思い出は生成する時代に? 「Sora Selects:Tokyo」から考える、“人の記憶と生成AIの共通点”

人の記憶と生成AIに共通すること

 OpenAIは、動画生成AIモデル「Sora」を使ったショートフィルム作品を公開する日本向けのイベント『Sora Selects:Tokyo』を、3月27日に渋谷・シネクイントにて開催した。

 「Sora」はChatGPTなどを提供するOpenAIが開発するText-to-video方式の動画生成AIモデル。2024年12月から、同社の有料プランであるChatGPT Plus及びChatGPT Proにて使用できるようになった。プロンプトや画像、動画を使って、最大20秒、1080p(Plusでは最大5秒720p、または最大10秒480p)の動画や、静止画を生成できる。

 OpenAIはサービス提供以前の約1年前から世界で450人ほどのクリエイターを対象に、実際にSoraを利用してもらいフィードバックを得ることで開発を進めたという。日本からも映像作家、イラストレーター、絵本作家、彫刻家、3DCGアーティストなど幅広いジャンルのクリエイターがプログラムに参加した。

参加クリエイターの面々

 本上映会では、参加クリエイターの中から日本人3名を含む計10名がSoraを使って制作した映像作品の上映を行った。日本からはアーティストの草野絵美氏、たかくらかずき氏、映像作家の架空飴(Kaku Drop)氏が名を連ねた(草野氏は作品上映のみ)。

実現しえなかったイメージの映像化

架空飴『Echoes of Grace』より

 架空飴氏は、これまで自身のNFTアートのスタイルとしても制作を続けてきた「フォトリアルな女性」と日本的な要素を組み合わせた『Echoes of Grace』を制作した。超自然的な力を操り、躍動する女性をダイナミックなカメラワークで映したような映像作品だ。物語性はなく、モチーフや演出を見せるような作品になっている。

Echoes of Grace (Full version) Open AI Sora

 写真家のMathieu Bernard-Reymond氏の『monuments』は、風景と巨大な建築物、そして鳥が登場する風景映像に、クラシックなアナログシンセサイザーの音色が重なる作品を作り上げた。要素としては非常に簡潔だが、Mathieu氏が標榜する「“Missing Image”=写真を撮影した際に不可避的に欠けるもの」を感じさせる、映像詩的な奥深さがある。

 

 Ethereal Gwirl氏とLeMoon氏の2人のAIアーティストによるユニット・Ethereal Moonも、2人の作風を踏襲する作品『Welcome to the Unknown』を上映した。気の抜けたカントリーミュージックに合わせて、キュートホラーテイストの大きな瞳の人形や『The Backrooms』を思わせるリミナルスペース的な、不気味なモチーフが散りばめられた映像が続く。

 アーティストのたかくらかずき氏は、10組の中で最も長い8分の作品を制作した。「夢」「眠り」「映画」といったキーワードを散りばめた、たかくら氏本人による“AI目線”の語りを主軸に、言葉に呼応するように映像が移ろう。語りと映像を通じて思索を深めていく時間は、まるでAIとの対話のようにも感じられた。

DeepDream

 Junie Lau氏の「LOVE FROM VOID」は、ある意味で最も難解だと感じた。同作のテーマは「時空を超えて愛を求め続ける仮想の恋人同士」というものだが、ストレートにそれを読み取るのは難しい。カオティックな東京(というよりも、“TOKYO”が近いだろうか)を舞台に、目まぐるしく変わり続けるカットの数々。この“物量”も生成AIならではだろう。

LOVE FROM VOID | OpenAI Sora #SoraShowcase

 いずれもイメージをダイレクトに具現化できる生成AIだからこそといった作品群であり、動画生成AIの使い方としては、ある意味で最もベーシックであると感じた。たとえば自身の考えたキャラクターのイラストを描くように、好きなイメージやキャラクターをショートクリップ化してSNSでシェアする、といった動きは増えるかもしれない。

生成AIが変えていく“音楽アーティスト活動”

Tammy Lovin「Show Me Your Soul」より

 アーティストの草野絵美氏は、1980年代のテレビスターを目指す高校生の少女のストーリーを描いた『Moment in Slow Motion』を制作。同作はアイドルを夢見る少女が大人になるまでの成長を自身のジャパニーズ歌謡エレクトロユニット・Satelite Youngの同名の楽曲に乗せて描いた。“AIならではの表現”を追求するよりも、よりツール的に活用した、という印象だ。

 
 
 
 
 
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 カナダのインディーポップバンドであり、映像コレクティブのShy Kidsは、2匹の猿によるラブストーリーを描いた。草野氏と同様、自らの楽曲である「My Love」をインスピレーションの根幹に作り上げていったという。終盤に登場する猿のぬいぐるみは意図せず生成されたものであり、「予期していなかったカットが物語を動かしていくきっかけにもなる」とメンバーは語った。

my love

 XR、3DCG、VFXなど幅広い分野で活躍するデジタルアーティスト・Tammy Lovinによる『Show Me Your Soul』は、使用された楽曲の歌詞に導かれるように映像が移り変わるミュージックビデオテイストの作品だ。映像の終わりで冒頭と全く同じカットへループする手法は、AIだからこそ再現しやすかったのではないだろうか。

Tammy Lovin · Sora Showcase

 このように、草野絵美氏、Shy Kids、Tammy Lovin氏の3組はいずれも音楽を主軸に映像を生成、制作した。草野絵美氏のSatelite YoungやShy Kidsを含め、これまでにもミュージックビデオを自主制作するバンドやアーティストは多くいた。しかし動画生成AIの普及によって、“アーティスト(あるいはバンド)は映像制作まで行うもの”といった、そのありよう自体が変わっていく可能性を感じた。

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