これが“ARグラスの現在地”。6DoF対応の小型カメラ『XREAL Eye』で広がる世界と課題

XREAL Eye、未来は感じる小型カメラ

 日本人の眼鏡着用率はおよそ6〜7割程度とされている。コンタクトレンズが安価かつ手軽に入手できるようになってから久しいが、メガネトップ(眼鏡市場の運営企業)や、JINSホールディングといった大手企業は順調に売上を伸ばしている。眼鏡の需要と人気は良くも悪くも順調に増えているようだ。

 となれば、ARグラスへの期待も高まるというもの。中でも、XREAL社が販売するARグラス『XREAL One』は、ディスプレイとしての使用感、ウェアラブルデバイスとしてのデザインや、大きさ、軽さ、どれをとっても高い完成度を誇るデバイスだ。

 そんなXREAL Oneシリーズ用の小型カメラとして『XREAL Eye』という製品が発表された。

ARグラスに装着できる小型カメラ

 『XREAL Eye』は『XREAL One』のブリッジ(左右のリムをつなぐ)部分に装着して使う小型のカメラだ。できることは主に3種類で、「静止画、動画の撮影」「デバイスの6DoF(シックスドフ)対応」「BEAM Proを組み合わせたミックスリアリティの撮影」だ。

 3つめの「ミックスリアリティの撮影」については、XREAL社のスマートフォン『XREAL Beam Pro』と接続して利用できる。今回は『XREAL One』に『XREAL Eye』を装着した最小構成によるレビューをしてみよう。

カメラはあくまで簡易記録向け

 『XREAL Eye』は1200万画素、f/2.25の小型レンズだ。指先に収まる大きさ、重さ1.35gというサイズ感は単一のデバイスとしてあまりにも小さい。この重量なので装着感はゼロ、重心の変化も感じない。

 『XREAL One』のクイックボタンを1回押しで写真撮影、長押しで動画撮影と操作はシンプル。撮影中は『XREAL Eye』のLEDが発光し、シャッター音を消すこともできないため、撮影していることを周囲に知らせることができる。

 まずは写真撮影。写真は2016×1512、JPEG形式で『XREAL One』の内部ストレージ(2GB)に保存される。画角は思ったよりも広く、体感として15mm程度だろうか。解像度は1200万画素。ソニーのデジタル一眼レフカメラの隠れた名機として知られるα7sと同程度だが、センサーサイズが小さいせいか写りは一昔前のスマホという感じ。なおセンサーサイズは非公表となっている。当然細かい部分の解像感も荒く、暗所にも弱い。広角を手軽に撮影できる簡易記録用のカメラ、という印象だ。

「XREAL Eye」で撮影した写真。自然光だとそれなりにきれいに写る(散らかった部屋の写真で申し訳ない)。
『XREAL Eye』で撮影した写真。自然光なしの照明のみ。結構歪んでいるのがわかる。

使い所が難しい動画撮影機能

『XREAL Eye』、使い所が難しい動画撮影機能

 続いて動画機能。フレームレートは30FPSと60FPS、録画時間は10秒/30秒/60秒から選べる。

 録画時間が最長でも60秒と撮影してみると意外と短く、使い時が難しい。さらに撮影にはクイックボタンの押下が必要となるので、録画時間の短さと相まってハンズフリー感はあまりない。ただし今後、音声入力等での撮影が可能となった際には使い勝手が大きく改善しそうだ。

 またGoProのように水平ロック機能を搭載していないため、傾き補正なども行われず画角の調整が難しい。「見たままを録画できる」といえばそうなのだが“見たまま”の動画がどれほど求められているのか、あるいは必要とされているのかは疑問だ。

 現段階ではARグラスで写真、動画の撮影ができる利点はほとんどないように感じた。鼻と両耳で支えるデバイスの特性上、できる限り本体重量は軽く抑えたい。となるとスマホのようにセンサーサイズやレンズの口径を上げていくのはあまりいいとも思えないため、イメージセンサーや処理プロセッサの進化に期待したい。

VRデバイス顔負けの6DoF対応

 『XREAL Eye』のもう一つの目玉機能が『XREAL One』の6DoF対応化だ。DoF(Degree of Freedom)とはARやVR領域でよく使われる仮想空間内での動きの自由度を表す用語だ。

 『XREAL One』単体では3DoF、上下左右への傾きと左右の回転という3パターンの動きを感知できた。ここに『XREAL Eye』を装着することで、前後左右上下への移動も感知し、仮想空間内において6パターンの動き=6DoFへ対応となる。

 特にVRデバイスで多く採用されている機能だが、これほどまでに小型・軽量のARグラスで6DoFに対応できるのは驚きだ。

 しかし活用の幅はあまり広くない。現在の『XREAL One』の機能は、空間に大型ディスプレイを表示して接続したデバイスの画面を映すというシンプルなもの。したがって6DoFに対応したところで、空間に表示したディスプレイに近づく、ディスプレイの角度を変えて見る、裏から見る、といったことができるだけだ。

 最後に「XREAL BEAM Proを利用したミックスリアリティの撮影」についても簡単に触れておこう。XREAL社が販売するスマートフォン、『XREAL BEAM Pro』と組み合わせることで、『XREAL One』のディスプレイに映っているARレイヤーと、目の前に広がる現実映像をリアルタイムで合成→録画することができるというものだ。

コンテンツやUIの進化も必要

 非常に試験的なデバイスであると感じた。特に6DoF対応は、低コストでARグラスを高機能VRゴーグルに近づけることに成功している点は見逃せない。

 筆者は『XREAL One』を非常に優れたコンテンツ閲覧用のデバイスと捉えた。外部の情報を遮断し、大画面・高画質でコンテンツを楽しめる。YouTubeや各種動画配信サービス全盛の今、これほど重宝するデバイスはないかもしれない、とすら思った。

 しかし従来のコンテンツ視聴において、ディスプレイへ近づく、角度をつける、といった6DoFで可能となる動きははっきり言って無意味だろう(テレビやPCのモニターに顔を近づけたり離したり、斜めから見るのが好きな物好きには嬉しいかもしれないが)。

 いま、XREALが打ち出したいのは、『XREAL BEAM Pro』との組み合わせによって実現する、“ライトな空間コンピューティング”だろうか。しかし「ミックスリアリティの撮影」がそれほど魅力的な機能かと聞かれると、難しいところ。デバイスとしての真価を発揮するのはもう少し先になりそうだ。

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