“ありえたかもしれない自分”とともに未知の惑星から脱出せよ サバイバル・シミュレーター『The Alters』プレイレポート

『The Alters』をプレイした。
本作は『This War of Mine』や『Frostpunk』を開発した11 bit studiosが手掛けるサバイバル・シミュレーション・ゲームだ。
11 bit studiosらしい選択の難しさと、シビアなリソース管理を求められる傑作だった。

本作の主人公はヤン・ドルスキという中年男性。ある会社から惑星探索ミッションを課せられた宇宙飛行士だが、不時着の際に彼以外のクルーが死んでしまった。運よく移動可能なベースを見つけて居住できたは良いものの、強烈な放射能を射出する太陽から逃げなければならないことがわかった。他にも、食料問題などを始め、到底ひとりでは解決しきれない問題を抱えていた。
そこで、ヤンはベースに備え付けられていた量子コンピュータと、現地で手に入れた成長を促進する物質であるラピディウムを使い、自分の分身を作成することに決めた。人生の分岐点に戻り、有り得たかもしれない未来をシミュレートして、炭鉱夫や科学者などのヤンを作成していく。彼らに一緒に働いてもらい、さまざまな危機を乗り越えていくのだ。

ゲームシステムは11 bit studiosが得意とする資源管理シミュレーションだ。毎朝ベッドから起き、施設の状態を確認して、ヤンたちに作業を割り当て、地表に出て探索に向かったり、資源を獲得したりする。毎晩20時前後になると放射能の嵐が訪れるので、それまでにベースに帰り、ベース内でできる作業をしたり、ほかのヤンと交流したりして、23時ごろに就寝する……そんなサイクルだ。
もちろん、それらがすべてすんなりとうまくいくわけではない。施設が故障したら、リペアキットを作ってメンテナンスを行わなければならないし、ヤンも働きどおしでは不平不満も溜まってくるし、会社は生死の際にいるヤンに対しても延々と無理難題を突きつけてくる。それらをケアしつつ、ストーリーを進めていく必要がある。

筆者はすべて標準難易度で遊んだが、なによりもゲームバランスが非常に素晴らしかった。
探索によってアノマリーを発見し、リバースエンジニアリングを行うことで新しい技術が開発できたり、純粋に新しい鉱石を掘ってさらに便利な道具を作ったりする行程が楽しく、常に何かやるべき作業があるのだ。ゲームのなかでもワーカーホリック気味に何かをし続けたいというタイプの人にはたまらないだろう。

それらを邪魔する障害も、度が過ぎているものはなく、何とかして突破してやろうという気分になってくるのが良い。映画『火星の人』のように、問題を調査して、自分たちでできることを逆算し、腐らず怒らず着実に問題を立て直していく作業が面白かった。知性主義万歳!
たとえば、溶岩の流れる谷の前でベースが立ち往生してしまったので、巨大なブリッジを架ける必要が出てくる。つまりブリッジアンカーを此岸と彼岸に着けなければならないのだが、そのためにはまず谷を迂回せねばならない。となったら、アップダウンの激しい谷を行き来できるフックが必要だ。それを作るためにまず採掘地点を確保しなければ……といった具合に、合理的かつ科学的に道筋を立て、大目標を攻略していくのだ。

ゲームプレイとは打って変わって、裏で流れるダイアログ形式のストーリーはサスペンス風味だ。会社がラピディウムに固執する理由は? ヤンは元妻レナとの関係を修復できるのか? いや、そもそも複製人間たちは地上に帰れたとして、温かく迎えてもらえるのか? など、同時並行的にミステリーが進み、プレイヤーの興味を離さない。随所に挟まるアルベール・カミュなどの古典文学の引用もバッチリ効いている。
また、これまでの11 bit studiosの作品と違い、ゲーム進行に明確な区切りがついたのも良い点だ。まずそもそも7時に起きて23時に寝るというサイクルは大抵遵守することになるし、一日の初めにしかセーブできないため、何度もロードしてリセマラや先読みをしたほうが得であるということにもならない。

ストーリーの山場を超すと新しいACTに進み、周囲のバイオームが変わってまたイチから探索のやり直しになるため、作業感も払拭される。どこまでもユーザーフレンドリーな設計だ。しかも、新しいバイオームに用意されているギミックやアノマリーがどれもこれも面白く、見とれるほど美しいのだからたまらない。
探索も基地設計もUIやUXは非常にわかりやすく、シンプルだ。この手のシミュレーションゲームはすぐにポップアップだらけにあって画面が見づらくなるものだが、すっきりとしたSFらしいフォルムのUIはどこを見ればいいかがすぐにわかり、おまけにコントローラー操作にもちゃんと対応している。UIやゲーム進行が良くできているおかげで、ヘビーなゲームシステムやストーリーなのに、気軽にプレイできるのも素敵だ。

問題があるとすれば、ヤンが増えてきたときに彼らがどこにいるのかがすぐにわからなくなる点だ。あえてベース内を走らせるのはつまらないわけではないが、呼びつけるくらいのことはできてもいいのではないか? と思った。
日本語翻訳はたまに抜けや表記揺れはあるものの、ほとんど問題もなく楽しむことができる。ヤン同士のしょうもない喧嘩から、量子力学や物理学の難しい用語まで、かなり気を遣って訳されているので、ぜひともじっくり読んでほしい(ゲームを落とすと字幕サイズが元に戻ってしまうバグは直してほしいが)。

『デス・ストランディング』的な探索要素に、11 bit studiosが培ってきた基地建設シミュレーターを混ぜたものと言えばそれまでだが、細部までこだわり、プレイヤーに「もう一日だけ!」と遊ばせてしまう工夫を随所に凝らした傑作だった。コミュニティ形成と宇宙開拓の難しさを同時に体験させられる、てんてこ舞い系SFシミュレーター『The Alters』をぜひとも遊んでみてほしい。

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