ヒトの認知を“拡張”するAR作品にはなにが必要か 『Hyper Music Venue』受賞者×主催メンバー×審査員長らが語り合う

アイドルの“デジタルアーカイブ”は難しい? 儚さと寂しさの狭間で
ーー新たなファンコミュニティの形ですね。今回の作品群は、でんぱ組.incが遺したさまざまな作品のなかでもより“ライブ感”の高いコンテンツになるのかなと思います。ある種「アーカイブされたでんぱ組.inc」という見方もできるのかなと思いますが、『HMV』やChujoさんとしてはどういった考えを持っていますか?
Chujo:難しい質問ですね……(笑)。「アーティスト」という枠組みでいえば、そうしたレガシーを遺すという側面もありつつ、今回フィーチャリングしたでんぱ組.incはアイドルなので、ある種の“儚さ”というのも重要なファクターなんですよね……。逆に、僕もくろやなぎさんとTakashiさんの意見が聞いてみたいぐらいです。
Takashi:自分自身、作品を制作しているときに「アーカイブを作るぞ」という感覚は無かったです。もう制作中はとにかく必死で、とにかく良い作品にしたい、見た人を楽しませたい、という気持ちでいっぱいだったので……(笑)。
ただ、STYLYさんがXで受賞発表のポストをされたときに、メンバーの高咲陽菜さんが引用ポストをしてくださって。「ありがとうございます」という言葉をおっしゃっていただいたときに、自分もでんぱ組.incさんの歴史にちょっとだけ関わることができたんだな、と実感が湧きました。自分の作品がアーカイブと呼んでいいものなのかは分かりませんが、何か思い出として役に立てたのかな、って。
すごい!!!ネオンな宇宙空間とUFOみたいなライトが可愛くて好きです🛸
ありがとうございます🫶🏻✨ https://t.co/4qC4TLgL7i— 高咲陽菜 (@takasaki__hina) December 24, 2024
くろやなぎ:そういう意味では、今後アーカイブを前提としたアイドルみたいなコンセプトもありえそうですよね。たとえばデビューした頃の映像からボリュメトリックでアーカイブを蓄積していって、どんどん成長していくタイムラインを垣間見えるとか。同じ曲でも、こういう風に変化しているね、というような。
ーー面白そうですね。後年につれてどんどんパフォーマンスやダンスが安定していったり、洗練されていく、といった部分が可視化されていくと。
くろやなぎ:あと僕、今回のプロジェクトを通じてすごく興味が湧いたことがあるんですよ。作品の審査をさせていただくにあたって、いろんな作品をいろんな場所から見るために渋谷を歩き回っていたんですけど、実際に体験された人たちは「どこからこの作品を観たんだろう?」と思って。
子どもの視点ではどういう風にこのライブを観るのかな、とか、ファッション好きの人、男性、女性、ファンなどなど、属性とかトライブによって捉え方が違うので「みんなはどうしてたんだろう」というのがすごく気になっているんです。
Chujo:たしかに、それは気になりますね。動画などは定点ですから身体を動かしませんが、ボリュメトリックは身体を動かして視聴する、という点で明確に違いますからね。ARライブやボリュメトリックならではの部分です。
くろやなぎ:Chujoさんはどこから観るライブが好きでした?
Chujo:そうですね……、自分はちょっと距離があった方が良くて。あんまり近すぎてアイドルと目が合うと、緊張するので……(苦笑)。
Takashi・くろやなぎ:あー(笑)!
くろやなぎ:なるほど、わかります(笑)。
Chujo:そう! だから、ちょっと微妙に距離を離して、相手の領域に入らないところで自分が一方的に観るという。
ーー最前ではないところから観ると(笑)。
Chujo:はい、最前じゃないです(笑)。なんというか、恥ずかしがり屋なんでしょうね。
くろやなぎ:そういう意味で、今回の良かったところでいうと、でんぱ組.incのメンバーが巨大になっていたので、きっと体験者のことは視界に入っていないだろう、と思えたことですよね。気兼ねなく観ることができた。逆に、同じ目線に上がるためにビルに登ってみる……なんていうのも面白そうですよね。
ーーTakashiさんはきっと今回、Unityのシーン上でさまざまな場所をチェックしながら制作を進めたかと思うのですが、基準点みたいな場所は決めていたんですか?
