識者が予測する、2025年のAIトレンド OpenAI『Operator』の登場とゲーム生成AIの台頭で“生成AI法”は成立するか

動画生成AIの普及とゲーム生成AIの台頭
生成AIのなかには画像生成AIをはじめとするクリエイティブAIがあるのは周知の通りだが、2024年にはこれらのAIのうち動画生成AIが大きく進化した年であった。前述の通りOpenAIが『Sora』を一般公開しており、AIスタートアップのRunwayが提供する『Gen-3』はすでに高い知名度を得ている。
動画生成AIの商用利用は、すでに始まっている。アメリカ大手メディア・USA Todayが2024年11月に報じた(※7)ところによると、コカ・コーラのアメリカ法人は年末ホリデーシーズン向けに公開したYouTube動画広告「The Holiday Magic is coming.」の制作において動画生成AIを活用した。この動画は一部の視聴者の反発を招いたものも、大手企業による動画生成AI活用は2025年にはより活発になるだろう。
動画生成AIに続いて台頭が予想されるクリエイティブAIには、ゲーム生成AIが挙げられる。動画生成AIのSoraが『Minecraft』のプレイ動画を生成したことで注目されるようになったこれらのAIについては、Google傘下のDeepMindが昨年12月に『Genie 2』を発表した(※8)。
『Genie 2』とは、1枚の画像を入力すると、その画像に表現された世界観を反映した3Dゲームのプレイ環境を生成するAIである。例えば、宇宙船内のシーン画像を入力するとSF的なゲームプレイ環境が生成され、美しい森があるファンタジー調のシーン画像を入力すると3Dのファンタジー世界が生成される(本稿トップ画像を参照)。生成されたワールドは、キーボードから視点を操作することで移動することもできる。画像自体もテキスト入力から生成できるので、『Genie 2』を使えばテキスト入力から3Dワールドが生成できることになる。
Genie 2のほかに注目すべきゲーム生成AIとして、Googleらの研究チームが2024年10月に発表した『Unbounded』がある(※9)。このAIは一種のテキストアドベンチャーゲームを生成するのだが、プレイヤーの入力に対してほぼ無限にストーリーを展開できる。展開できるストーリーは短いものに限られるが、同AIはプレイヤーごとにパーソナライズされたストーリーを提供できるゲームの可能性を示唆している。
以上のような動向にもとづけば、2025年にはゲーム生成AIを活用した“新たなゲームジャンル”が誕生する可能性がある。そうした新ジャンルはゲーム共有プラットフォーム「Roblox」がさらに進化したものかも知れないし、ストーリーに加えてビジュアルやアイテムもパーソナライズされたアドベンチャーゲームかもしれない。
懸念される生成AIの悪用と整備が急がれる生成AI法
2024年には生成AIの普及が大いに進んだ一方で、負の側面が顕在化した。そうした負の側面の最たるものが、任意の人物画像からポルノ画像を生成する「ディープフェイクポルノ」だ。
読売新聞オンラインは2024年12月、ディープフェイクポルノの実態を調査した結果をまとめた記事を公開した(※10)。その記事によると、当該画像を生成できるとうたったサイト41件に関して、2023年12月から2024年11月までの国別のアクセス数を測定したところ、1位がアメリカの約5973万回、2位がインドの2457万回、そして3位が日本の1843万回であった。この結果により、日本においてディープフェイクポルノは決して他人事ではないことがわかる。
産経新聞オンライン版も2024年12月、ディープフェイクポルノに関する記事を公開した(※11)。この記事では、ディープフェイクポルノの素材として卒業アルバムの顔写真が悪用されている実態について報告している。卒業アルバムから個人情報が流出するリスクも懸念されるようになり、最近では卒業アルバムに個人写真を掲載するのを取りやめる動きが散見されるようになった、とも報じている。
以上のような生成AI悪用の対策として、日本における“生成AI政策の司令塔”とも言えるAI戦略会議は2024年12月26日、生成AIのリスクに対する制度的な取り組みの骨子をまとめた「中間とりまとめ(案)」を公開した(※12)。同案では、生成AIが出力したコンテンツの適正性を確保する方法として、電子透かしや作者等の来歴を記録した来歴証明に言及している。
TBS NEWS DIGが同案公開日に報じたところによると、同案は2025年の通常国会に法案として提出される見込みだ(※13)。さらに共同通信が2025年1月10日に公開した記事では、この法案に「AIを悪用した悪質な事業者の名称を公表する」という内容を盛り込む検討に入ったことを伝えている(※14)。
生成AIのリスクに立ち向かう取り組みは、国際的動向でも見られる。2025年2月10日と11日にフランス・パリで開催されるAIアクションサミット(※15)では、議題として「信頼できるAI」や「グローバルAIガバナンス」が設定されている。このサミットで、いよいよ生成AIのリスクに関する国際的な取り組みが発表されるかもしれない。
