アドビCEOが来日、クリエイティブへの責任とAIの可能性を語る 『Adobe MAX Japan 2025』基調講演レポート

2月13日、アドビが主催するクリエイターの祭典『Adobe MAX Japan 2025』が東京ビッグサイトの東7・8ホールで開催された。開会の挨拶と新製品・サービスの発表を兼ねた基調講演にはアドビのCEOであるシャンタヌ・ナラヤン氏も登場し、Adobe製品における数々の新たな機能がお披露目された。
始めに登壇したのはアドビ株式会社 代表取締役社長の中井陽子氏。中井氏によれば今年の『Adobe MAX Japan』は非常に盛況で、来場チケットが一ヶ月前に売り切れたという。そんな日本のユーザーの熱い思いに応え、可能性と未来について話してもらうとしてシャンタヌ・ナラヤン氏の登壇を告げた。ナラヤン氏の登壇も『Adobe MAX Japan』では初めてのことだ。
ナラヤン氏は登壇すると日本のユーザーに対し感謝を述べ、冒頭には日本語で挨拶をする一幕も。2024年にリリースした『Illustrator(v.29.0)』でテキストエンジンを刷新したことに触れ、アドビが日本市場の要望に応えながら、日本向けのカルチュアライズを行っていると語る。また、『Photoshop』に統合された『Adobe Firefly』の生成AI機能が、阿蘇くまもと空港「そらよかエリア」の開業時に展開されたビジュアルに活用されていることを紹介したほか、『Premiere Pro』のタイトル機能を強化したことも日本市場の要望によるものだと伝えた。(参考:https://www.kumamoto-airport.co.jp/terminal-building/)
続いてナラヤン氏は昨年を振り返り、2024年がクリエイティブ業界にとって大きな変革の年であったと述べた。AI技術の進化は急速に加速、すでに日常生活やビジネスのあらゆる領域に浸透し、学生からプロのクリエイター、マーケター、企業家まで、すべての人がAIを活用し始めておりその影響は計り知れない。
そのなかアドビはこれまでと同様、技術を通じてクリエイティブの自由を追求し、クリエイターを中心に据えたソリューションを提供し続ける方針だとし、『Adobe Firefly』の新たな機能として動画・音声の生成に対応することが発表された。これにより、あらゆるクリエイティブワークを一つのプラットフォームで実現できるようになった。アイデアの発想から制作までがスムーズに行えるだけでなく、『Adobe Creative Cloud』とのネイティブ統合により、作業の効率化が可能になる。
クリエイティブ業界におけるAIの進化は、単なる自動化ではなく、人間の創造性を補完・拡張するものだとアドビは考えている。Fireflyのようなツールを活用することで、デザイナーやクリエイターはより高度な表現が可能になり、制作プロセス全体のスピードと精度が向上するということだ。
一方で、AI技術の進化に伴い、知的財産の保護やデータプライバシーの問題も重要な課題として浮上している。アドビは、クリエイターの権利を守るために、「コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)」を推進し、コンテンツの来歴を明確にする技術を開発している。2019年からこの取り組みをリードしており、現在では4,000以上の企業・団体が参加する大規模なプロジェクトとなっている。この技術により、コンテンツの改変履歴を追跡し、不正利用や著作権侵害を防ぐことができる。さらに、生成AIによるコンテンツが正当な権利のもとで使用されるよう、業界全体でのルール作りにも貢献している。
アドビのビジョンは、デジタル体験をより個人に最適化し、クリエイティブの可能性を最大限に引き出すこと。AIは単なる自動化のツールではなく、人間の創造力を拡張するものであり、アドビはその実現のために、データ・モデル・インターフェースの3つのレイヤーにおいて技術革新を進めている。特にAIの学習データの品質や安全性を重視し、商業的に安全で信頼できるソリューションを提供することを強調した。
ナラヤン氏は、「AIは創造のプロセスを支援するものであり、人間のクリエイティビティを置き換えるものではない」という信念を持っているとも述べた。そのため、アドビのAI技術は、ユーザーの創造的なプロセスを強化し、より多くの人が簡単にクリエイティブな表現を行えるような設計がなされている。最終的に、アドビは今後もクリエイティブ業界の発展をリードし、クリエイターがより自由に創造できる環境を提供し続けることを目指していると語った。今回の発表では、AIを活用した新たなツールやサービスが紹介されたが、今後もさらなるイノベーションが期待される。
またナラヤン氏は、本イベントのキャッチコピー「Create magic.」に触れながら「私たちの使命は、すべての人に魔法のようなクリエイティブ体験を提供し、デジタルエクスペリエンスの未来を形作ることだ」と述べ、『Adobe MAX Japan 2025』のスターティング・スピーチを締めくくった。その後も本国のVP(ヴァイス・プレジデント)が登壇して様々な施策について詳細に語り、『Adobe MAX Japan 2025』の開催を祝福した。
基調講演を通して繰り返し語られたのは「AIの可能性、拡張性を拓いていく」という態度と、同時に懸念として浮上する不正利用・著作権侵害へ強く対処していくというクリアランスへの姿勢だ。AdobeはAIへの先駆的なアプローチと会社が標榜する「Creative for All」を同時に達成するという、難しい挑戦のフェイズに立っていると感じる講演だった。



























