参拝客の“小銭離れ”が決定打に? 増上寺に聞く「PayPay賽銭」導入の裏側

増上寺に聞く「PayPay賽銭」導入の裏側

伝統的な文化×テクノロジーの考え方

 試しに、筆者もPayPayでお賽銭をしてみることに。

 QRコードを読み込むと、画面下部にがま口財布のイラストが出現する。金額を入力すると、「お気持ちを送る」という項目が表示され、そこをタップすると小銭のイラストが出現。

 投げ入れるように小銭が小さくなり、送金が完了。雪だるまのイラストとともに「お気持ちをお送りしました」とメッセージが表示された。

 普段のPayPayの支払い画面とは違い、イラストやテキストなどからお賽銭の雰囲気を感じ取ることができる。とはいえ、長年小銭を投げ入れる文化が当たり前だったということもあり、PayPay導入には戸惑う人もいたのではないだろうか。そんな疑問に対し、武智氏は「もちろん、戸惑われる方もなかにはいらっしゃると思います。ただ、新しい試みは始めてみないとわからないのも事実です。実際、現在の導入は試験的なものとなっています。とくに問題がなければ、このまま継続してPayPayの導入は続けていきますが、小銭でもPayPayでも、気持ちがあれば同じく供養していることに変わりはないと思います」と語った。

 続いて、武智氏はお賽銭のルーツについてこう説明した。

 「もともとお賽銭というのは、神や仏に感謝する気持ちをかたちにしたものです。昔はお金ではなく、お米や作物などをお供えしていました。あとは欲を喜んで捨てるという“喜捨”、お金という執着するものを手放す“浄財”という意味だったり、お賽銭は願いごとをするためのひとつの代償という意味もあります」(武智氏)

 昔から捧げる“モノ”は変化してきたが、大事なのは感謝を伝える気持ちなのだろう。テクノロジーが発達した現代において初めてそれが物体ではなくなったという点が、反響を集めた理由だろう。根本的に重要なのは、参拝者の変わらない気持ちということだ。

 そういった意味でも、増上寺はテクノロジーを活用して、どんな人でもお参りができる取り組みを実施している。武智氏曰く、これは「2022年から、TOPPANホールディングス株式会社さんと一緒に『オンライン初詣』というのを、介護施設向けに実施しています。Zoomで僧侶が御祈願をしている映像をつないで、施設にいながら参拝を体験できるという取り組み」なのだという。

PRTIMESより

 年齢や怪我、病気などで、実際にお寺に足を運ぶことが難しくなった人も大勢いるだろう。そういった人たちにとって、家や施設にいながらお参りができるというのは、現代ならではの取り組みなのではないだろうか。

 また、増上寺ではドローンショーやAR作品の展開など、テクノロジー関連のイベントも積極的に開催している。立地的に東京タワーとのコラボイベントの機会が多いようだが、ほかにもテクノロジーイベントを開催している理由があるという。

 「芝公園は、約1万5000人の方が通る動線になっている場所なんです。でも、オフィス街なのでお金を落とすところが意外とないんです。浅草寺などは仲見世通りがあってお買い物をするお客さんもたくさんいますが、ここは出店もほとんどないので」(武智氏)

 だからこそ、そんな条件下でもたくさんの人を楽しませることができるテクノロジーイベントには、増上寺はぴったりの場所なのだろう。増上寺は、参拝者に対しても、それ以外の人に対しても、テクノロジーを柔軟に取り入れ新たな事例を展開し続けている。改めて、テクノロジーに対してどう捉えているのか語ってもらった。

 「宗教というのは、コミュニケーションだと思っています。そのコミュニケーションツールとして、テクノロジーを今後も利用できるようにしていくことが必要なのかなと感じています。ただ、実体がないだけに倫理観や気持ちのバランスを取るのがなかなか難しかったりもしますので、ひとつの手段として捉えるのがいいのかなと思いますね」(武智氏)

 これはほかの分野においても言えることだろう。使い方次第では、テクノロジーは毒にも薬にもなる。

 増上寺は、都内でも有数の大寺院だ。だからこそ、率先して新たな技術を取り入れていくことには大きな意味がある。これから先、インターネットに慣れ親しんだ世代がシニア世代になったとき、また大きくお寺とテクノロジーの関係性には変化が訪れるのではないだろうか。日本の文化と最先端のテクノロジーはどう融合していくのか、今後の動向を追っていきたい。

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