本稿では2024年のAI業界動向を振り返りながら、2025年におけるさまざまなAIトレンドを予想してきた。こうした予想をふまえると、2025年は2024年と“同等かそれ以上”に生成AIの影響を強く感じられる1年になると言えるだろう。
〈参考〉
(※1)Apple「iPhone、iPad、Macの中心にパワフルな生成モデルを据えるパーソナルインテリジェンスシステム、Apple Intelligenceが登場」:https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/06/introducing-apple-intelligence-for-iphone-ipad-and-mac/
(※2)Anthropic「Introducing computer use, a new Claude 3.5 Sonnet, and Claude 3.5 Haiku」:https://www.anthropic.com/news/3-5-models-and-computer-use
(※3)Google「Gemini 2.0: エージェント時代に向けた新しい AI モデル」:https://blog.google/intl/ja-jp/company-news/technology/google-gemini-ai-update-december-2024/
(※4)Microsoft「Introducing new agents in Microsoft 365」:https://techcommunity.microsoft.com/blog/microsoft365copilotblog/introducing-new-agents-in-microsoft-365/4296918
(※5)The Verge「OpenAI reportedly plans to launch an AI agent early next year」:https://www.theverge.com/2024/11/13/24295879/openai-agent-operator-autonomous-ai
(※6)OpenAI「Introducing Operator」:https://openai.com/index/introducing-operator/
(※7)USA Today「Coca-Cola's 'real magic' holiday ad, made with artificial intelligence, sparks backlash」:https://www.usatoday.com/story/tech/2024/11/21/coca-cola-ai-holiday-commercial-backlash/76477569007/
(※8)Google DeepMind「Genie 2: A large-scale foundation world model」:https://deepmind.google/discover/blog/genie-2-a-large-scale-foundation-world-model/
(※9)Googleほか「Unbounded: A Generative Infinite Game of Character Life Simulation」:https://generative-infinite-game.github.io/
(※10)読売新聞オンライン「AIによる性的な偽画像作成サイトへのアクセス、世界3番目1800万回…被害拡散の温床」:https://www.yomiuri.co.jp/national/20241228-OYT1T50177/
(※11)産経新聞オンライン版「広がるAI使った性的偽画像被害、狙われる卒アルの個人写真 載せない学校増える可能性も」:https://www.sankei.com/article/20241227-A2Z7VKCQYRCYLI6H3UERWGWKNI/
(※12)AI戦略会議(第12回)・AI制度研究会(第6回)※合同開催配布資料「AI戦略会議 AI制度研究会 中間とりまとめ(案)」:https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/12kai/12kai.html
(※13)TBS NEWS DIG「政府「AI戦略会議」 報告書には法整備の必要性など盛り込む 25年の通常国会に法案提出へ」:https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1640001
(※14)共同通信「悪質なAI事業者公表へ」:https://nordot.app/1250352401056874762
(※15)AIアクションサミット公式サイト:https://www.elysee.fr/en/sommet-pour-l-action-sur-l-ia

























