超実用的ツール勢揃い! アドビの最新開発事例紹介『Adobe MAX 2025』Sneaks発表まとめ

『Adobe MAX 2025』Sneaks発表まとめ

 アドビによるクリエイターの祭典『Adobe MAX Japan 2025』が2月13日に開催された。アドビが提供する様々なツールやサービスを起点に、ユーザーや企業が集う、年に一度の祭典だ。

 そんなAdobe MAXの目玉といえば「Sneaks(スニークス)」だ。アドビが開発する、実用化前の最新技術の一端を覗き見ることができる。この日プレゼンターを努めたのは、米国アドビ テクニカルリサーチアーティストの伊藤大地氏。本稿では2025年のSneaksで発表された内容を紹介する。

動画に映り込んだノイズをフレーム単位できれいにお掃除 「Project Clean Machine」

 「Project Clean Machine」は、動画に一瞬映り込むフラッシュや障害物をAIによって消し去る技術だ。動画を撮影しているとき、カメラのフラッシュや、花火、雷の光によって、突発的に画面が白飛びしたり、意図せずフレアが映り込んでしまうことがある。一瞬だったとしても映像としての印象は大きく変わってしまうことだろう。

 そこで「Project Clean Machine」の登場だ。処理をかけたい動画データを読み込ませると、動画内のフラッシュが映り込んでいるフレームを自動で見つけ出し修正してくれるのだ。

 フラッシュがフレアになっていればそのまま消してくれるし、被写体に光が干渉するようなケースでも、フレアやフラッシュは消しつつ、全体の明るさ調整も行ってくれる。

 ちなみに光だけでなく、カメラの前を一瞬通りすぎる障害物もきれいに消してくれる。電車や自動車の車窓からの撮影もこれで完璧だ。

動画に使用する効果音は生成する時代へ「Project Super Sonic」

 「Project Super Sonic」は動画に合わせたオーディオデータを生成するツールだ。この日お披露目されたツール画面ではPremiere Proなどの映像編集ソフトのような作りになっており、中央にプレビュー画面、下半分はタイムライン、そして画面左側にプロンプト入力パネルが用意されていた。

 動画ファイルを読み込んだら、生成したいオーディオに合わせたプロンプトを入力する。たとえば森の中を流れる小川のアニメーションに川のせせらぎの音をつけるのなら「River in a forest(森の中を流れる川)」といった具合だ。するとあっという間に数パターンのオーディオファイルが生成されるので、気に入ったものを選べば効果音付きの映像が完成だ。

『Adobe MAX 2025』Sneaks / 「Project Super Sonic」

 面白いのは、レファレンスオーディオを使うことで生成するオーディオのタイミングと音量を調整できる点だ。今回のデモではプレゼンターの伊藤大地氏を模したアバターが、エネルギー波のようなものを打つアニメーションが使用された。伊藤氏はアニメーションを再生しながら、マイクを使ってリアルタイムにレファレンスオーディオの入力を行う。アバターの足踏みのタイミングに合わせて「たったっったっ」と発声。そしてエネルギー波を放つタイミングに合わせて声を発する。

 それぞれのパートごとに「Footsteps on a glass(芝生の上の足音)」「Fireball(火の玉)」といったプロンプトを入力すると、アニメーションにぴったりと合ったオーディオが数パターンずつ生成された。

『Adobe MAX 2025』Sneaks / 「Project Super Sonic」

 環境音や効果音は、録音するのも作るのも非常に難しく、高い技術はもちろん、相応の機材も必要となる。「Project Super Sonic」を使えば、簡易的ではあるが、誰もがサウンドデザインの世界に足を踏み入れることができるというわけだ。

この日一番の歓声 写真の合成はさらに“完璧”になる「Project Perfect Blend」

 「Project Perfect Blend」は、この日最も大きな歓声を浴びたツールだ。

 機能はいたってシンプル。「背景画像に人物などをいい感じに合成してくれる」というものだが、驚くべきは「光」を自在に操る精度だ。

 背景となる画像内の光源、光量などを把握し、合成するオブジェクト画像に適用する。光はどの角度からあたるのか、影はどの位置にどれぐらいの濃さで落ちるのか。まさに人間が考えながら作業していたようなことををAIが一瞬でやってのけるのだ。

