ドラムシンバルの老舗ブランド・Zildjianが開発 ANCヘッドホン『ALCHEM-E Perfect Tune Headphones』レビュー

昨年12月末、ヤマハミュージックジャパンはシンバルメーカー・Zildjian(ジルジャン)が開発したワイヤレスヘッドホンを発売した。Zildjianはオスマン帝国にルーツをもつ創業400年の老舗シンバルメーカーであり、今ではドラムスティックや電子ドラムの開発も手掛ける。
今回レビューする『ALCHEM-E Perfect Tune Headphones』は同社が初めて手掛けるヘッドホン製品で、製品名には同社製電子ドラムのブランド「ALCHEM-E」の名を冠している。
装着してみると側圧は割と強めで、ゆったりとリラックスするような着用感とは逆の、両耳がガッチリとホールドされるタイプ。公式WEBサイトを見ると装着しながらランニングをしていたり、ドラマーが演奏中に装着していたりといった写真もあり、こうした用途を想定している装着感だとすればうなずける。ランニングには少し重すぎる気もするが、ミュージシャンが激しいプレイをしても外れなさそうだ。
右耳側のハウジング部分にある電源ボタンをオン・オフすると、起動/終了音としてシンバルの音が鳴る。こういうところで細かなキャラ付けがされているのはうれしい。本体の側圧も相まってか、ノイズキャンセリングは強力に作用する。ノイズキャンセリングの度合いは2段階あり、「Half」と「Full」を切り替えられる仕組みだ。
「Full」だと外界の雑音は完全にシャットアウトされてしまうほど強力で、「Half」は装着していても会話ができる程度のレベルになる。これも本体のボタンを押すことで切り替えられるのだが、ノイズキャンセリングボタンを含めてすべてのボタンの反応が非常に良い。電源も長押しの必要はなく、押せば瞬時に反応する。
ハウジング部分の外面についた金色のノブは回転・押し込みができ、回転はボリュームを、押し込みは再生/一時停止を司っている。ボタンではなく回転式のボリュームはわかりやすくて便利だ。
音楽を再生して最初に感じたのは音場の広さで、ホールで音楽を聴いているような立体感がある。味付けはあまり派手ではないが、低音の存在感は比較的強い。ただしワイヤレスヘッドホンの中では比較的インピーダンスが高く、最大音量は低め。ノイズキャンセリングを勘案して音量は低く抑えているのかもしれない。
なお、本機はBluetoothでの接続と3.5mmステレオミニジャックによる有線接続いずれにも対応しているが、Bluetoothの対応コーデックがSBC・AACのみだったので、音の確認は主に有線でおこなった。
専用のアプリがあるのも本製品の特長だ。アプリにはサウンドテストの機能があり、これによってユーザーの耳の特性を測り最適な音質で音楽を再生できる。実際に試してみると耳鼻科の聴力検査で耳にするような各帯域のテスト音が流れ、自身の耳に最適化されたイコライジングが施された。この設定はヘッドホン本体に保存されるので、スマートフォン以外の音源を再生する際にも適用できる。設定はいつでもオン・オフできるので、好みに応じて使うとよい。
付属のケースはシリコン製で、裏面は布地。アクセサリーをまとめておけるポケットも付いており、いずれも作りは良い。ステレオプラグの変換アダプターが標準で付属していることも、音楽家の利用を想定している感じがする。
ちなみに重量を計ってみるとヘッドホン本体が約355g(公称値356.8g)、ケース込みで約710g。ケース・アクセサリーと本体の重さがほぼ同じで、結構重たい。
このように決して悪いヘッドホンではないのだが、気軽に勧めづらい理由が税込み約8万8000円という価格だ。大型ドライバー・高機能ノイズキャンセリング・パーソナライズされたEQなど、一つ一つの機能は手堅く作られているものの、国産の民生用ノイズキャンセリングヘッドホンだったらフラッグシップモデルを買っても本機より3万円〜5万円は安い。参考までに、発売元のヤマハが2023年に発売したワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン『YH-E700B』の現在の市場価格は2万円半ばから3万円程度だ。なので、それを見たあとで本機に約9万円を払うのは勇気がいる。かといってピュアオーディオのリスニングやモニター用途を意図して設計されたヘッドホンでもないため、なかなか難しい。
重くガッチリとしたヘッドホンなので、やはり冒頭に書いたように「ドラムを演奏しながら楽曲を聴く」といった用途に使うのが良いのかもしれない。Zildjianの公式SNSを見に行くと電子ドラムの演奏中に装着している動画も公開されていたので、激しい動きや大きな音に揺さぶられないノイズキャンセリングヘッドホンとしてはおすすめできそうだ。また、何よりアイコニックなデザインが特徴だと思うので、それに惹かれた方はぜひ。
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