密かに話題を呼ぶ『エスケープ フロム ダッコフ』 ビジュアルとゲーム性のギャップに見る“正攻法のアプローチ”

『EFD』のビジュアルとゲーム性のギャップ

 1月24日に配信開始となった“とあるインディーゲーム”が話題を呼んでいる。そのタイトルの名は『Escape from Duckov(エスケープ フロム ダッコフ)』。中国のインディーディベロッパーによって開発されたアクションタイトルだ。

 なぜ『Escape from Duckov(エスケープ フロム ダッコフ)』は、決して注目度が高かったわけではないながら、現在の話題性を獲得するに至ったのか。ヒットの理由から人気作との類似性を考える。

中国のインディーディベロッパーによる見下ろし型のルートシューター

Scavenging Changed this Duck's Life - ESCAPE FROM DUCKOV Game Trailer

 『エスケープ フロム ダッコフ』は、中国のインディーディベロッパー・Team Sodaが開発を手掛ける見下ろし型のルートシューターだ。プレイヤーは愛くるしい姿の鳥を操作し、アイテムの収集、装備/拠点の強化などを繰り返しながら、不思議な夢の世界の真実を少しずつ解き明かしていく。

 特徴となっているのは、シューティングアクション、サバイバルクラフト、基地建設シム、ローグライクといった人気ジャンルのエッセンスを融合させた“いいとこどり”のゲーム性。名称から人気FPSタイトルの模倣作品であることを想像する人も多いだろうが、その実は、異なる部分も少なくない、独創性のあるタイトルとなっている。

 今回、配信開始となったのは、本編に含まれる5~10時間ほどの内容を先立って体験できるデモ版。2月10日までの期間限定での提供ではあるが、Steamを利用するすべてのプレイヤーがダウンロード/プレイできる。開発/発売元によると、正式リリースは2025年後半を予定しているとのこと。デモ版の配信によってユーザーから得られたフィードバックを、さらなる改良へと生かす計画だ。また、製品版には、新たなマップやアイテム、シナリオも追加されるという。執筆時点でSteamストアページには、600件強のユーザーレビューが寄せられ、うち91%が「おすすめ」としている。

ヒットの裏に外見と中身のギャップ。実は多い、同じアプローチの成功例

 リリース前の時点では、決して注目度が高いわけではなかった『エスケープ フロム ダッコフ』。しかしながら、冒頭にも述べたとおり、アンダーグラウンドで少しずつ話題を集めつつある。

 Steamで配信されているタイトルのさまざまな情報を閲覧できるサービス・SteamDBによると、初日には1,000ほどだった同時接続プレイヤー数が、2日後の1月26日には約3倍に急増。1週間以上が経過した現在も、ピークタイムには同等の水準で推移している状況がある。もちろんランキング上位の人気作たちに比べれば、取るに足らないほどの数字の変化であるのは間違いないのだが、ほぼ無名だったインディータイトルが初動を上回る反響を獲得していること自体が、ミクロな視点では興味深い動向と言えるのではないか。その裏には、「プレイヤーからの評判がよいこと」「上述の飛躍を踏まえ、メディアが取り上げ始めていること」なども影響しているのだろう。これらを起点に新たに手に取った層もポジティブな評価を下しているという好循環が生まれつつある。

 なぜ『エスケープ フロム ダッコフ』は、プレイヤーの心を掴むのか。その理由は、「愛くるしい鳥たちをメインアイコンに据えた親しみやすいビジュアル」「さまざまなトレンドジャンルを融合させた本格的なゲーム性」の対比にこそあると考える。

 Steamストアページに寄せられたユーザーレビューを見るかぎり、各プレイヤーが同タイトルを手に取ったきっかけはおおむね、「某人気FPSをオマージュした名称」「主役の鳥たちが醸し出すゆるい雰囲気」のどちらかへと着地する。言うなれば、これらは、ゲームの本質部分へと誘導するための“側(ガワ)”の導線であると言えるだろう。彼らのほとんどは、それらの要素が醸す気軽さを入り口に、過度に期待することなく、プレイへと至ったのではないだろうか。

 しかしながら、実際にゲームをスタートすると、なかなかに骨太な体験が彼らを待ち受けることになる。当然、なかには、そのギャップに悪い意味で打ちのめされ、継続を断念してしまった人もいるに違いない。とはいえ、モチーフとなっているFPSタイトルの存在を知っている人からすれば、この手のハードルの高さは大した問題ではなかったはずだ。それ以上に、遊び心にあふれるシステムの魅力に取り憑かれ、気づけば没頭してしまったという人が多かったと推測する。

 「親しみやすいビジュアルでプレイヤーを呼び込み、本格的でシビア、やりごたえのあるゲーム性で定着を狙う」。このようなコンセプトで展開され、一定の成功を手にしているタイトルは、ほかにも存在する。『Fall Guys』や『Fortnite』『Pokémon UNITE』などはその一例だ。これらのデザインにはそれぞれに、無骨なビジュアルを持つジャンルの競合やモチーフからの影響を感じ取れる。そのような建付けもまた、モチーフとされたタイトルと『エスケープ フロム ダッコフ』とのあいだにある関係性と同様であると考えられるのではないか。

 正式リリースに向けて、これ以上ないスタートを切ったと言える『エスケープ フロム ダッコフ』。デモ版の好評を生かし、製品版では、さらに中身のともなったタイトルとなることを期待したい。

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