“説明書を体験コンテンツ化”した『Nintendo Switch 2 のひみつ展』 「有料販売」に見る任天堂のスタンス

『ひみつ展』有料販売に見る任天堂のスタンス

 任天堂は4月2日、Nintendo Switch 2に関連する情報番組『Nintendo Direct: Nintendo Switch 2 - 2025.4.2』のなかで、『Nintendo Switch 2 のひみつ展』を発表した。

 「新ハードの仕組みを解説するために、独立した1本のタイトルを開発/発売する」という任天堂の珍しい取り組み。その概要から同社の思惑を推察する。

ゲーム機の仕組みを解説する『Nintendo Switch 2 のひみつ展』

Nintendo Direct: Nintendo Switch 2 - 2025.4.2

 『Nintendo Switch 2 のひみつ展』は、Nintendo Switchの後継機・Nintendo Switch 2に盛り込まれたさまざまな技術や工夫を、見たり、触ったり、感じたりできるデモンストレーションタイトルだ。プレイヤーはまるで博物館をめぐっているかのように、“Nintendo Switch 2のひみつ”の数々を、1本のゲームとして体験できる。

 『Nintendo Direct: Nintendo Switch 2 - 2025.4.2』内では、磁石でくっつくNintendo Switch 2本体とJoy-Con 2の構造に関する「磁石はどこに?」や、同コントローラーの振動機能を紐解く「振動のしくみ」、Joy-Con 2に新たに実装されるマウス機能を解説する「Joy-Con 2はマウスになる」、この機能を活用したミニゲーム「スピードゴルフ」など、複数のコンテンツが参考映像として紹介された。任天堂によると、Nintendo Switch 2には、同機ならではの特徴から、言われないと気づかないような細かな技術に至るまで、さまざまな“ひみつ”が盛り込まれているという。そうした同機の特徴をプレイを通じてより深く知れるタイトルが『Nintendo Switch 2 のひみつ展』だ。

 『Nintendo Switch 2 のひみつ展』は、Nintendo Switch 2のローンチと同日の6月5日発売予定。価格は990円(税込)となっている。

『Nintendo Switch 2 のひみつ展』の展開に見え隠れする任天堂の思惑とは

 ゲームカルチャーの歴史を振り返ってもあまり例のない、「新ハードの仕組みを解説するために、独立した1本のタイトルを開発/発売する」という取り組み。任天堂はどのような意図で、『Nintendo Switch 2 のひみつ展』をリリースするのだろうか。その裏には、新機に盛り込まれた技術や工夫に対する自信が見え隠れする。任天堂は同タイトルを通じて、一般的な遊ばれ方では伝わらない、Nintendo Switch 2の機能全般の情報を発信しようとしているのではないか。

 想定外の経過をたどることさえなければ、おそらく同機は、年齢や性別、国籍などにかかわらず、世界中のさまざまなフリークたちに購入されることになるだろう。しかしながら、その大部分がプレイするのは、訴求力の高い一部の人気タイトルであるはずだ。これらでは、せっかく盛り込まれたNintendo Switch 2の新機能が活用されないケースも想定される。わかりやすいゲーム性を備えたタイトルで必要とされる“極めて実用的な機能”以外の部分にも、さまざまなこだわりを詰め込んだからこそ、任天堂はそれらに焦点が当たるようなソフト――『Nintendo Switch 2 のひみつ展』の開発に至ったのかもしれない。

 他方、『Nintendo Switch 2 のひみつ展』に盛り込まれた遊び心は、「説明書/チュートリアルの体験コンテンツ化」と言い換えることもできる。昨今では、ユーザーの体験価値を重視する動きが各業界で広がっている。「コト消費」「トキ消費」といった言葉が注目されているのも、そうしたトレンドを象徴するものだ。ゲームカルチャーではこれまで、ハードやソフトの使い方に関する案内を、文字情報(説明書)やゲームプレイ(チュートリアル)を介してユーザーへと伝えてきたが、そうした伝統も変化の時を迎えつつあるのかもしれない。『Nintendo Switch 2 のひみつ展』が実践する「説明書/チュートリアルの体験コンテンツ化」は、その一端とも考えられるだろう。

 先にも述べたとおり、『Nintendo Switch 2 のひみつ展』では、まるで博物館をめぐっているかのように、Nintendo Switch 2の機能を体験できる。映像を観て、博覧会や科学館などにおける体験展示を連想した人もいたのではないか。界隈の動向に詳しい人ならば、すでに気づいているかもしれないが、同タイトルの根底にある「体験コンテンツ化」というコンセプトは、任天堂が2024年10月、京都府・宇治市に開業したゲーム博物館『ニンテンドーミュージアム』のそれと地続きのものである。「休眠もしくは活用されていない資産に手をくわえることで、それらに付加価値を与え、利益の最大化/ユーザー満足度の向上を図る」。こうした姿勢は、近年で顕著となりつつある任天堂のスタンスそのものであると言えるのではないか。

ニンテンドーミュージアム Direct

 その反面で、『Nintendo Switch 2 のひみつ展』が有料で展開されることには、疑問の声も上がっている。なかには、競合であるソニー・インタラクティブエンタテインメントの現行機・PlayStation 5にプリインストールされた『ASTRO's PLAYROOM』を引き合いに出し、語気を強めている人もいる現状だ。同作は、主人公のアストロを操作し、さまざまなステージのクリアを目指していくアクションアドベンチャーで、「PlayStation 5の専用コントローラー・DualSenseのデモンストレーションタイトル」という側面を持つ。特に後者が『Nintendo Switch 2 のひみつ展』との共通点となっていることから、比較対象にあげられている実態がある。

 同様のコンセプトを持ちながら、『ASTRO's PLAYROOM』が無料のプリインストールタイトルとして、『Nintendo Switch 2 のひみつ展』が別途販売の外部タイトルとして展開されることは、確かに不均衡であると言える。もしかすると、ここには「利益が薄い」と言われるハード販売特有の構造も影響している可能性がある。

『ASTRO's PLAYROOM』ゲームプレイトレーラー

 とはいえ、税込990円という価格が適正かについては、タイトルそのものをプレイしてみないと判断できない面もある。有料販売であることは、潤沢なコンテンツ量とそれに対する任天堂の自信の裏付けともとらえられるのではないか。

 また、Nintendo Switch 2のローンチから当面のあいだは、専用ソフトが数多くリリースされないことなどを鑑みての判断という可能性もあるだろう。しばらくは普及に力を尽くす時期と割り切り、広報的な役割と利益の補填を『Nintendo Switch 2 のひみつ展』に託した面もあるのかもしれない。

 はたして『Nintendo Switch 2 のひみつ展』は、看板タイトルのひとつとしての役割をまっとうできるだろうか。めぐるユーザーの反応が、ローンチ直後のNintendo Switch 2の求心力をうらなう指標となっていきそうだ。

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