名作『カービィのエアライド』新作はなぜ待ち望まれていたのか 22年ぶりの“再始動”を機に振り返る

任天堂は4月2日、Youtubeにて「Nintendo Direct: Nintendo Switch 2」を約1時間にわたって配信した。同番組では6月5日に発売が予定されている次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」(Switch 2)の全貌が明らかとなったほか、ハードと同日発売となるローンチタイトルを含め、開発が進められているSwitch 2用作品の情報が公開された。
Switch 2の新たなゲームプレイや新規タイトルの開発状況など、Nintendo Direct: Nintendo Switch 2では、世界中の任天堂ファンを引き付けるさまざまなニュースが飛び込んできた。そのなかでも一際ネット上を騒がせたのは、特に前触れもなく電撃的に発表された『カービィのエアライダー』(エアライダー)ではないだろうか。
同作品のトレーラーは1分30秒ほどの短い映像ながらも、任天堂の人気キャラクター「カービィ」が移動手段として用いるワープスターの背部に推進機が見えた瞬間、カービィファンのみならず大勢のユーザーが歓喜に湧いた。しかし、なぜここまで『エアライダー』は待望されているのだろうか。そもそも、『エアライダー』が耳目を集めるきっかけとなった前作『カービィのエアライド』(エアライド)はどのようなゲームだったのか。本稿ではこの点に着目しながら振り返ってみたい。
レースゲームを再定義した『カービィのエアライド』
『エアライド』は2003年7月11日、任天堂の家庭用ゲーム機「ゲームキューブ」用ソフトとして世に送り出された。当時の時点で「カービィ」シリーズは誕生から既に11年が経過しており、得意分野のアクションを筆頭に『カービィボウル』や『カービィのきらきらきっず』、そして”動きセンサー”を搭載したゲームボーイカラー用ソフト『コロコロカービィ』等々、バラエティ豊かな作品群でその地位を盤石たるものにしていた。

