なみぐる×南ノ南が語り合う「ボーカロイドと海外シーン」 北京での公演を終えたふたりが思う“これからの戦い方”とは

なみぐる×南ノ南が語る、ボカロと海外シーン

「ずんだもん&重音テトは国境を超えて愛される懐の深いキャラクター」(南ノ南)

──直近ではJ-POPの世界進出のみならず、ボカロシーンに関してもアジア圏でのイベント開催やbilibili動画での楽曲バズが注目を集めています。そんななか、お二人は海外・アジア圏のリスナーに向けて、発信やPRなど何か取り組まれていることはありますか。

南ノ南:最近だとYouTube投稿に英語翻訳をつけたり、力を入れている方は中国語・韓国語翻訳もつけていますよね。僕自身も、今まさにその点を頑張らないとな、と思っている所でして。少し前に、bilibili動画で転載された自分の曲が1000万再生されたこともあったらしいんですよ。そんな話を聞くと、やっぱり自分が正式に投稿した方がいいなと思ったので、今はbilibili動画でも公式アカウントを設置しています。

──南ノ南さんの曲に関しては、日本語表現ならではの面白さを翻訳を通じて海外の方に伝える難しさもありそうです。

南ノ南:その点は、ちゃんと翻訳できる方に正式に依頼して、楽曲の面白さのニュアンスをきちんと伝えるのもアリだと最近は思ってますね。自分の曲は“トンチキ”がひとつのテーマとしてあるので、翻訳を通して海外の人にもユーモアやストレンジさをちゃんと感じてもらいたくて。現状、ニュアンスとしてはありがたいことに海外でもちゃんと通じているみたいです。ボカロ的なシュールさのツボは、思っているよりも世界共通で伝わるものなのかもしれません。

なみぐる:僕も去年6月頃から、bilibili動画をしっかり運用していますね。元々先輩アーティストからも、「bilibili動画、やらないの? 早く始めないと無断転載されちゃうよ」って助言頂いてて。ちょうどその頃、縁あってbilibili動画でのアカウント開設についての簡易マニュアルを知人からもらったので、それを見よう見まねで開設したのが始まりでした。

 でも、やっていくうちに「ココはこうした方がいいかも」みたいな運用改善方法も自分で発見したり、あとは中国のユーザーさんがチャットとかで「こうした方がいいよ」みたいな手厚いアドバイスをくれることがあって。そんな風に自分の中に溜まったノウハウも何かしらでまとめた方がいいな、とも思い始めたので、少し前から自分のブログに“bilibili動画事始めマニュアル”として、知識やアドバイスをまとめたりもしています。

(※参考『【中国進出】なみぐる式Bilibili動画 事始めマニュアル』)

──リスナーへの発信のみならず、作り手側にもノウハウの横展開をされているんですね。

なみぐる:あとは時々中国の方に「この動画をこういう形でbilibili動画に転載したい」という問合せを頂くので、それに許諾を出す代わりに楽曲の中国語字幕を付けてもらって、それをYouTubeにも逆輸入したりとか。英語に関しては一番最初にYouTubeの動画へ字幕をつけましたし、あと海外遠征時はYouTubeの投稿機能を活用して、英語や韓国語での発信も時々やっていますね。字幕設定も、本当は自分の曲全部にやりたいんですけど、如何せん数が多くて。再生数の多い人気曲から優先順位をつけて、今順次対応しているところです。

──お二人とも共通して、YouTubeの字幕とbilibili動画の活用が挙がりましたね。実際ボカロPさんの間でも、やはり最近はbilibili動画を使い始める方は増えてるんですか?

南ノ南:どうだろう、まちまちかもしれません。

なみぐる:ここ最近は増えてきた印象はあるかもですね。面倒な人はやってない、って感じですけど。

──少し前はTikTokに公式アカウントを持つか否か、という選択肢の拡大がボカロPさんにはありましたが、今はbilibili動画に関してそれが広まりつつある印象です。お二人の見解としてはいかがでしょう。

なみぐる:やっぱりbilibili動画の公式アカウントは作っておいた方がいいと思いますね。南ノ南さんのように無断転載されているパターンもありますし、場合によっては偽物のアカウントが出てきてしまう可能性もありますから。

