”に没入する心地よさと爽やかな読後感をもたらす『インスタントメモリー』。“写真”という多くを語らない存在によって紡がれる物語は、情報過多な現代社会を生きる私たちに安らぎと潤いを与えてくれるだろう。
