そうした状況下で発売されたのが『エアライド』である。本作は従来作品のように、敵キャラを倒しながらステージ最奥のゴール地点へ向かうアクションゲームではない。カービィが走行能力を有した乗り物(エアライドマシン)に乗り込み、他者と競いながらゴールインを目指す“アクションレースゲーム”だ。
任天堂製の数あるレースゲームのうち、大勢のユーザーが想像するところと言えば、生誕から30年以上経ってもなお最新作が作られ続ける「マリオカート」シリーズではないだろうか。同シリーズはレースゲームの基本的なフォーマットを踏襲しつつ、豊富なアイテムによる逆転要素をはじめ、シビアに順位を競い合うと言うよりも、カジュアルに楽しめるパーティーゲームといった側面を持ち合わせている。『エアライド』もこの点に従ってはいるものの、プレイヤーが何もせずとも「自動でマシンが進み続ける」という点が「マリオカート」と大きく異なる。
『エアライド』においてプレイヤーが使うのは、Aボタンとアナログスティックのみ。走行中にAボタンを押すとマシンがチャージ状態となり、Aボタンから指を離すとチャージ状態が解除。溜め込んだパワーを解き放ち、一気にマシンを加速させることができる。また、スティックを左右に弾くとマシンを回転させ、走行中における攻防の手段として機能する。もちろん「カービィ」シリーズ伝来のコピー能力も実装されており、接近した敵を斬りつける「ソード」、吹雪が命中した敵を凍らせる「フリーズ」など、簡易的なアクション要素として上手く取り入れられている。
このように「カービィ」シリーズ特有の世界観やシステムを継承しつつ、考え抜かれたゲームデザインによって『エアライド』はレースゲームの新たな可能性を見出すことに成功した。メインのゲームモードは、オーソドックスなレースが楽しめる「エアライド」をはじめ、俯瞰視点でマシンを操作する「ウエライド」、そして箱庭フィールドを駆け巡る「シティトライアル」の3種類。このうち、抜きん出てプレイヤーの関心を引き寄せたのは、育て上げたマシンでさまざまな競技に挑むシティトライアルだったと言っても過言ではないだろう。
プレイヤーごとにドラマが生まれる「シティトライアル」
筆者が初めて『エアライド』をプレイしたのは、2003年の秋ごろ。発売から少し遅れて本作を手に取り、シンプルながらも駆け引きが楽しいレースゲームにすぐに夢中になった。「クリアチェッカー」と呼ばれる実績システムの解除にハマったのはもちろん、学校から帰るとすぐさま友人宅に集まり、4人プレイに興じた思い出はいまでも脳裏に焼き付いている。しかし、『エアライド』をプレイした記憶の大部分はレースゲームではなく、ひたすらアイテム集めに明け暮れたシティトライアルだった(少なくとも自分の場合は)。
シティトライアルは最初、プレイヤーが全員「ライトスター」に乗った状態からスタートする。ライトスターはステータスが全体的に低く、そのままの状態ではレースや他の競技で満足に戦うことができない。そのため、プレイヤーは箱庭を奔走しながらパワーアップアイテムを拾ったり、ライトスターから他のマシンに乗り換えたりと、さまざまな手段でライバルを出し抜くためのプレイングが求められる。ゲームを進めているとプレイヤーにデメリットをもたらすアクシデントも発生するが、時にはそれらを味方につけて他のプレイヤーよりも有利に立たなければならない。
山林・火山・ビル群・謎の地下空間……等々、個性的な地形が一同に介するフィールドに降り立った後は、何をしてもいいし何もしなくても構わない。他のプレイヤーの動向を気にせずにアイテム集めに明け暮れても良いし、逆にアイテム集めはそっちのけで妨害行為に徹しても文句を言われることはない(システム面では)。個々人の腕前が問われるぶん、十人十色の遊び方を許容してくれるのがシティトライアルの最大の魅力だ。
当時の筆者は、3種類のパーツを集めたプレイヤーに与えられる伝説のマシン「ドラグーン」&「ハイドラ」よりも、初期能力が低いマシンやピーキーなマシンに乗り、パワーアップアイテムを積めるだけ積み、自分好みのマシンに仕上げることが何よりも好きだった。このようなプレイングは、昨今のバトロワ作品で例えると「ファーム」と呼ばれる行為に該当する。そう考えると、シティトライアルは約22年前の時点でバトルロイヤルの面白さをゲーム上で再現していたと言えるだろう。「探索」→「育成」→「対決」というフローに従い、プレイするたびに新しいドラマが生まれるシティトライアルは、筆者を含め『エアライド』のリアルタイム世代に大きなインパクトを与えたはずだ。
一種のネットミームと化していた『エアライド』がついに再始動
近年のビデオゲーム業界と言えば、過去に人気を誇った作品のリメイク化やリマスター化の話題が大々的に報じられることが多い。Steam等の販売プラットフォーム上で手軽に過去作品が遊べる土壌が整ったと見られるが、そうした状況においてもなお、『エアライド』は一向にリメイク/リマスターの声が上がることがなかった。

定期的に配信されるNintendo Directでも、一方的に膨れ上がるユーザーの期待に対して新作の音沙汰はまったくなし。「ついにエアライドの続編が発表されるのか?」「いや、やっぱり今回もなかった」という構図は毎回のごとくSNS上を賑わせ、「あんなに面白いのにまったく新情報が出ない伝説のゲーム」として、リアルタイム世代だけでなく未プレイ者も巻き込み、ある種インターネットミーム的に捉えられる場面も多々見られた。
そんななか、Switch 2の情報公開に合わせて明らかになったのが『エアライダー』である。どのようなゲーム性になるのか詳細は不明ながらも、「エアライドマシンにまたがったカービィ」の元気な姿は、ゲームキューブと共に青春時代を過ごしたリアルタイム世代を含め、国内外のカービィファンに絶大な衝撃を与えることになった。
約22年越しに動き出した『エアライド』の続編『カービィのエアライダー』は、2025年内に発売予定。かねてより復活を待望していたプレイヤーは、忘れずに今後の続報をチェックしよう。
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