Takashi:Unityのエディター上では一応、渋谷駅のハチ公口の交差点を渡る手前あたりを基準にしていました。ただ、結局「これは現地に行かないと分からないな」と感じたので、結局制作期間中は渋谷にたびたび足を運んで現地で確認していましたね。
応募の締め切り前ぐらい、制作後半の追い込みに至っては渋谷のコワーキングスペースを借りて、キリの良いところになったらすぐ見に行って、みたいな感じでした。

くろやなぎ:すごい! なるほどなあ、やっぱり熱量がスゴイですよ……!
Takashi:もう最終日に至っては、微修正をするのにいちいちコワーキングスペースに戻る時間も惜しくて、ハチ公の後ろでPCを開いて作業をしていました(笑)。その場で、この視点から見たらどうなるか、というのを意識して「UFOが大きすぎると、その上に3Dオブジェクトとして置いたハチ公が見えなくなっちゃうから小さくしよう」とか、バランス調整を最後まで……。
くろやなぎ:なんというか、自分も普段仕事の制作をしながら自主制作もしているので、似た部分を感じますね。すごくエネルギッシュだし、刺激を受けました。自分も頑張ろうと思わせてもらいました。
ーーそれは、審査員の方々に熱量も伝わりますよね……。作業してた場所がハチ公の裏ということは、ベストなポジションはやはりハチ公付近や信号前から見ることなんでしょうか?
Takashi:そうですね。ベストなポジションはやはりそこです。ただ、自分が個人的に好きなのは渋谷マークシティの自由通路ですね。
ーーマークシティが銀座線に乗るときに通る、岡本太郎の作品が壁面に飾られている場所ですね。どういった点がお気に入りなんでしょう。
Takashi:これは映像があるので、ぜひ観てもらいたいんですが、こんな感じになります。
くろやなぎ:おおー、すごい。全然違う! メンバーの腰ぐらいの高さですかね。下を歩いている人たちが、本当にライブを観に来たお客さんに見えますね。
Takashi:そうなんです。車が通っていない瞬間とかだと、本当に渋谷の街をステージにしてでんぱ組.incの方々が踊っているような感じがあって、すごく良いんです。その一方で、下を歩いている人たちには見えていないんだろうなという不思議な感覚もあって。
くろやなぎ:めちゃくちゃ規模のデカいライブに見えますね(笑)。
Chujo:こうして引きで観ると、作品全体も紙吹雪が落ちている演出も、全然印象が変わりますね。これはスゴい……! そうかあ、いや、これはちょっと現地でも観ようと思います。
ーーいや、本当にこれはスゴイです。もう一度観たくなりますね。それでは、最後にTakashiさんに今後の展望についてお伺いしたいと思います。これまでさまざまなVR・AI作品などを手がけてきて、コンテストやコンペにも積極的に参加してきたかと思いますが、今回AR作品で受賞したことでまた活動の幅が広がったのではないかと思います。今後の目標や、挑戦したいことはありますか?
Takashi:もともと、自分もなにか人の心を動かしたいという想いがあって活動してきたのですが、今回の『HMV』でAR作品を制作してよりその気持ちが強まりましたね。
直近でいうと、STYLYさんの「都市テンプレート」でつい最近公開された大阪城のデータも気になっています。ちょうど昨日(取材の前日)、STYLYさんが大阪城現地でやられていたイベント『AUGMENTED SITUATION D ~回遊する都市の夢~ powered by PLATEAU』にも足を運んで体験したのですが、すごく気になっています。ご当地キャラみたいなイメージで、その土地にマッチしたものや要素を盛り込んだ作品も作ってみたいと思っています。まだまだ3Dのことを勉強中の身ですが、今後もいろいろ学んで人の心を動かすような活動をしていきたいです!
■『NEWVIEW FEST 2024』開催情報
最優秀作品を受賞したHajime Takashi氏の『でんぱ組.inc LIVE at 宇宙渋谷ドーム』は、渋谷で開催されるXRアート/カルチャーの祭典「NEWVIEW FEST 2024」において、Apple Vision Proでの体験にアップデートされて展示されます。
会期:2025.2.7(Fri)- 2.11(Tue)
会場:Shibuya Sakura Stage「404 Not Found」
時間:11:00-21:00
参加費:無料
体験予約フォーム:https://www.jicoo.com/t/UDE0prSoT0Mi/e/_wwfOH2r
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