「アドビ」を“丸ごと”体験するクリエイターの祭典『Adobe MAX Japan 2025』現地レポート

アドビによる“クリエイターのための祭典”『Adobe MAX Japan 2025』が2月13日、東京ビッグサイトで開催された。アドビ製品やそのユーザーであるクリエイター、企業を中心に、アドビ文化圏/経済圏ともいえるコミュニティのメンバーが一同に介した。
会場は、キーノートを始めとするトークセッションを行う東8ホールのエリアと、ブース出展や、トークセッションが開催される東7ホールとに分かれる。基本的にはブースやトークセッションを回遊しながら、ここぞというタイミングで東8ホールに行く、というような回りかたになる。会場は基本的にどの時間帯でも人の波が絶えなかったのが印象的だった。
過去最多、70以上のトークセッション
今年の『Adobe MAX』は、トークセッションに力を入れていた。1日を通して開催されたセッションの数はなんと70以上と、過去最多。5箇所に設置されたステージと8つのルーム、合計13会場で「デザイン」「ビデオ」「写真」「UI/UX」「3D」「その他」の全7ジャンルでトークセッションが展開された。

ブックデザイナーの祖父江真氏、映像監督の林響太朗氏、アートディレクターの田渕将吾氏、オーディオビジュアルユニットFLIGHTGRAFの冨吉剣人氏を始め、各界で活躍する気鋭のクリエイターたちが多数登壇し、アドビのソフトウェアとクリエイティビティにまつわるトピックを中心に、フォント、ブランディング、収益化、生成AI、コマ撮り、縦型動画、業務効率化……といった、あらゆるトピックについて語り尽くす1日となった。
「アドビ」を感じる会場づくり
会場内にはイベントを盛り上げるブースが並ぶ。
中央には『Adobe Illustrator』ユーザーにおなじみの「ボッティチェリのヴィーナス」を連想させる石膏像が鎮座。昨年、完全無料化を果たしたアドビのお絵かきアプリ『Adobe Fresco』を使ってデッサンにチャレンジできるエリアだ。
その裏には「まっくす絵馬」エリアが。訪れた参加者はクリエイターならではの願いを絵馬に綴る姿が見られた。
『Adobe Photoshop』は2025年の2月19日でなんと35周年を迎え、それを記念する特設ブースが設置されていた。ユーザーにはおなじみの“白とグレーのチェック”……もとい透過背景を模したブースで記念撮影ができたり、思い出を記した付箋を貼り付けるパネルも用意された。
会場内でひときわ盛り上がりを見せていたのが、テンプレートを使って誰でも簡単にデザインができる『Adobe Express』を使ったブース「アドビ工房 powerd by Adobe Express」だ。自身のスマートフォンやタブレットから「Adobe Express」を使ってグラフィックを作ると、その場でトートバッグや、ポスターとして印刷ができるというもの。まさにクリエイターの祭典ならではのお土産、といったところだ。
クリエイティブツールはどこへ向かうのか?
動画配信者を中心に人気を集めるショートカットデバイス「Stream Deck」シリーズを展開するElgato(エルガト)のブースでは、「Stream Deck」をクリエイターの作業ツールとして展示。登録したアプリケーションなどにワンボタンでアクセスできるだけでなく、様々なショートカットキーなどを各ボタンに登録できる機能を活かし、アドビ製品での左手ツール的な使い方が紹介されていた。
「Stream Deck」用は『Photoshop』『Premiere Pro』などの専用プラグインをインストールすることで、様々な機能、ショートカットにワンボタンでアクセスできる。細かい数値の調整などもノブを使えば直感的に操作できるのは魅力的だ。
しかし、担当者に話を聞いてみるとElgatoは作業を効率化するための、完全な左手ツールを目指すわけではないという。たとえば非アクティブウインドウで行う、作業用のBGMや動画の再生/停止/スキップの操作など、あくまで「Stream Deck」が得意とする、ウインドウ間を結ぶ機能をベースに、PCの操作効率全体を底上げするようなイメージだということだ。
見た目のインパクトにつられて訪れたのがPCメーカー・HPのブースだ。テーブルの上に鎮座する不思議な黒い物体は、HPとアドビが共同開発し、アドビが提供する3Dコンテンツ制作ツールエコシステムである『Adobe substance 3D』と連携して衣装できるデジタルマテリアルキャプチャシステム『HP Z Captis』だ。
『HP Z Captis』は、本体の底部を引き出すと、布や紙などをセットできるようになっている。中にセットしたものの質感をスキャンできる機器で、ここで読み取ったテクスチャをそのまま3DCGのマテリアル(=3DCG制作におけるオブジェクトの質感などを再現するためのデータアセット)として使用できるというわけだ。ちなみに底部のパネルは取り外すことができ、本体をスキャンしたいものの上にかぶせることで、立体的なものにも使用することもできる。
昨今はプロアマ問わず、様々な場面で3DCGを用いたクリエイティブが増加傾向にある。マテリアルはそんな3DCGを支える大事な要素の一つだ。こちらの『HP Z Captis』は業務用利用を前提に開発されたものだということで、たとえばアパレルブランドなどでの活用が進めば、オンライン上で洋服の質感を細かくチェック、なんてこともできそうだ。
会場全体に漂う、“独特な一体感”の正体
ほかにも紹介しきれないほどに様々なブースが設けられていたが、なにより印象に残ったのは会場全体に漂う“独特な一体感”だ。アドビ、あるいは参加企業にとってみれば、大切なお客さまを囲い込むための場であることに違いないだろう。しかし参加者にとっては、情報収集の場である以上になにかムードを共有するような場になっていると感じた。
それは創作の喜びを知る者同士のポジティブな共感だけでなく、「同じ苦労」を知る者同士だけが分かち合える痛みや苦しみを含めた一体感だ。“クリエイター”と言えどその多くは制作会社や事務所勤務であったり、クライアントワークに追われる個人事業主だったりする。あるいは、別の仕事をしながら捻出した時間で創作に打ち込む者もいるだろう。
つまり、自分の創作のためにすべての時間やコストを注ぎ込める人などほんの一握りもおらず、仕事であれ趣味であれ、様々な苦労の上に成立する「クリエイティブ」なのだ。『Adobe MAX Japan』はそんなクリエイターたちを肯定してくれる場所であるように思えたし、この空気を醸成できたのは、長年にわたって根気強くコミュニティ作りに取り組んできたからだろう。
また本イベントのチケット価格は学生向けが3,000円と良心的な価格設定となっていることも合わせて紹介したい。“クリエイターのための祭典”ということは、“クリエイターを目指す者にとっての祭典”でもある。ぜひ、次回開催時には積極的に参加し、いい刺激を持って帰ってもらいたい。
超実用的ツール勢揃い! アドビの最新開発事例紹介『Adobe MAX 2025』Sneaks発表まとめ
アドビによるクリエイターの祭典『Adobe MAX Japan 2025』が2月13日に開催された。本稿では2025年のSnea…