合成するオブジェクト画像の光の色はもちろん、白飛び、黒つぶれなどもお構いなし。背景画像に池が写っている写真に飛ぶ鳥を合成すれば、水面には鳥の影が映る。もちろん人物の切り抜きもツール内で行ってくれるのでご安心を。とにかくこのツールを使いさえすれば“いい感じ”に合成してくれる。

 まるで最初から全く同じ場所で撮影したかのような仕上がりに、「欲しいー!」という歓声と、「そんなバカな!」と言わんばかりのどよめきで会場は溢れた。プロの現場におけるコストダウンはもちろん、素人のDIYデザインでも大いに役立つのではないだろうか。

Adobe MAXのSneaksで公開された開発中の新技術「Perfect Blend」がヤバすぎた #AdobeMAX #AdobeMAXJapan #Adobe #Sneaks

アニメーションを一瞬で生成する「Project In Motion」

 「Project In Motion」はシェイプAからシェイプBへ、滑らかに切り替えるアニメーションツールだ。デモでは、2月を意味する「衣更着(きさらぎ)」という単語の「更」の字から、シャツのようなフォルムへと切り替える様子が映された。

 もちろん、ただ滑らかに切り替わるだけではない。「更」の字の1画目の横棒を、シャツの袖の部分に当てはめたいとする。編集画面上に「更」とシャツ、2つのシェイプを表示させ、更の横棒とシャツの袖をマウスで描く線で結びつける。こうすることで、思い通りにシェイプをトランジションさせることができる。

『Adobe MAX 2025』Sneaks / 「Project In Motion」

 またアニメーションには様々な「スタイル」を、プロンプトやレファレンスデータを使い適用できる。例えば「Oil painting(油絵)」と入力すれば、あっという間に油絵風アニメーションの完成だ。

1枚しか描いてないはずのイラストが立体になる「Project Turntable」

 最後に紹介された「Project Turntable」はベクターデータで作ったイラストを回転させられるものだ。個人的に、「驚き」という意味ではこの日1番だった。

 なにはともあれこちらを見てほしい。

『Adobe MAX 2025』Sneaks / 「Project Turntable」

 ……おわかりいただけただろうか。元のデータはまごうことなき2Dのベクターデータによるイラストである。男女共に正面やや右を向いた姿しか描かれていない。

 ところが、「Project Turntable」の手にかかれば、3Dモデルのように平面のイラストのキャラクターを回転させ、キャラクターが向いている方向を変えることができる。なんと後ろを向かせることだってできてしまう。本来背中は描かれていないのにも関わらず、だ。

 回転は左右上下にかけることができるので、たとえば真横から見た植木のイラストを回転させ、斜め上から見下ろすような構図にもできる。「真横から見たイラスト」なので植木鉢の中は描かれていないはずだが、どういうわけか植木鉢の土まで再現されている。一体全体、AIはなにを読み取り、予測し、生成しているというのだろうか。摩訶不思議だ。

 「Project Turntable」は、3Dデータではなくあくまで「2Dのイラスト」として回転できるというのがミソだろう。これを応用すれば、イラストを1枚用意するだけで、ほぼ無限にバリエーションを生成できてしまう。

AIツールはさらに多くの人の手に

 今回発表された5つのツールは、どれも作業を効率化させるようなもので、これまでよりもさらに実践的なものだったように思う。想像力をプロンプトへ変換し画像や動画を生み出す『Adobe Firefly』を始めとするこれまでのAIツールよりも、AIの使い方としてはこちらの方が広く、多くの人にとって有用なツールになるのではないかと感じる。

 これらのツールは今後、『Photoshop』『Illustrator』『Premiere Pro』といった既存のソフトウェアに組み込まれていくことになるだろう。実用化が楽しみだ。

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