南ノ南:とはいえ、今いろんな発信手段やSNSがあるなかで、すべてキッチリ運用するのはかなり大変ですよね。僕の場合、TikTokもアカウントは持ってますけど、代表曲を数曲アップしただけの状態です。そんな形で、マメな更新はできなくとも、無断転載や成り済ましの防止策として各所に公式アカウントを設置するだけでも全然違うと思います。

──ありがとうございます。重ねて各動画サイトでは、日本のリスナーとは違う海外リスナー独特の反応や流行もやはりあるんでしょうか。

南ノ南:僕は今ニコニコ動画、YouTube、bilibili動画に楽曲を投稿してますが、リスナーさんからの「この人また狂った曲出してる、でもそれがいい、ありがとう」みたいなコメントは共通してる一方で、曲の再生数や伸び方には若干違いがありますね。たとえばbilibili動画では、やっぱり一番ウケてるのは「星界ちゃんと可不ちゃんのおつかい合騒曲」なんですが、「ヒマン=ヒダイ焦燥曲」や歌い手さんに歌っていただいた動画など、YouTubeより再生数が多いものもあって。その辺の伸び方の違いを興味深く見ています。「こっちではこれの方が伸びるのか~」って実験結果を見るような感覚というか。

なみぐる:bilibili動画のリスナーさんは、総じて熱量が高い印象がありますね。あと、これはサイトの仕様によるものなんですが、bilibili動画はユーザー同士の交流もすごく盛んなんですよ。bilibili動画はサイト内にXのようなタイムライン表示機能が埋め込まれていて、そこに投稿される内容にいいねやコメントで自由に反応できるんです。

──YouTubeの各チャンネルにも近しい投稿機能はありますが、あちらは現状投稿者の一方的な情報発信にのみ使われているような印象があります。それに比べて、かなりユーザー同士の相互コミュニケーションが動画サイト内で盛んなんですね。

なみぐる:そうですね。動画投稿の情報発信もしますし、Xみたいに日常投稿をするとそれに日本語でコメントして下さる方がいたり、Discordみたいにオリジナルでずんだもんのスタンプを作って反応して下さる方もいて。これはお国柄なのか、ユーザーも皆さんアクティブな方が多いんです。なのですごく積極的に情報をリサーチして、コメントや反応を下さる方がたくさんいる印象ですね。

──VOCALOIDのキャラクター性に対する支持傾向としてはいかがでしょう。先ほど中華圏全体としては、「初音ミク熱が高そう」というお話もありましたが。

南ノ南:現地のショップや雑貨屋さんにはミクを中心に、クリプトン組のグッズも並んでいましたね。

なみぐる:ネット上だとずんだもんの性別弄りやテトさんの年齢弄りとか、あとは結構ディープな中国語の「歌わせてみた」なんかもbilibili動画には持ち込まれているんですよ。この二人は特にネットカルチャーとの親和性が高いせいか、二次創作動画もすごく豊富にありますし。もしかしたらニコニコ動画以上に、UTAUやカバー曲投稿の文化は色濃いかもしれません。

──国境や言語、それこそ文化の壁を超えて同じ価値観やキャラクター性が共有されているんですね。

南ノ南:二人は特に懐の深いキャラクターというか、本当に幅広くいろんな受け入れられ方が許されるキャラというか。その一面が日本以外の国でも、遺憾なく発揮されている気がします。

なみぐる:そういえば中国のイベント時に、熱量の高いファンの方から「あなたは世界の終わりにずんだを食べるのだ」のファンメイドグッズを頂いたんですよ。かなり手の込んだレンチキュラーカードなんですけど、これも結構うれしかったですね。国内の音楽イベントでもたまに頂くことはありますが、どちらかというと即売会の差し入れ等で頂く方が多くて。

──音楽ジャンルによってはアーティストのライブ時に、自作のファンメイドグッズをファン同士で交換する文化も国内外でありますよね。K-POPシーンの“ソンムル”とか。ボカロカルチャーには従来から即売会という場がありましたが、そういった音楽現場でのファンメイドグッズ交換や自作グッズの制作も、ある意味二次創作に寛大なボカロカルチャーとは相性のいい文化というか。今後そういった事象も、音楽イベントの拡大に合わせて増えるかもしれませんね。

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